3 坩堝学園の王子様 神話の当事者
「前に進んで〜。会長はもうすぐ到着ですよ〜」
これまた覇気のない声がした。
そこに居たのは。
「あ。ガンザ部長」
「よ。透宮。ん………?」
しまった。
声をかけると私の《透明》は解かれる。
そんな私を怪訝な顔で見つめる黒髪金の瞳の先輩。
ガンザ部長がそこにいた。
正しくはここではガンザ・グリフォン筆頭書記・会計官だ。
私が所属する《放送・音響サークル》の部長である。
あだ名は《文官》。
七三にピッチリと分かれた艶々の黒髪が彼の几帳面さを表している。けど。
「お。悪い顔してるなあ〜。
いいな。悪巧みする顔は」
ニヤリと笑い私のおでこをつついた。
ゲス顔をするし言葉はヤンキー口調だけど優しい先輩だ。
「うふふ。見届けてくださいね!後輩の覇道を!」
「いや。お前本気出したら俺見えんから」
私と話しながらもガンザ部長の手元の速記が唸っている。
金色の瞳の瞳孔が縦に裂けている彼は猛禽類の鷹族の獣人だ。
なんと驚くことに《グリフォン》。賢者のグリフォンと言えば幽玄異郷では知らない人がいない程の名家だ。
聞くところによると三年の《首席》らしい。
流石は賢者だ。
なのに気安い。モブに優しい。凄い人が部長で我がサークルは安泰である。
因みに彼の金色のボタンは《4肆》だ。すごできだ。
「ガンザ書記官〜?これも〜?」
ガンザ部長の背後から可愛らしい声がした。
「隙間時間で覚えろよ」
「え〜?この全校生徒の顔写真付きデータ?!全部?!」
「会長はやったぞ」
「りんは覚えることは規格外だから比べんなよ………」
よく見るとガンザ部長は何かを背負っていた。
両肩に紐があったのだ。
その背後に光の速さで資料を投げていた。
こっそりと覗く。
幼子がいた。何故おんぶ紐を背負っているのか。
後ろ向きに座るように背負われた幼子は資料を読んでいる。
「は!ガンザ先輩………子持ち………」
背後に流れる生徒の波に流されないように踏ん張る桃ちゃんと繋いだ手を思わず離して口を覆ってしまった。
桃ちゃんが息を切らしながら戻ってきてくれた。ごめんよ。桃ちゃん。優しい。
親友に謝りながらもガンザ部長に向き直った。
幼子がひょっこり顔を出す。似てない。嫁似だろうか。
とてつもない美女だろう。可愛らしいお子さんだったから。
「ちげぇわ。後継者だわ」
「なにガンザ書記官。空気と話してんの。もう耄碌した?」
「はあ?!お前らが使えるようになるまで引退できんわ。ボけぇ〜。琥珀。こいつ結構厄介だぞ」
こいつの顔写真一応覚えろよ。と私は顔を出すように促された。
生徒データの写真すらボヤけてるのだ。ボヤけた純度で姿を現した。
左右の生徒がギョッとしていた。
そりゃそうだ。透明だったものが見えたら驚くだろう。
目の前の幼子も目をかっぴらいている。
琥珀色の大きな瞳がこぼれ落ちそうだ。
琥珀色のくるくるの髪に大きな瞳。
ベビーフェイス美少年だ。
琥珀と呼ばれたから思い出した。
彼も雷クラスだ。いつも誰かの肩に乗っていた。
あまりにおんぶ紐が似合っていて絵面が強烈で結びつかなかった。
琥珀・ピアス。
彼は妖精族だろうか?それとも小人族だろうか。
入学基準に満たしているから年下なことはまずない。最低でも14歳だ。どう見ても幼子なのに。
そんな彼は資料と私を見比べて眉をひそめた。
それすら可愛らしい。
でてきた言葉は辛辣だったが。
「うわ。《幽霊族》?チートじゃん。
この娘に暗殺、策謀、スパイさせたらゴリ強だよ?えげつない能力持ちだな………」
「あ。我が家は《平和主義》です。悪しからず」
一瞬空気が止まった。
すぐ爆発したけど。
「はあ?!
利用される能力だっつってるんだよ?!
お前の意思を操作する能力あったらお前《駒》!
なにのほほんとしてるんだよ!!こえぇわ!!」
「へ」
「な?自覚してない所が面白れぇんだよ」
「ガンザ先輩、性格悪」
あ。これキレ散らかしているようで心配されてる。
琥珀くんはかわいいお顔と口は悪いけど優しい子みたいだ。ガンザ先輩が育てるだけある。
「大丈夫ですよ。我が家秘伝の《逃げ》の奥義があります。りん様を悲しませる事態にはしませんし、身は守れます」
「………………りんの厄介ほいほいの犠牲者か。
りんと気が合いそうだ。アホ加減が」
「そういうこと」
「ふ〜〜ん」
琥珀君の視線が私の右ポケットに流れて一瞬目が光った気がした。生きた心地がしない。
叫ぶしかない。
「りん様の魅力に吸い寄せられるのは光か闇か。
あぁ!!彼女はブラックホール!!デスティニー!!」
「こらこら。ポエムが口に出てるぞ」
「りん………あいつ。何人狂わせるんだよ」
「ま。上に立つものは悪評もないよりはある方がマシだからな」
「悪評は広報統括として止めろよ………」
背後から嘆きが聞こえるけど桃ちゃんに引っ張られながらガンザ部長に別れを告げた。
新たに思い出してしまって肝が冷えたのはその後しばらく経ってからだ。
琥珀・ピアス。
「構造解読」の持ち主だ。
有機物以外の物の構造を分析できる能力。
同士からその子から金剛の宮の材質を聞いたと書いてあったじゃないか。何故忘れていたのか。
他の雷クラスの面々が濃すぎるのだ。
ーーー持ち物検査的役割の人と話してしまった!?
青ざめるけど周りに気づかれていないはず。
だって透明なのだから。
でも。
また冷静になったら安堵した。
だって。
彼は私のポケットを見たのに止めなかったのだから。
目溢ししてくれたのか。
はたまた私の能力が彼の能力を上回ったのか。
ーーー疲れるから考えるのはやめた。
大事な事。
もうすぐりん様にお目通りすることだ。
もう胸が高まってドキドキが止まらない。
推しと近距離になるのだ。
興奮しないわけがない。
近づいている。それは確かだった。
だって。
ピンクと深紅の頭髪が見えたのだから。
《りん親衛隊》二大巨頭がそびえ立っている。
「おはようございま〜す」
これまたやる気のなさそうなだるそうな声かけをしている。
眠そうな目を擦りながらも身だしなみは整っていた。ピンク髪を無造作にセットしたピアスだらけの美丈夫。
岸 護と。
「おはよう!!」
覇気溢れる挨拶が風を震わす美女。
深紅の長い髪とシンメトリーの剃り上げが凛々しい女騎士。同士の澪 モルガンがいた。
その背後には《仕分け済み貢物可》と《仕分け済み貢物不可》が鎮座していた。
「ね」
「なに」
「雷クラスには《容姿端麗》が資格基準とかあるの?」
「それな」
会う人会う人美形。
皆がタイプの違う美男美女揃い。
どんな奇跡だろうか。
思わず拝みたくなった。
目が朝から潤っている。
「あれ。どんな基準なんだろ」
仕分け済み貢物不可の量があまりに多い。
仕分け済み貢物可にはーーーー。
「花………?とお菓子?」
桃ちゃんが呟いた。
そうなのだ。
それらが最高難易度の関門である。
「《枯れると勿体ないもの》《腐ると勿体ないもの》。
それらから《呪い》と《毒》がないかを最終的にリリス学園長が調べるのよ。そうしてやっとりん様の手元に届くの」
「消えもの………のみ?」
「腐らないもの高価な物は全部《孤児院運営のための寄付》に回されるの。ファンクラブ規定にも定められているわ。常識よ」
「捨てられるよりは………マシ………。いや。優しい仕組みだ」
綺羅びやかな宝石を突っ返されている男子生徒が泣き叫んでいる。
その傍らではちんまりしたラッピングのクッキーは通されている。花束もだ。
泣いていた男子生徒は寄付に回されることは惜しかったのかプレゼントを引っ込めていた。
「寄付する度量もないのか。器の狭いやつめ」
「まあまあ。
諦めろよ。りんはさ。プレゼントの豪華さに釣られる女じゃないんだ。寧ろ花壇いじり手伝ったほうが喜ぶぜ?」
澪の言葉はキレキレだ。
言ってることは正論だし求婚するためのプレゼントをどう扱おうが女の勝手だ。
そこに文句を言うのは確かに幽玄異郷の民の男としても不合格だ。
泣く男子生徒を慰めるように肩を叩くのは岸だ。
岸 護はりん様と共に来た《現し世人類》だ。
彼にもりん様程ではないが貢物も女生徒のファンが群がっている。
「花と食べ物は《気持ち》だから受け取るんだって」
「え………?
普通《高価なものこそ価値ある貢物》だよ?
愛も忠誠心も気持ちも《お金に換算出来る》ものこそ価値があるのに?」
そうなのだ。
幽玄異郷は弱肉強食。
しかも女は《希少》。
だって男8割、女2割だから。
力は男が優るけど倫理が女を優遇する世界。
希少な子供を育む能力のない男は女には絶対敵わないのだ。
現し世人類は女も男も平等らしい。
そっちのほうがどうかしていると思う。
少なくとも恋愛面と結婚面では女が上。選ぶ側。
これは変わらない。
「うん。りん様の思想は摩訶不思議だよね。
でもそこは尊重しないとね」
「結婚願望なしの性別《無》でこれかあ………」
結婚願望なし。
これは恋愛至上主義の幽玄異郷では異物だ。
子供判定か不能か神格化か。判断は分かれる。
りん様の場合あまりに彼女が魅力的なのが世間に知れ渡ってしまった。
神格化も所有欲も両立する存在になってしまったのだ。
「りん様は………好きで目立ちたいわけではないのだ。
意図せず。他者をおもんばかると身体が前に動く方。
世界があの方を欲してしまうのだ。浅ましい………。
りん様は《普通》と《平凡》こそ………幸せなのにと。
いじらしい………。
ああ。私のこの重苦しい忠誠心すらりん様の憂いになる!!」
嘆いていた同士の言葉をリフレインする。
そのために私はここにいる。
モブの私が。
ここが佳境だ。
まず作戦はこうだ。
「手作りです。
平凡を愛するりん様には絶対に必要なものです。
価値はありません。売れません。
りん様にしか使いこなせないものです
リリス学園長の検査もお願いしてください」と同士に託すのだ。
そう告げたら桃ちゃんがのけぞった。
彼女は驚くと身体が動くタイプだ。
叫ぶより動作に出る。
可愛らしい女の子だ。
「え。直接渡したいんじゃなかったの」
ならなんで事前の《貢物列》に並ばなかったのかと。
そりゃそうだ。
私の貢物がただの貢物ならそんな苦労はしない。
「直接接触は解釈違いなの。挨拶はしたいけど。
それに貢物不可になる確率が他の雷クラスの面々に託したら上がるの。私の信仰心を分かってくれる同士にしか渡せないの。
遠くから見たいけど挨拶もしたい。
認識されなくていいけど視線は欲しい。
褒められたいんじゃないの。役に立ちたいだけなの。
私はあの人の酸素になるのが夢なの!!
空気に!!壁に!!床に!!
この複雑怪奇な信仰心をわかってくれる同士に!!」
「狂った信仰心だね」
「ありがと」
「褒めてはいない」
前方100メートル程で悲鳴が上がった。
地面が揺れるほどの興奮が前から波のように流れてきたのだ。
「りん様〜!?」
「え。こんな早くからいらしていたの?」
「最初の握手は私よ!!」
「みえない!!あっち寄って!!」
「「皆さん!落ち着いてください!」」
もうこの光景は朝の恒例行事だ。
どんなに生徒会役員と教諭まで駆り出して統制をした所でその更に上の《カリスマ》には敵わない。
地が割れた天は分かたれた。
異形の者も含めた人垣は唸る。
朝が始まったのだ。
「な?!私の想定より早いわ?!」
驚愕した。
だって《生徒会長》は特権階級だ。
ここ100年もなかった役職だから一般生徒には浸透してないけど他校では《教諭相当》の自由と権限が赦されている。
例に挙げれば名門三校の一つ《》の生徒会長は登校するのも不定期。
実技、座学はトップクラスだからと授業は受けることなく自由と権力のままに生徒達を率いているらしい。
真面目に登校する権力者が稀である。
そこがりん様の良さでもある。
遠くからアルトの調べが鼓膜を震わせた。
「私悲鳴でなんも聞こえないんだが」
桃ちゃんが私の幻聴を疑っている。
でも聞こえるのだ。
彼女の声を聞き漏らしたことなど私は一度もない。
1キロ先でも声だけで存在だけは確認できると断言したい。
「ストーカーに向きすぎててこわ」
「ありがと」
「褒めてないし」
アルトの調べは少し困惑しているようだった。
そんな揺らぎすら神々しい。
「あれれ。
ごめんごめん………。また遅刻しちゃった。
おはようございます〜」
「遅れてません。愚民どもが早すぎるのです。
出待ちのマナーを守らないものに気を割くことはございませんよ」
「ふあ………。下っ端の俺等が早いのは仕方ないにしても。
登校時間一時間前からの行列は度肝を抜くなあ………」
ピンク頭の岸君と深紅の髪の澪さんが隣立ち迎え入れた光。
《虹色の聖女様》の降臨は突然すぎて私の頭はフラッシュした。
教諭入り口側から乗り付けたらしい立派な《魔馬車》。
凶暴な魔馬を巧みに鞭でさばく美執事、白哉さんが優美な所作で扉を開いた。
美執事。
彼女の家族はリリス学園長といい美形が過ぎる。
オレンジの耳、縞模様の尻尾から虎の獣人族なことはわかるが無ぞ多きお人だ。
リリス学園長の執事でもあり補佐てもあり護衛でもある。
そんな彼女が侍るお方。
扉は開いた。
そこから漏れ出したのだ。後光が。
ふわりと花に織り立つ蝶のような所作でコツリとニーハイブーツの音が木霊した。
空気が割れた。
現身したのだ。神話が。
「くっ………目が目が………」
「麗しい………」
「りん様〜お嫁にして〜!!」
「素敵〜!生徒会長!!」
左右の「側近」(りん様は仲良し同盟なるものを組織したらしい)に満面の笑みで言葉を交わしながら彼女は姿を現した。
ふわふわの濃い蜂蜜色とナッツを合わせたような色合いのボブヘアが風に靡いた。キラキラ光したものが振り撒かれた気がした。
靡いた先の風下の生徒がたおれた。
幸せな香りを嗅いだに違いない。合掌した。
けぶるまつ毛が伏せられた一瞬神秘的に輝いていた瞳は地球と宇宙と森林を合わせて虹色を散らしたような《アースカラー》だ。
170センチの細身のしなやかな躯体は影すらも美しい。
控えめな話し声も清楚な曲線の眉も、小さめの唇すら動く度に輝く。
「待って待って待って………。
りん様の美しさに磨きがかかっているわ?!
艶々の光度が上がってる?!」
「あ〜〜。
無垢さが最近洗練されたよね………。
恋でもしたんかね?」
私は刮目した。
「恋愛は自由よ。りん様の幸せの先には多様な可能性があるわ。信仰対象に清廉潔白さも過度な順審査は求めるのはご法度よ。でも何故かしら。彼女の美への努力や成果を有象無象の何処かの鳥の成果にされるのは解釈違いなのよ。洗練さも美しさも他者のためとは限らないじゃないの。この恋愛至上主義の世の中に一陣の風を吹かせたあのりん様よ?そんな原始的な低俗な欲の果ての変化かしら?りん様は恋愛ごとが疎い方なのよ?それらは憧れや尊敬の純粋な心持ちかもしれないじゃない。邪推することは罪なのでは?
でもそれはそれで恋する乙女のあの式典に見せた麗しい赤らんだご尊顔の説明はつかないわ………。どこの鳥なのよあの《白銀の紳士》は。ならびたつ姿がお似合いすぎて最早許嫁なんて噂もあるじゃないの………?そんな低俗な噂を同志にすら聞けないし。それにしても毎日麗しさがカンストしてて私狂い踊りそう!!!」
「うわ………………あれ?ほっちゃん?どこ?あれ?
ブツブツ呟く声はするのに………あれ?ほっちゃん?!どこ!?」
桃ちゃんの呆れたような焦ったような声がした。
ブツブツ呟く私は気づかなかったのだ。
自身の変化を。
桃ちゃんの声すら空気に溶け出した。
りん様が笑った。殺傷力の高い陽の光を浴びて目を瞑り幸せそうに倒れる人がまたでた。
それらは教護班が粛々と運び出す。踏まれると危ないからね。統率が取れた列が続く。喧騒もさっきより静かになった。
どんどん彼女に群衆が礼儀正しく近づいていく。
前にりん様に抱きつこうとした不届者は澪さんと岸君と星君に血祭りにあげられ晒し者にされたから追随する者はいない。あの時の青ざめたりん様は痛ましかった。彼女は自身のために傷つく民すら憐れみ心配するのだ。
危うく彼女はお隠れになり《朝の挨拶運動》なるファンサービスイベントは立ち消えになる所だった。
迷惑かける輩は罪深い。万死だ万死。存在よ消えてしまえ。
やっとのことで《りん様を愛で隊》同士の澪さんの所に辿り着けた。彼女も気合を入れて深紅の髪をポニーテールテールにしている。凛々しい。立派だ。
彼女くらい強く自信があったら。
りん様の隣に堂々と立てるのだ。誇らしい。
「同士よ。同士………。貢物を預かってもらいたく………」
「ふむ………?その声はたてまつこ。
んむ………?どこだ。たてまつりこよ」
私はひたすら澪さんに話しかけた。
しかし彼女の視線が私の前を左右に滑る。
視線が定まらないし首を傾げている。
彼女まで輝いて見えた。
視界がどんどん光り輝いていた。
頭がくらくらする。
りん様が振り向いた。
バチリ。
目が合った。
彼女の溢れるばかりの虹色の宝石がまん丸になった。
「救護班!!
視認不可生徒体調不良!!
至急サチおばあちゃんに連絡を!!
繰り返す。
救護班!!
視認不可生徒体調不良!!視認ゴーグルを用意の上………ああ!!
間に合わない。待って!!皆さん踏まないで!!
そこに人がいます!!
奉子ちゃん?!大丈夫?!
顔色真っ青………奉子ちゃん?!しっかりして?!」
「ど………どこですか?りん様」
澪さんがオロオロしながら床を触っている。
そっちは私のいないほうだよ。
笑いたいのに空気が漏れただけだった。
「ああ………。イーテディ先輩呼んで!!
この子意識なくすと存在薄くなるの!!視認出来ないと触れない!!
ああ!!待ってらんない!!
ふん!!えい!!通ります!!道を開けて!!
《翼よ!!我のもの!!》ああ!!翼出るの遅い!!走るよ!!」
優しい手つきでフワリと身体が浮いた。
彼女の手はひんやりとしていた。
焦りでいつも温かなはずの指先が強張っているようだった。
険しい顔をしてもりん様は麗しかった。
朧げな意識の中後悔したのは自分の身体を大事にしなかったこと。
そうだ。
私は私をモブと呼ぶけど。
りん様の世界では大切な《お友達》のなかの一人なのだ。
恐れ多くて遠慮して距離をとりたい。尊死案件だ。
「りん………様」
「奉子ちゃん?!桃ちゃんも一緒に救護室に!!」
「は………はい!!」
身体が殆んど振動しない。
羽のようにふんわりとした暖かさに抱かれながら私は意識を手放した。




