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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
8章 『砕け星屑の剣を』編
544/820

第536話 14歳(夏)…お誕生日会

今回は2話同時更新。

こちらは1/2です。

 一週間ほど養生したことでおれの体調はだいぶ回復した。

 それから念のため三日ほど様子を見ることになり、もう大丈夫と判断されたところでアレサと合同の誕生日会が催されることになったのだが……、何かおかしい。

 なんかみんな朝から訓練場で作業を始めている。


「シアさんや、シアさんや、どうしてミーネは訓練場に土のテーブルを幾つも用意してるん? どうしてみんなはそこにテーブルクロスをかけたり飾りつけしてるん?」

「ご主人さまが療養している間に話し合いがありまして、せっかくなので少し豪華なパーティーにすることになったんですよ。始まるのは夕方ですから、ご主人さまはそれまでのんびりしていてください」

「え、ええぇ……、おれもっとささやかに行うものとばかり思ってたんだけど……」

「サプライズってやつですね」

「いやそれちょっと違うのでは……」

「まあ準備も進んじゃってるんで諦めてください」


 それからも準備は進み、やがて誕生日会が開始される夕方となった。

 この誕生日会の司会は何故かシアだ。

 まあ司会といっても誕生日会の開始、それから終了の宣言くらいのものらしいが。

 誕生日会には屋敷の者だけでなく、招待した者、あとついでに親睦を深めようとご近所さんにも参加してもらっている。

 これまで以上に話題の人となったおれだが、ご近所さんは特にこれまでと変わった様子はなく、妙にすり寄ったりはしてこなかった。


「そりゃ近くに住んでますからね。超常な屋敷に住んでいる人の機嫌を損ねるなんて馬鹿な真似はしませんよ。もうそのあたりは達観しちゃってるんです」

「なあ、おれ、一度謝っておいた方がいいかな……?」

「謝るよりも、こうやってもてなして『恐くないですよー』ってアピールした方がいいですねー」

「そ、そうか……」


 うん、ご近所さんにはあれだ、ぬいぐるみが給仕をするようなよくわからないパーティーだがなるべく楽しんでいってもらいたい。

 やがてそろそろパーティーが始まるとなり、集まった人々の前に立つのは主役となるおれとアレサ、それから司会のシア、あと気づいたら足元にいたバスカーである。


「えー、えー、みなさまー、本日はわたしの兄とアレサさんの誕生日会にご出席いただき、誠にありがとうございまーす。このあと兄とアレサさんから挨拶がありますがー、それからはご自由にお食事とご歓談をお楽しみ下さいませー」


 飲み物を手にした出席者を前に、シアがゆるーく挨拶。

 それからおれとアレサが挨拶をして乾杯の音頭となったのだが――


「わん!」

『かんぱーい!』


 バスカーの一鳴きで誕生日会が開始されるというよくわからないことになった。

 ま、まあいい。

 ひとまずおれとアレサは参加してくれた人たちに挨拶回りをしなければならず、シアは同行してそれを見守るようだ。


「先輩にも参加してもらいたかったのですが……、仕事が……」

「すみません」

「ああいえ、猊下が謝ることではありませんから」


 そうアレサは言うが、ティゼリアが不参加な原因、そのきっかけを作ったのはおれである。

 現在、聖女たちは怪しげな取り組みをしている組織をぶっ潰すのに大忙しなのだ。

 アレサが恐縮してしまったので、おれは気を紛らわせるためにもちょっと気になったことを言う。


「ところでこの挨拶回りって、なんか結婚式の新郎と新婦みたいですよね」

「!?」


 なんとなく感じていたことを言ったところ、アレサはちょっとびっくりしたような顔をして、それから笑う。


「げ、猊下、いきなり何を言うのですか」


 と、アレサはおれの肩をぱーんと叩いたのだが、どんな絶妙な力加減だったのか、おれはくるんくるんと回転、トリプルアクセルしたところでシアに止められた。


「え、ええぇ……、あ、ありがと」

「まったくもう。ほら、挨拶周りしませんと」

「う、うん、そうね。アレサさん、行きましょうか」

「はい、まいりましょう」


 挨拶する順番とかよくわからないため、とりあえず近くにいた者から話しかけていく。

 そんななか――


「おー、楽しませてもらってるぜー」


 と、話しかけてきたのは三日ほど居候しているネイ。

 レトとゼーレも一緒だ。

 ネイとミーネは一足先に正式な認定勇者となり、精霊門が使用できるようになっている。

 ネイたちはおれの療養期間中にお見舞いにきてくれ、そのとき誕生日会に誘ったのだが、ついでにリフィに冒険の書ガチ勢であるマグリフ爺さんを紹介したのがまずかったらしく、予定が変更されて誕生日会の今日までこの屋敷で居候することになっていた。

 リフィは日中、冒険者訓練校へマグリフ爺さんと語らうために出掛け、夕方になって帰還してからはぬいぐるみ軍団と戯れるという生活を送っていた。

 一方、ネイは妖精たちのおもちゃにされる日々だった。


「リフィは?」

「まだあの爺さんと喋り続けてるよ。明日になったらさすがにここを発つからな、今夜が最後だと語りに語ってる」

「なんかごめんな」

「いや、話題が偏るにしても、人見知りせずがんがん人と話すのはいいことだ。今はあんなんでも昔はミーネちゃんみたいに活発だったんだよ、あいつって」

「え、それは意外と言うか……」

「だろ? まだあんたらくらいの頃の話な。で、よく森に突撃していたんだが、そんときちょっと強い魔物に遭遇してな、まあそこは俺が死にかけた程度でなんとかなったんだが、それから妙に責任感じて引きこもるようになっちまってな、それ――、ごぶふっ!?」

「何を喋ってるの」


 離れたところでマグリフ爺さんと熱く語り合っていたリフィが凄い勢いでこっちにすっとんできてネイの脇に拳を叩き込んだ。

 肝臓打ちかな?

 呼吸困難になったらしく、ネイはしゃがみ込んで喘いでいる。


「何をしゃがんでるの。ほら、立つ。こっち来る」

「ご、ごほっ、お、お前……!」


 ネイはリフィに腕を抱えられて連行されていった。


「リフィは耳が良いですからね、あれくらいなら普通に聞き取れていたことでしょう。では改めて、お二人とも、お誕生日おめでとうございます」

「お誕生日おめでとうございます。後日、森林連邦より贈り物が届けられることになっておりますので、どうぞお納めください」

「ああ、それはどうも、ありがとうございます。今夜は楽しんでください」

「それはもう。美味しい料理にお酒、なかなかできない贅沢です」

「ほほ、ネイバール様にお仕えしている甲斐があります」


 なんかネイたちは庶民的だな。

 魔導袋も貸し出されたようだし、今回のお礼もかねてお土産に料理を持って行ってもらおうか。

 ネイたちに挨拶したあと、おれとアレサは手当たり次第挨拶していったのだが、ちょっと揉めている人たちがいた。

 いや、揉めていると言うか、ミリー姉さんがアル兄さんに窘められていただけなのだが。


「あのー、何がどうなったんです?」

「ミリーがシャフリーンに甘えすぎていたから、今日くらい休ませてあげようねって話をしていたんだ」

「うぅ……、でも、シャフはまたエミルスへ行ってしまうので、甘えられるのはこの機会しかないのです」

「これまで甘えてきたんだろう?」


 アル兄さんによる婚約者の躾けはまだ続くようだ。

 ひとまずミリー姉さんはアル兄さんに任せ、おれは側でちょっと疲れた顔をしているシャフリーンに挨拶する。


「弟さんの面倒を見るのはやっぱり大変?」

「いえ、ミリメリア様よりはずっと楽ですので」


 じゃあその疲れた感じはミリー姉さんべったりが原因なのか……。

 もしかしたらシャフリーンにとっては、弟さんの育児が休養になっているのかもしれない。

 それからおれとアレサはご近所さんたちに挨拶していったのだが……、なんか挨拶しづらい集まりがあることに気づいた。

 父さん、ダリス、ティアナ校長、クォルズという四名が飲み比べをしており、それにパイシェが巻き込まれていたのである。

 あの集団、上品なティアナ校長が参加しているのが本当に意外だったが、近頃は大変だったから思いっきり飲みたい気分なのかもしれない。

 ちなみにそれもおれのせいだ。

 大陸中の国々がメイドに注目し、結果としてまだ開校してもいないメイド学校にさらに希望者が殺到、どうしても指導する者が不足するため計画の見直しを迫られたのだ。

 結果、まずは優秀な侍女を募集し、その侍女たちを短期的な集中指導によってメイドに仕立て上げ、臨時の職員にすることが決まり、現在はそのためのカリキュラムを製作しているのである。

 うん、今夜くらいはハメを外して楽しんでください。

 そんなやけ酒ぎみなティアナ校長を含む五名の側には黙々と、ただ黙々と椀子蕎麦のおかわり投入係のようにお酌をするアエリスが控えており――


「はいアーちゃん、あーん! 美味しいですか? まだまだありますからね、どんどんいっちゃってください。もちろん私もあむあむ……」


 隣にはアエリスに料理を食べさせつつ、ちゃんと自分も楽しんでいるリオがいた。

 あそこはパスだな、と見なかったことにしようとしたが――、残念、クォルズがおれに気づきやって来てしまった。


「坊主はこれで十四か」


 そうクォルズは言い、そして黙る。

 おれに何か言いたいことがあるのだろうが、祝いの席なので控えようか迷っているのかもしれない。

 やがてクォルズは一つ深呼吸すると――


「これからもティアを頼むぞ」

「え、あ、はい」

「うむ、頼むぞ」


 それだけ言うと、クォルズはまた飲み比べに戻る。

 話はこれで終わりなのだろうか?

 よくわからないが……、そろそろ誰かパイシェを助けてやれ。

 アエリス、そんな飲ませたらまたパイシェがトラウマを抱えることになっちゃうから。

 おれはパイシェの心配をしつつ、さらに挨拶回りを続ける。

 母さんと談笑するベリア学園長には、ルフィアの妙な記事に付きあう必要はないと進言したりして、それから大人の集まりからちょっと離れたところできゃっきゃしているお子さま集団の様子を見に行く。

 居るのはクロア、そしてヒヨコを頭に乗せたセレス。

 それから姉たちに誘われてやってきたユーニスだ。

 護衛として同行してきたアズアーフはリビラに邪険にされて満足してからバートランの爺さんと談笑している。

 そして男の子がもう一人、最近あまり来なかった食神ジュニアのティグレートだ。

 そんなお子さまたちの面倒を見ているのがリィ、コルフィー、リビラ、シャンセルの四名。

 あと猫を抱えたミーネってどっち枠なんだろう?


「あ、兄さま、お誕生日おめでとうございます!」


 抱きついて来たユーニスをキャッチ。

 頭をわしわし撫でる。


「ユーニス、ひさしぶりだな。あとティグはちょっとぶりか」

「はい、ちょっとぶりです」


 と、今度はティグが抱きついてきたので同じくキャッチ。


「招待ありがとうございます」

「それがちょっと不思議なんだけど、誰がどうやって招待したんだ?」

「ミーネさんが祈って知らせてくれました」

「祈りなの……!?」

「そうよ、せっかくだから呼んであげようと思って。ほら、神さまにお祈りするじゃない。そんな感じで知らせたの」

「それで届くものなのか……」

「はい、届きますよ。大切なのは心です」

「なるほどなぁ……、ならおれの祈りが届かないのも納得だな」


 ひょんなことで新事実が発覚した。

 まあどうでもいいのだが。


「はいはーい、お子さんたちー、こっち向いて笑って笑ってー」


 と、そこで現れたのは招待客兼撮影係のルフィアだ。

 今日はヴュゼア同伴なのでいつのもようにはっちゃけていない。

 安心だ。


「悪いな。婚約者をこき使っちまって」

「いやそれはまったく問題ないが……、さすがに働きすぎだぞ、英雄殿。もう凄いと驚くよりも心配の方が先になってきている」

「あー、そのうちゆっくり休むから」

「魔王討伐宣言しておいて休むもなにもあるか」

「じゃあ魔王倒したらゆっくりするよ」


 おれは苦笑、ヴュゼアも苦笑。

 そこにわさーっと妖精たちがやってきた。


「料理を届けてきたのよー、喜んでたのよー」

「あとは勝手に楽しむかんな!」


 妖精たちには妖精門で領地を管理してくれている元大神官に料理のお裾分けを届けてもらっていた。


「ああ、ありがとう。あんまり無茶はしないように」

「わかってる、んな無粋なことはしねーよ。あと――」

「……ん?」


 妖精たちは互いに顔を見合わせ、それからせーので言う。


『誕生日おめでとう!』


 そして妖精たちは「きゃー」と一斉に散った。


「……」


 ちょっとびっくりして黙り込むことになったところ、シアが言う。


「妖精さんたち、ちょっと照れくさかったんじゃないですかね?」

「あー、そういう……」


 それで言うだけ言って散ったのか。

 それからもおれとアレサは挨拶回りを続けたのだが、そのなかで姿を見ないのが三人いることに気づいた。


「あれ、ティアウルとジェミナ、ヴィルジオもいないな……」

「そうですね、どちらへ行かれたのでしょうか」


 そうアレサと話していたところ、屋敷の玄関からその三名がひょっこり姿を現し、それからきょろきょろ。

 そのうち二名――ティアウルとジェミナは頭に可愛いリボンをしている。

 おしゃれだろうか?


「――お、おったぞ! あそこだ! よし行け!」

「わかったぞ!」

「ジェミ、行く!」


 ヴィルジオがおれたちを指さしたところ、ティアウルとジェミナがぺかーっと笑顔を輝かせ、そのままててっとこちらへ駆けよってきたのだが――、どういうことだろうか、シアとアレサが迎撃するように飛びだしていって速やかに二人を捕縛。

 するとそれを見たヴィルジオはダッシュで屋敷の奥へと消えた。


「ご主人さま、ちょっと側をはなれますねー!」

「猊下、申し訳ありませんが私もしばしお側を離れます!」


 シアとアレサは首根っこを掴まれてジタバタするちびっ子二人をキャリーバッグみたいに斜めに引っぱって屋敷へと連行していく。


「なにごと……?」


 おれはぽつんと一人取り残されることになったが、そこにサリスがやってきておれの手を引いた。


「御主人様、どうぞこちらへ。今日は御主人様が主役です。楽しみませんと」

「あ、うん、でももう一人の主役が屋敷――」

「まあまあ、アレサさんでしたらそのうち戻りますよ」

「あとティアウルとジェミナとヴィルジオが――」

「おしお――、っと、大丈夫ですよ、きっと三人もすぐに戻ります。何も心配することはありませんから、さあどうぞこちらへ」


 サリスはおれの手を引き、やや強引に賑やかな輪の中へ案内しようとする。

 夏の日は長い。

 それでもそろそろ夜の帳が降り始めており、気を利かせた精霊たちが明かりとなって即席パーティー会場をぼんやりと照らし始めていた。

 それは幻想的な雰囲気を持つ光景だった。


「御主人様?」

「ああ、そうだな、行こうか」


 サリスに手を引かれ、おれは賑わいの中へ。

 まあ、たまには誕生日会をしてもらうのも悪くないのかもしれない。


※誤字を修正しました。

 2018/11/17

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/28

※さらに脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/01

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/11

※さらにさらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/03/25


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