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第一話 領主の娘エピローグ


あの呪われた人形を発端とした事件は一端の終末を迎える。


俺はいつも通りの日常に戻り、今日も閑古鳥の無く店で優雅に読書をしている。マリィは珍しく訪ねてきた友人と、近所のスイーツ店で買って帰ってきたお菓子を食べながら談笑している。


「マリィ様。本当においしいですわね。このクッキー。」


「ですよねぇ。何でも王都で修行されたご主人が、素材を求めて居付いたらしいですよ?いい所ですねアグルース領って。」


「ありがとうございます。」


俺の店で談笑するこの少女は、何を隠そうアグルース辺境伯の一人娘、シスレア=アグルースその人だ。

あの後、辺境伯に言われるがまま、彼女と会ったらマリィと意気投合して、友達になったようだ。


シスレアは呪術具を渡したのが、長く知り合いだったデルタスだったこともあって、人間不信に陥りかけていたところをマリィに絆されたらしい。


そんな彼女がなぜここにいるかというと、あの事件の終末を護衛と共に教えに来てくれたのだった。


「当時、呪術師殿にあの人形を依頼して正解でした。何となく呪いが分かる程度の私では何もできませんでしたから。こうしてお嬢様に笑顔が戻ったのが何よりも素晴らしいことです。」


「セルバス、お前は辺境伯についていなくていいのか?」


「ええ。王都で情報収集に動いていた者が戻りまして、せっかくなので私は引退して余生はお嬢様の護衛として過ごすことにしました。」


「なるほどな。」


セルバスに何を言っても無駄だと考えた俺は無言で報告書を読むことにした。これには今回の簡単な説明が書かれている。


これによると、どうやら黒幕の貴族は辺境伯の子供を殺し、後継者がいなくなったところに、その貴族の息のかかった、辺境伯の親戚をねじ込むつもりだったらしい。

無駄に複雑で、気の長い話だが、ずっと敵対し続けていた貴族だったからか、確実な手を取りたかったんだと。


まぁ、仕掛けようとして逆に引きずり降ろされて強制的に田舎で静養させられることになったのには、同情すらできんな。

いくら自分の一族の悲願とは言え、他人の子供、それもまだ十五歳の娘を呪い殺そうなんてまともな所業ではない。まぁ辺境伯の工作によって息子と世代交代させられてちゃ世話ないか。


さて、こんな貴族の衰退話なんて正直どうでも良くて、俺が気になるのは件の呪術師の居場所だ。

あれだけの技術を持っている呪術師が野放しになっているのは危険だと辺境伯には忠告してあるので探してもらったのだが、結局、最後まで見つかることはなかった。


辺境伯と敵対していた貴族は最後にその呪術師をどこに隠したのかは一切語らずに隠居したらしい。

その貴族の息子にも協力させて探したらしいが、どこにもいなかったのだそうだ。隠居する際にも身一つで隠居したらしいし、本当にどこに言ったのか。


「それにしてもお仕事はなさらないので?」


俺が物思いに更けているとセルバスがそう言ってきた。俺としてはする仕事がないというのが本当の所なのだが、セルバスはガラクタが放り込まれた籠を指さして言う。


「あちらは呪われた品なのでしょう?」


「解呪はしたいときにするのが俺の主義だ。」


「そうですか。ではできる時にしておきましょうか。お嬢様が出入りする場所ですし。」


セルバスが俺の机の上に籠のまま、ドスンと乗せる。確かに呪いにかかった患者がいるところに呪われた品を置いておくのは良くないかもしれない。


俺はため息を吐いて、しぶしぶ解呪を開始する。


「はぁ~、俺はのんびり店をやりたかっただけなんだがなぁ。」


忙しなく動く手をぼんやりと眺めながら、別のことを考える。


件の呪術師か。俺の店に来てくれないかね。主に手伝いとして。


「む?先生!」


「あ?ああ。分かった。」


俺はマリィの声に反応してすぐに理解するといつもの暗い緑色のローブを羽織ると処置室に移動する。


「先生!神殿からの患者さんです~!男性、症状は急な発熱、右腕の急速な黒化、だそうです!」


「ふむ、発熱は腕が変質したことによる副作用だろうな。・・・『黒化する』呪いだな。進行具合からして一日程度か。まだ腐ってはいないし、大丈夫だろう。<移せ>」


俺はいつものように手袋を外し呪術を発動する。見る見るうちに呪いが移り、俺の右腕が黒くなっていく。ふむ、効果は打ち消せても、色は出るのか。興味深いな。


「だが、まぁ、これは経験済みだ。俺には効かん。フンッ。」


俺は呪いを解呪すると腕を二度ほど振って調子を確かめる。きっと、患者は優秀なのだろう。優秀故に妬まれて利き腕を呪われた。


どこにでもいるもんだな。呪術なんて誰にでもできるが、手を出してはいけない領域なのかもしれない。


「処置は完了だ。すぐに目を覚ますだろう。」


熱が下がった男はその日の夕方には目を覚まして帰っていく。支払いは神殿を通されるだろう。いくらか抜かれるだろう。神殿は呪術師を嫌っているからな。


神殿はできるだけ呪術師が誕生しないように手をまわしている節がある。一人でやるには手が足りないこともあるというのに、厄介な縄張り意識のせいだ。


なんていうか、切実に件の呪術師には俺の店に来てほしくなる。


「先生?またスイーツ奢ってくださいね?今度はシスレアさんも一緒に。」


はぁ、この図々しい助手と交換でもいいなぁ。













拙作を読んでいただきありがとうございます.

いかがでしたでしょうか?次話は書きあがりましたら投稿します。


評価ブックマーク、感想、誤字報告等、ありがとうございます。また、励みになりますのでお待ちしております。

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