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赤木の森の下影に  作者: 一人雅伸
天に届け木犀の香
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 <木犀校内テレビ放送局>

 <木犀校内テレビ放送局>


 大月小学校に赴任してから、不思議な巡り会わせで、電気機器の扱いに暗い私が『放送係』に任命されたのです。音声だけの校内放送ですから、職員室の南端の2坪位の放送室で、給食の時間になると放送部員が2~3人で『給食の献立』や『お知らせ』等の放送の後、音楽等を流していました。それを時々見回って、指導や相談に乗ればいいだけでした。


 そんな事をやっていた所、稲榎市内の小学校の鉄筋校舎への建替えが進み、大月小学校が決定したのです。


 出来上がった校舎は、3階建て2棟のH型の設計で、全てが鉄筋、壁も天井も新しく、窓も全てアルミサッシの大きく厚いガラスが嵌め込まれています。今迄のガタガタの木造校舎と比べると、外見も中身もまるで別世界のような造りで、まるで天国に来たようでした。私は、奇しくもこういう『校舎の建替え』を三度も経験する事になるのですが。


 新校舎が出来上がり、驚いたことに、今まで見たことも無いような『テレビスタジオ』が出来ているのです。テレビカメラも、放送機械室も、そして一教室分もあるような広々としたスタジオまで、全部が真新しく、ピカピカで眼も眩むようです。

 機器に暗い私には、何がなんだか分からず、これから放送係はどうなってしまうのだろうと、要らぬ心配をしてしまったくらいです。


 恩田校長先生の手腕に心から敬服しました。ご自分の信念である『視聴覚教育の推進』を新校舎にそっくり導入してしまったのです。


 その上、ラジオ放送係から、稲榎市視聴覚教育研究会事務局・校内テレビ放送まで、私の担当になってしまったのです。校内テレビ放送局など、稲榎市内でも、近隣の地区でも、見たことも聞いたことも有りません。

 とはいえ、設備があり、係が決まってしまったので、そこから放送係の子供達と一緒に、校内テレビ放送について勉強していきました。


 まずは、テレビ放送局開局までの準備計画を立てなければなりません。校長先生から

『校内全員が出演できるように、学習やクラブなどの発表は、児童主体の番組にしてもらいたい。』

という、ありがたいご指導に応えようと、必死に考え準備計画案を作成して、職員会議に提案しました。 


 <校内テレビ放送準備計画案>


1.放送機器の扱い方・操作の仕方・放送部員の指導

2.放送内容について

  ・ 校長先生、先生方の番組   (月)

  ・ 学級の発表         (火)

  ・ クラブ活動の発表      (水)

  ・ 奉仕活動(委員会)の発表  (木)

  ・ 校内ニュース、お知らせ   (金)

3.一週間の放送予定一覧表作成

4.校内放送の計画案の作成

5.具体的な放送内容の一覧表作成

6.放送時間は、給食の時間を充てて15分とする。


これらを曜日毎にあてはめ、計画とプログラムを作成して行きました。


 まず、私と放送部員が、電器屋さんから放送機器の扱い方の指導を受けました。耳にイヤホンを付け、カメラや機械室、出演者に指で合図を送る役割、タイトルや学級名を画用紙に書いてカメラに向ける役割など、二台のカメラがその指示に従って撮影します。何とか機械室とスタジオが機能する事が出来ました。

 機器などの名称は忘れましたが、練習するにしたがって、全体が指揮者の指示で動けるようになりました。子供達は興味を持っていたこともあり、慣れるのも早ければ、あれこれと試しては教わってもいない機能まで使いこなしているようです。


 いよいよ放送開始です。ところが、いざ放送が始まり、順番にプログラムが進むに従って、学級もクラブも、合唱・合奏ばかりで内容が単調すぎます。正直言って、戦後の素晴らしい新教育は何処へ行ってしまったのだろうかと思うほどでした。


 そこで、日常学習している事、活動している事をありのままに発表することが大切だと思い、放送内容の具体的事例一覧表を提示しました。記憶に残る範囲の事ですが、次のような内容だったと思います。


1.国語  朗読、作文、児童詩、読書感想文等

2.社会  地域の地図作り、文化財の調査、見学記録発表等

3.理科  実験記録、観察記録の発表等

4.音楽  合唱、合奏、有名作曲家の紹介、世界の音楽の特徴など

5.図工  写生や工作の作品発表、工作の実演等

6.体育  マット運動、平均台運動の実演等

7.生活面 ゲームやお遊びの紹介、実演、話題や流行の紹介等


 こういった事から、段々と児童の日常の活動そのままが放送に取り上げられ、反映されるようになったと思います。

 クラブや委員会の活動や学習内容の紹介、学校生活の体験や経験などの紹介だけでなく、児童個人の感想や気持ちなどを表現する放送内容になってくると、発表や展示にも段々に工夫がされてきます。児童の創造力や創造力、個性とでも言った「一人一人の表情」が伝えられるようになってきたように感じます。


 こういった事例を思い出すままに挙げていくと、

・ 児童詩や作文(生活文、読書感想文等)の発表が、最初は朗読や棒読み状態だったものが、自分の作品を作る時の考えや気持ち、さらには自己評価まで加えるような発表になってきました。書初めの発表など、先生が朱書きの解説をするといったエンターテイメント性が出てきた。

・ 工作の作品発表なども、クラス全員の作品に作者のカードを添え、長いテーブルに展示してカメラが一つ一つを撮影したり、別のクラスでは、数人の作品にスポットを当て、作者が「どんな作品を作りたかったか、どんな工夫をしたか、何処がよくて何処が悪かったか」等といった子供の考えが数多く発表されるようになった。

・ 社会科では。地域の地図作り等グループ学習の活動内容が発表されるようになり、出来あがった地図や作品だけでなく、グループの役割や分担なども発表され、学習活動そのものと、それに対する感想なども発表されるようになりました。

・ 理科などは、星座や朝顔の観察記録の展示等、視聴者に見やすく分かりやすい内容や発表方法が工夫されるようになって来ました。

・ クラブや奉仕活動(委員会)の放送も、自分たちの活動の実態をありのままに発表し、活動の狙いや目的と、自分たちの感想や楽しい事などを付け加えて発表するようになりました。

・ その他、お知らせの番組では、校内行事の予定や給食の献立発表など、給食の担当や保健の養護教員からの直接で一斉の指導が出来るようになりました。


 最初の頃は、学校全体がテレビ出演に戸惑っていましたが、発表内容がクラスや学校の活動内容、ニュースであることが理解されてくると、発表そのものにも新鮮さが溢れてきて、子供達も活き活きとテレビ出演をし、見る側も皆興味・関心を持って視聴する雰囲気になってきたように感じます。

 学級やクラブ等で番組を構成し、放送係やカメラ担当者に注文をつける等、独創的な放送をするものも現れ始めました。校内テレビ放送が、学習やクラブ・奉仕活動の発表の場となりましたので、出演する側も視聴する側も、児童も教師も、校内テレビの時間には益々関心が高まってきたようです。


 現在、学校生活の中で、孤独感や孤立感を感じている子供達がいるような話を聞く機会がありますが、こういった学校全体の取り組みや雰囲気作りが、そういった子供達の興味や関心を学校や自分の生活に向けさせるための切っ掛けになるのではないかと考えることも有ります。


 その頃の子供達は、戦前・戦中の『暗記・詰め込み教育』の影響が残る中で、思考力や発言力が十分に育てられていないと考えられるので、校内テレビ放送は『発言力・思考力・自主性・創造性』といったことの育成にも大きな貢献をしたのではないかと信じています。



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