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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
間章2 『心づくしの料理を』編
489/820

第481話 13歳(春)…リベンジャー味っ子

 おれは部屋で一人になって考えごとをしたかったのだが――


「やれやれですよ、また変なことになりそうです」


 シアはしれっとした顔でネビアを抱えて部屋に入ってくると、設置してあるルーの森産のリクライニングチェアに腰掛け、背もたれを倒してゆったりとした体勢になる。

 そしてお腹の辺りに乗っけたネビアに低塩分の柔らか干し肉をちぎって与え始めた。


「エルトリアの問題がやっと片付いたばかりなんですから、しばらくはのんびりしたかったんですけどね、それはもう贅沢な話なんでしょうか」


 なんでこいつ子猫におやつあげながら人生相談してんだ?


「森で暮らしていた頃が懐かしいです。あの頃は穏やかでした。あ、そういえばネビアちゃんと出会ったルーの森で過ごした日々も楽しかったんですよ、まあ閉じ込められていたんですけどね。それから――、あー……、いや、えっと……、うん、何もありませんでした、穏やかな日々があっただけです、そう、それだけです」


 シアは都合の悪い思い出を無かったことにしたあとも平穏な日々について語っていたが、干し肉が無くなったところでネビアがのそのそ動きだし、シアの丘陵を踏み越えて顔に迫る。

 シアはネビアが頬を寄せてくるとでも思っているだろうが、おれの予想はもっと違うこと、――と、そこで想像したとおり、ネビアがシアの鼻の頭をガブッと。


「んぎゃー!」


 シアがネビアを放りだしたが、ネビアはそのままふわっと宙を泳ぎ何事もなかったように音もなく床に着地した。


「な、なんで噛むんですかー!」


 シアは鼻の頭を押さえながら抗議するが、そんなもの、なんとなく噛んでみたかったからに決まっている。

 猫とはそういうものなのだ。

 まったく、さんざんおれにガブガブ噛みつくのを見たくせに、そんなこともわかっていなかったのか。

 おれがあきれているとネビアがしたした近寄ってきて、そのまま、あらよっ、と膝の上に乗ってきた。

 そしてしゃがんでは立ち、立っては方向転換してしゃがみ、を繰り返す。

 居座るに望ましい状態を求めての行動だが、お子さまの膝の上などたかが知れた物であるため、仕方なく両腕で囲むように輪を作ってやるとネビアはそこにすっぽりおさまって丸くなった。

 いらん癖がついちゃったなー……。


「おやつが無くなったらもう用はないということですか……」


 ぐににに……、とシアがチェアにうつ伏せになり、背もたれ越しに睨んでくる。


「あのですねシアさん、おれちょっと考え事してるんでそろそろ出て行ってもらえません?」


 そう言ったところ、廊下側のドア向こうから物音がした。

 誰ですかね、盗み聞きしてるのは。


「おや。やっと喋れるくらいに落ち着きましたか」

「落ち着いたってか、おまえにあきれたんだが……」

「む、なんですか、その言い様は。わたしはご主人さまがダークサイドを突っ走ってるんじゃないかと心配して、わざわざネビアちゃんを連れてなごませようとしていたんです。わかりませんか、このメイド心が」

「鼻を噛まれたのもなごませるためか?」

「もちろん、と言ったらけしかけられそうなので否定しときます」


 ちっ、なかなか鋭いな。


「さて、では聞かせてもらいましょうか。何をそんなに怒って、どうしようと思っているんですか? せっかく神が来たので、恩恵をもらう機会を逃すのは惜しいと思ってあんなこと言ったわけじゃないんでしょう?」

「あんな奴の恩恵なんぞいらん」

「ですよねー。じゃあやっぱりミーネさんへの対応が気に入らなくて?」


 シアはおれがまるっと白状するまでチェアに寝そべり続けるつもりのようだ。

 怒鳴って追い払うのはなんか違うし、強引に叩き出そうとしても逆におれが叩き出されるだけだろう。

 まあ、説明については早いか遅いかの違いでしかない。

 とは言え、何が癪に触ったかについては皆には伏せたいので――


「〝べつに。あれは自業自得。ああいうノリを受けつけない奴もいるって勉強になっただろ。相手に相応しい対応ってのも、まあ間違った話じゃない。つかあいつ加護もらえないかって下心全開だったんじゃね?〟」

「〝では何が癪に障ったんです?〟」

「〝真心ってさ、なんなんだろうな?〟」

「〝真心……ですか?〟」

「〝そう、真心の籠もったおもてなしとか言うが、それって要は相手が満足するような対応ができているだけの話だろう? そしてそもそも、それはもてなす方にもメリットがある前提の話だ〟」


 突きつめるならば、もてなすことにより相手が起こす反応、もしくは受ける印象。

 もし「もてなされたからには金をよこせ」とか「もてなされたからにはもう許さん」なんて事態になるなら、誰もおもてなしなどしないだろう。


「〝だからその場合の真心ってのはただの建前なんだよ。本当の真心ってのは与えられる側にも思慮が求められる、もっと奥ゆかしく無償のものだ〟」

「〝つまりご主人さまは、あそこで食神さんがミーネさんのカラ揚げに『真心が籠もってない』と言ったのが気に入らなかったわけですか〟」

「〝ああ、そうだ。少なくともミーネはより美味しくなるよう自分で試行錯誤して、自分だけじゃなく皆にも食べてもらおうとあのカラ揚げを作った。報酬もなにも期待せず、ただ、美味しいカラ揚げを食べてもらいたいと思ってだ。そこに真心が無かったなんて誰にも言わせん。対応はまずかったとしても、真心が籠もってないと断じるのは間違いだ〟」

「〝なるほど、そこがポイントでしたか……〟」

「〝いや待て、もちろんそれだけじゃないぞ? 要は……、あれだ、あいつが自分の都合のいい真心を強制してきたことが許せなかったんだ〟」

「〝ふーむ?〟」

「〝例えば……、そうだな。冒険の書には含めていないが冒険者ギルドの建物には託児所があるだろ? 子供を一人で育てながら冒険者稼業をしなきゃなんない親のために〟」

「〝ええ、ありますね〟」

「〝仕事を終えて戻って来た親が、家への道すがら子供に買い与える一本の串焼きに真心はないのか? 大事な我が子のためを思えば自分で素材を厳選して調理して与えるのが相応ってことになるんだろうが、それができる親がどれだけいる? そうしたいと願っても、そこまでやれる余裕を持つ者は、あいつが当たり前のように真心と言えるほどに居るものなのか? それに――〟」


 と、おそらくおれは喋っていて苛ついてきたのだろう。


「〝これまで料理なんてしたこともなかったジジイが、突然ひきとることになった孫のためにスーパーの惣菜やら、冷凍食品を詰めこんでなんとか用意した弁当に真心は籠もっていないのか……!〟」


 余計なことを言い、言ってからつまらんことを喋ったと気づく。

 ふとシアを見るとぽかんとしていた。


「あー……、すまんな、八つ当たりだ」

「ああ、いえ、それはいいんですけどね」

「じゃあなんだ?」

「予想以上に根深いところからキレてるな、と」

「……おれもびっくりだよ」


 ヴァンツはソリが合わないという話だが、あいつは純粋にムカついたのだ。


「では、どうするんです?」

「用意するさ、真心の籠もったご馳走とやらを」

「ふむふむ、ではセオリー通りあれですか。特別な食材を用意して、洗練された調理法で調理して、とびっきりの料理を用意する感じですか? 私の知っている――」

「いや、その必要は無い。有る物で勝負する」

「有る物って……、どうするんです?」

「まあ考えがある。〝まずは――〟」


 と、おれはぼんやりと考えていたことを簡単に説明をしたのだが――


「なんでこう変なところで発想が悪魔的なんですか……」


 シアにあきれられてしまった。


「あー、ご主人さま、ちょっと待っていてくださいね」


 そう言い残してシアはチェアから離れ退室したが、出てすぐに誤魔化し笑いを浮かべるサリスを連れて戻った。


「ではサリスさん、ちょっとこっちに、はい、そして腕を組んでちょっと偉そうな感じで、はい、お願いします」


 シアはサリスを自分の左斜め後ろに並ばせると、自分も腕組みしてキリッとした表情に。

 そして言う。


「〝良い子の諸君! よく頭のおかしいライターやクリエイター気取りのバカが『誰もやらなかった事に挑戦する』とほざくが大抵それは『先人が思いついたけどあえてやらなかった』ことだ。王道が何故面白いか理解できない人間に面白い話は作れないぞ!〟」

「……」


 それからシアは何かやりきったような良い笑顔を浮かべた。


「あー……、満足か?」

「それはもう。そしてご主人さま、ちょっとズレてはいますがわたしの言いたいことはわかってもらえましたか?」

「なんとなくわかったが……、だからといってそもそも技術もないのに真っ当なご馳走を用意はできないだろ。だからここはその『誰もやらなかった』ことに挑戦するしかないんだよ」

「そうですかー……」


 シアは諦めたようにため息をつき、そっとサリスの背中を押す。


「サリスさん、ご主人さまが用意してもらいたいものがあるそうですよ」

「は、はあ、なんでしょうか?」


 シアの茶番につきあわされ、状況がよく飲み込めていない様子のサリスにおれは告げる。


「木材を用意してもらいたい」


 するとサリスは「あー……」と納得の表情になった。

 そう、封印は解かれるのだ。


※誤字と文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/08


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