下
「リサ・ナブリューシュ!ステファーナ・……なんだっけ、とにかく、断罪してやるわ!」
「くっ、また食べ損ねるのか」
「我慢なさいな、リサ。デザートだけ取っておいてもらっているわ」
「流石ステラ!ありがとう!」
「うふふ」
「本当に甘いの好きだよね、リサは。今度僕と……」
「ちょ、ちょっと聞いてるの!?」
「それで、何を断罪する気だ?」
「アルさま、ありがとうございます!」
「セーラエリル嬢、そもそも断罪とは何か知っているか?今引くならまだ無かったことに出来る、と言いたかっただけだ」
(アル青筋浮いてる……呼び捨てだしねー不躾罪確定)
「早く言いなよ」
(ロイ笑顔だけど目から黒いもの溢れてるよ……話途中で遮られちゃったから)
「んなっ」
「早くしなさいな」
(ステラ……最後までセーラが動かないこと願ってたけど、名前覚えられてなくてマジギレだ)
「よくもわたしのこと虐めてくれたわね!いじわる言ったり持ち物隠したりわざと転ばせて階段から落として」
「証拠は?」
「ロイきゅ…ロイスダール殿下はご存知でしょう?四六時中一緒にいてくれたもの」
(やっべ、笑うとこだった。出ちゃったよ、ロイきゅん。しっかもいじわるって)
「知らないよ。ベタベタくっついてきて離れなかっただけで気にしてなかったし?そもそも淫らに足をひけらかしたり横柄な態度を改めさせようとするのは虐めとは言わない」
「そうだな。身分の関係ない学園内での行為は咎められないが、一歩出たら即不躾罪となり得る。教えてくれる者がいて良かったとすら思うが」
(テンプレにテンプレ返し。セーラエリルは……)
「しょ、証人が!ねぇ、見てたよね!?」
(あまり異世界恋愛モノに詳しくないのか。残念だけど。ここで出てくる人なんているわけないじゃん、そんな事実ないし。そもそも王族に反抗的って目をつけられた貴族は没落決定だよn。)
「……いないようだな」
「そ、そんな……上手くいかないわけないのに……」
(何の自信でどこから来るんだよ、それ。もー、仕方ないなぁ)
「セーラエリルさん、大丈夫……ではなさそうね。魅了系魔法の影響下にある可能性もあるわ。アルファート殿下、ロイスダール殿下、手伝って下さい。個室に連れて行きたいの」
「あ、ああ、わかった」
「僕のリサは本当に……仕方ないなぁ」
「お騒がせしましたわ、皆様。聖属性魔法が得意なリサ様がいるのでご安心下さい。私共は少々席をはずしますが、どうぞダンスをお楽しみ下さいませ」
(項垂れていてくれて良かった。ナイスフォローだよステラ)
「さてリサ、どうするつもり?」
「どうするって?」
「これからよ」
「そうだよねぇ。とりあえず、アルもロイもステラも、乗っかってフォローしてくれてありがとう」
「もー、本当に僕のリサってば優しくて可愛いんだから。大好きだよぅ。ぎゅーっ」
「ロイ、離してあげなさいな。話も進められないしセーラエリルを刺激しないの」
「そうだぞ。真面目な話、リサの"魅了系魔法"に説得力はあるが、それを押し通すとすればまた国際問題が起こり得る。元凶を突き止める必要も出るしな」
「アル、あくまで"可能性"ってだけで本物の"魅了系魔法"とは言ってないよ。セーラエリルさんの"強制力"と"思い込み"。これってある意味魅了系でしょ?ステラも見に覚えあるんじゃない?」
「……言い得て妙だわ。前世のラノベに魅了され取りつかれている、か」
「ねぇ、セーラエリルさん。以前にもお話したけど、これはゲームでもラノベでもない、現在進行形でわたし達には現実なんだよ」
「……聞いてないわ」
「そうだった、言う前にざまぁヒロイン扱いされて見事なガッツポーズして去っていったんだっけ」
「そうよ!なんであんたなんかがロイきゅんの」
「ロイきゅん、だって?あんた、なんか?」
「ぶぶっ……ろ、ろいきゅ……」
「黙れアル兄。俺のリサを…むごご」
「はいはい、わたしは気にしてないからねー。ちょっと黙っててね、ロイ」
「リサ最強ね」
「ステラ、茶々いれないで言っておきたいことない?」
「ふぅ……わかったわよ。悪いけど言葉を選べないわ、覚悟して聞いて。
王族とはいえ多数いる側室に兄姉弟。その中でも一番身分の低い母にどうでもいい末っ子女児でありながら、きょうだいの中では綺麗目な容姿。王宮での生活は兄弟ごたごたややっかみだけで、あるのは寂しさだけ、ってとこかしら」
「どうして……」
「セオリーでしょ。そんな中思い出した前世の記憶。もうすぐ、あと少しで自分が主役、ロイスダールと幸せになれる。それを糧にして生きてきた。何もせず努力も世間も知らないまま。でもいざ本を開いてみると全然違う」
「なんで俺がそんなこと…むぐぐ」
「もうちょっとまってねー、ロイ」
「はぁ……続けるわよ。私とリサがお互いに破滅フラグと向き合って叩き折った結果、あなたのスタート地点が変わってしまったの。そのことに関しては話したよね?忠告もした。全く聞く耳持たなかったのはセーラエリルよ」
「そんな……」
「ゲーム時間軸も終了したし、もうあなたは自由よ」
「自由、か。そうだな、セーラエリル嬢の国も落ち着いたしな」
「え?」
「知らなかったのか?ステラとリサが父上と母上に直談判、内乱もなく今は第一皇子が王位に就いている」
「皆が協力したからだよ」
「謙虚なリサも可愛い」
「治癒魔法がなければまた過労死だったわね」
「ふふ、皆ごめんね、ありがとう」
「平和とリサのためですもの、こちらこそありがとう」
「リサ…もぐぐぐ」
「それで、セーラエリル嬢はどうする?」
「アル、どうしたい?って聞いてあげて。あのね、ロイはあげられないけど居場所を作る手助けはできるから。さっきの断罪騒動は揉み消し……じゃなく魅了っぽいものにかかったって言えばここにいられるし、もうごたごたおさまったから国に帰っても大丈夫なんだよ。選んでいいの、未来を」
「未来……」
「あの時はちょっとクサかったかな」
「そうね、でもリサらしくて素敵よ」
「皆わたしのこと甘やかしすぎ」
「甘やかしたくなるんですもの、仕方ないわ」
「もー」
「それにしても、何とかなって良かったわ」
「断罪もざまぁもフラグもラノベもこりごり。あの後のロイにももうこりごりだけど」
「ちょっと待っててって言ったのはリサじゃない。口まで押さえて押し倒し……」
「押し倒してはいないからね!?リサこそあっさりさっくり逃げやがって」
「腹黒はお腹に隠しておいて。ロイそっくりでお似合いよ」
「アルもステラもさっぱりすぎ。淡白だよね」
「そうかしら」
「もー、ステラってば」
「もーもー牛になってる場合じゃなくてよ。ほら、笑って」
「ステラもね、泣かないでよ」
「リサこそ。どっちかが泣いたらもらい泣きで」
「「化粧がくずれる」」
二人は純白のドレスに身を包み、心地よいパイプオルガンの音色と共にゆっくり赤い絨毯の上を歩く。長いベールを引きずりながら。
先導するのは、パールピンクのドレスの黒目黒髪の女性といかにも脳筋な男性。小突き合ってはいるが距離の近さから仲が良いのが見てとれる。
その先に待つ、白い豪華な燕尾服の男性二人。
薬指に刻まれた約束の花に白銀の指輪を乗せると、祝福の光が辺り一面に舞い上がる―――
「ステラ、もう続編はないよね?」
「あるわけないでしょ、リサ」
「え?子ども達の……」
「「やめて、セーラ」」
「最後に聞いていい?ステラ」
「何かしら」
「ステラの元名字。何侯爵家?」
「……」
end
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