第482話 13歳(春)…味烙る! レイヴァース
気にくわないグルメ野郎をギャフンと言わせるため、まずはとびきりの食材を用意して料理のクオリティを上げるというのはセオリーだが、料理人でもないおれがその『とびきりの食材』とやらを見つけられるわけもなく、そして手にいれたとしてもそれを調理するに相応しい知識や技術を持っていないとくればやるだけ無駄だ。
知識だけならばシアがいるのでなんとかなるかも知れない。
しかし、いくら説明をうけたところでシア自身もその知識を活用できる技能を持っていないため、結局は『正確な又聞き』以上のものにはならず、それを元に再現した料理など劣化版でしかない。
要はおれにアドリブをきかせられる『積み重ね』が存在しないため、そこそこの料理を作ることはできても『究極』とか『至高』の料理を用意することはできないのだ。
だからおれは思った。
ならば料理の技術など関係なしに、ただ食材のみにそなわる『美味しさ』で勝負できるハイクオリティ品――超食材を生みだせばいいのだと。
それ故の聖別。
これには神に捧げる料理であるから、穢れがあってはならぬという判断もある。庖丁式と呼ばれる、箸を使って食材に手で触れることなく切り分け、規定の形に並べる儀式――そんなことは出来ないおれなので、聖別によって手で触れようが尻に挟もうが絶対に穢れることのない超食材に変貌させてやるのだ。
さて、聖別の儀式となれば欠かせないのは祭壇である。
サリスに頼んだ木材は翌日の昼過ぎ、さっそく屋敷へと届けられた。
そこでメイドたちやデヴァスを駆りだして荷台から下ろされる木材を確認しに行ったのだが、どういうことか、すでにそのどれもが祭壇にするための加工を施されていたのである。
予想外のことにおれが驚いていると、サリスがそっと寄り添ってきて言った。
「実は、またこのようなこともあるかと思い、すぐに組み上げられるようにとあらかじめ加工した木材を用意してありました」
「なんと……!」
まったく、サリスは有能だな。
おれは大いに感心し、サリスに抱きついて感謝を伝えた。
「素晴らしい。素晴らしいよサリスくん」
「喜んでいただけてなによりです」
サリスは微笑み、それからメイドたちのところへ戻ると何故かリビラと固い握手を交わしていた。
祭壇自体は複雑な代物ではないため、日が沈む前に作ってしまおうとメイドたちに協力してもらって作業を開始。
これにはシアとアレサも手伝いに来てくれたが、ミーネは参加せず、代わりに働く皆へのおすそわけとストック用に作った大量のサンドイッチ――その一部(あれっていったい何人前になるんだろうか……)を軽食として用意してくれた。
これは休憩時、皆でありがたく頂いた。
「おかわりもあるからね!」
ひたすら食べる。
ミーネも一緒になって食べる。
これ残るのでは……、と思っていたところ、仕事していたリィとクロア、それからセレスと妖精たちもやってきて、みんなと一緒にサンドイッチをもくもく食べた。
なんとかきれいに無くなった。
「おかわりいる?」
「いや、夕食が食べられなくなるから、こ、これくらいでいいよ!」
「それもそうね」
と言いつつも、ミーネは自分だけサンドイッチのおかわりを魔導袋から出して食べ始める。
こいつの大食いは育ち盛りという言葉に放り込んですまされることなのだろうか?
△◆▽
祭壇は暗くなり始めた頃に完成し、おそらく発光し始めるという判断から前回と同様、祠を作って覆うつもりでいた。
が、前回、最終的には祠自体が発光を始め、なんの意味も無かったことを知らされたので取りやめる。
さらに、これまで我が家が妖怪屋敷であることをひた隠しにしているつもりであったが、シャロ様の像が寝に来たり、その寝てた像が巨大な雷に包まれて消失したりする家なので、もうご近所さんもよほどのことが起きない限り「ああ、レイヴァースさんちですからね」で済むようになっているという事実をついでに知らされた。
どうやら、おれがショックを受けるかも、とこれまで伏せられていたようだ。
若干の悲しみを胸に抱いていたところ、リィが言った。
「なあなあ、お前が祈るだけだと変なもんが出来るみたいだからさ、ちょっと薄めてみようぜ」
「薄める……?」
「おう、魔素を集めてさ」
と、リィは祭壇の周囲に模様の刻まれた九つの柱を作りだした。
「あの……、リィさん? これってまずいものなのでは……?」
「この陣自体は悪いもんじゃねえよ。ルーの森にあった柱を調べて私なりに改良したもんだから、邪神兵とか生まれたりしないし、そこは安心してくれ」
「そうですか、ならいいんですが……」
こうして祭壇は荘厳さを増していよいよ完全体となったが、儀式自体は明日から始めることにした。
期間としては三日を予定。
コルフィーのときは切羽詰まっていたので一日でどうにかするという無茶を行ったが、今回はまだ日数があるのでじっくりと聖別を行うのだ。
さて、皆の協力により準備は整ったものの、聖別となれば邪魔が入るものである。
その夜、おれは仕事部屋でパンツ野郎の襲来に備えた。
むしろ今回は「来やがれコノヤロウ!」というこれまでにない意気込みであり、対パンツ特殊部隊も組織されている。
では、そのイカしたメンバーを紹介しよう。
まずは最近笑顔が増えたような気がする聖女アレグレッサ。
以上だ!
他の皆にもお願いしたけど「さすがに神に襲いかかるのは……」と参加してくれなかったから以上だ!
こういうとき、いつもならミーネも参加してくれるのだが今回ばかりは不参加だった。
なんでも祭壇が派手に光り始めたら、それを眺めながらみんなで食べる料理の準備を始めると言って調理場に籠もってしまったのだ。
残念なことである。
が、落胆するにはまだ早い。
何故なら我が部隊は尊厳破壊兵器『極悪性呪物投擲機』――通称『シア』を有しているからである。
「いいかシア、野郎が来たら鎌だ、おまえの鎌を投げつけろ!」
「は? 嫌ですけど?」
断られた!?
「そう言わず、なんとかお願いできませんか!」
「いやあのですね、ほら、さすがに神には効かないでしょうし」
「それはやってみないとわからないだろ!? もし効果があればしめたものよ! アレサさん、鎌が奴のケツに刺さったらおれが雷撃を喰らわしてやるので、その間にポコポコしてやってください!」
「はい! かしこまりました!」
「いやいやアレサさん、あなた聖女なんですから駄目ですよ、ここはご主人さまを窘めるとこですって」
「なんだシア、おまえは奴を庇うのか!」
「うちの子たちを変なことに利用させたくないだけですー。それにご主人さま、曲がりなりにも相手は神なんですから――」
「なんだ、敬えと言うのか!」
「いえ、不思議な力で瞬間的にご主人さまを盾にした場合どうするんです?」
「アレサさん! この作戦は中止です!」
「はい! かしこまりました!」
無念だ。
だが大惨事の可能性がある以上、ここは中止せざるを得ない。
こうなったら罵詈雑言で勝負だな。
野郎が来たら言ってやる。
邪悪なお面を野放しにしていることに、山のような文句をくれてやる。
しかし――、野郎の襲来を待ちかまえていたおれのところにコルフィーがやってきて言った。
「兄さん兄さん、ヴァンツ様から神託がありました」
「神託?」
「はい、えっとですね……『目に物見せてやれ! 貴様の狂気を知らしめろ!』とのことです」
「なにそれ!?」
あいつ来ねえのかよ!
「あらま、これは今までにないパターンですね……、食神さんと仲が悪いんでしょうか?」
「奴らの仲なんぞ知ったことではないが……、組み合わせ的にあんまりよくなさそうな感じはするな」
「まあ一番の懸念は無くなったことですし、よかったんじゃないですか?」
「それはそうだが……、なんか釈然としない」
野郎、おれにお面のことで文句言われるのが嫌で来たくないってのもあるんじゃないか?
ルビは10文字制限、振る文字も10文字まで。
まさか『|極悪性呪物投擲機《Critical Impact Anal》』で気づくことになるとは……。
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2018/12/26
※文章の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/02/08




