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クーデターから逃げ延びた王女ですが、身分を捨てて幼馴染と生きることにしました~オルゴールのゆくえ〜  作者: 冬木ゆあ


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第5話 再会

 リリアンとニコラスは二日ほど森をさ迷い歩いていた。方角だけを頼りに、国境に向かっていたが、食べるものはなく、かろうじて川を見つけ、水だけは確保できていた。

 ふらつき、地面に手をついたリリアンに、ニコラスは振り返った。


「大丈夫か?」

「……少しだけ、休みたいです」


 ニコラスはリリアンの隣に腰を下ろした。


「あと少しだ。あと少しで国境につくはずだ」


 リリアンは俯いたままうなずいた。

 そこへ足音が近づいてきて、リリアンとニコラスは打たれたように立ち上がった。


「行くぞ、リリアン」


 ニコラスはリリアンの手を掴み、走り出した。リリアンは覚束ない足取りでついていく。


「いたぞ!」


 男の声が背後から聞こえた。リリアンは振り返ると、遠くに鎧姿の男の姿をとらえた。


 ――見つかった……!


 リリアンはニコラスの背に目を向け、必死に走った。けれど、背後の足音はどんどんと近づいてくる。


「私を置いてお逃げください! 殿下!」


 ニコラスは振り返り、リリアンに叫んだ。


「一緒に逃げ延びようと誓ったではないか! 馬鹿なことを言っていないで、とにかく走れ!」


 リリアンは呼吸がままならない中、うなずいた。

 追手の足音は増えていく。ひとりの騎士が、リリアンの手を掴んだ。リリアンは短い悲鳴を上げて、振り返ると、騎士が剣を振り上げていた。


 ――殺される……!


 リリアンがぎゅっと目を瞑ったときだった。


「リリアン!」


 こんなところで聞くはずもない声が聞こえ、リリアンは思わず瞳を開いた。

 二度と会えないと思っていた姿が駆けて、リリアンに剣を振り上げていた騎士は、ルークの剣を受けた。


「リリアン様、ニコラス殿下、お下がりください」


 ケイティもリリアンとニコラスの横を駆け、他の騎士に斬りかかった。


「ケイティ! ルーク!」


 リリアンの叫びに、ルークとケイティはうなずきながら、襲い掛かってくる騎士と剣を交えていた。ケイティは大けがを負っているにも関わらず、騎士を圧倒し、騎士たちは後ずさりした。


「それでも騎士か! かかってこい!」


 ケイティの叫びに、騎士たちは剣を握り締め、ケイティに剣を向けていく。それをケイティはほとんど返り討ちにした。

 一方、ルークは対峙している騎士に押されていた。ルークが苦しげな声を上げたとき、ケイティがルークを蹴飛ばした。


「どけ! 邪魔だ!」

「わぁ」


 ルークがこけている横で、ケイティはルークと対峙していた騎士を斬り伏せていた。そして、倒れているルークを見下ろした。


「お前、弱すぎる! よくそれで人に足手まといになるなと言えたな!」

「ケイティが強すぎるんだよ……。俺、鍛冶屋で剣は磨いていたけど、握ったのはここ一年くらいなんだから……」


 ケイティはふんと鼻を鳴らし、リリアンとニコラスを振り返った。二人はボロボロだったが、けがをしている様子はなく、ケイティはほっとした。


「ご無事でしたか……。よかった」


 リリアンはケイティとルークに駆け寄った。


「ルークがどうしてここにいるの……?」

「一年前に国境騎士団に入団して、今回、シュケルズ王国のクーデターの報を受けて、派兵されたんだ。リリアン、よくここまで逃げ延びたね。生きていてよかった……」


 リリアンはルークの胸に頭を寄せると、ルークは優しく抱きしめた。ケイティは追手の騎士たちが来た方向を見た。


「あまりゆっくりと再会を喜んでいる時間はない。行こう」


 ケイティが歩き出したので、それにリリアンとルーク、ニコラスは続いた。ニコラスはリリアンに声をかけた。


「彼は国境騎士団の団員だと言っていたな。ずいぶんと親しそうだが……」

「幼馴染なんです。私、十四までスーザの領主の娘として育っていて……」

「そうだったのか……」


 ケイティはリリアンとニコラスを振り返った。


「この先に、エリオット王国の国境騎士団が陣を張っています。そこまで行けば、安心です」


 リリアンとニコラスはほっとした表情を浮かべた。そのとき、リリアンはその場に崩れ落ちた。ニコラスは咄嗟にリリアンの腕を掴んだ。


「大丈夫か?」


 リリアンは疲れた表情でニコラスを見上げた。


「ほっとしたら、足の力が……」


 ニコラスがリリアンを背負おうとしたとき、ルークがそれを止めた。


「ニコラス殿下もお疲れでしょう? 俺が背負います」


 ルークはリリアンを背負い、歩き出した。その背中をニコラスはぐっとこらえ、見つめていた。


 しばらく歩くと、エリオット王国の国境騎士団の陣までたどり着いた。ジェームズはルークとケイティの姿を見つけ、他に二人一緒にいることに気がついた。ジェームズは駆け寄り、ニコラスの前にひざまずいた。


「ニコラス殿下とリリアン王女ですね。ご無事で何よりです」


 ニコラスはうなずき、ジェームズはルークの背に背負われているリリアンに目を向けた。


「リリアン王女は……」


 それにはルークが答えた。


「疲れているようです。テントに運びます」


 ジェームズはうなずき、一つのテントに案内した。


「こちらをお使いください。すぐに食事を用意しましょう」


 ジェームズはそう言って、テントをあとにした。ルークがリリアンを下ろし、リリアンはその場に座った。ケイティはリリアンの顔を覗き込むと、リリアンはケイティに抱きついて、涙を流した。ケイティはリリアンを抱きしめた。


「よく頑張りましたね。――ニコラス殿下、リリアン様を守っていただき、ありがとうございます」


 ニコラスはリリアンの隣に座り、首を横に振った。


「おれがリリアンに鼓舞された。ここまで逃げ延びることができたのは彼女がいたからだ」


 ニコラスは泣いているリリアンの背を優しく撫でた。


 リリアンとニコラスが食事をとり終えると、すぐに国境騎士団は国境に向け、移動をはじめた。荷馬車にリリアンとニコラスを乗せ、その周りを騎士たちが護衛として付き従っていた。

 夕刻前に、国境までたどり着いたが、そこにシュケルズ王国の騎士団の制服を着た一行が待ち受けていた。

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