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赤木の森の下影に  作者: 一人雅伸
水田の街と金盞花
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 <幻の創立記念実行委員会>

 <幻の創立記念実行委員会>


 田水町たみずまち第一号の鉄筋校舎が田水たみず小学校に建設されることになりました。それに併せて『創立記念行事』が行われるとの事で、その実行委員会が設立されました。

 会合を開いたとか、寄付集めに入ったとか、噂が流れてきましたが、実行委員会のメンバーも会合も、その実態は全然分かりません。しかし、そこで立てられた計画や内容は、職員会に発表され何度も審議にかけられました。それで私達は、『幻の実行委員会』と呼んでいたのです。

 創立記念事業は、記念誌の発行、オルガン教室の設置、蛸山遊具施設の設置が主な内容でした。


 記念誌の発行


 記念誌の作成は、小学校の職員が分担して行うことになりました。内容は、明治前期、明治後期、大正期、昭和戦前・戦中、戦後と分類し、執筆は全職員の分担です。

 私は『明治前期』を割り当てられました。しかし、田水たみずは地元でもなく、不慣れな土地でもあり、

『田水出身の先生から選んでもらいたい。きっとご迷惑をお掛けしますよ。』

と断ったものの、誰も引き受ける先生がいませんでした。

 前回の記念誌を見ても、特に明治初期の内容や資料に乏しく、お粗末な感じです。後に判ったことは、明治初期に火災があり、学籍簿等重要書類までもが全部焼失してしまっているのです。担当希望者がいないわけで、暫くは唖然としていました。

 すると、不思議な事に『稲榎いなえのの一人先生が、記念誌の明治担当になった。』という噂が広まったらしいのです。地元の有識者やお年寄りなどから、

『稲荷様の鳥居に寺子屋の記事が載っている』

とか

『筆子地蔵が稲荷様の裏の墓地にあった』

とか

『稲荷様に隣接するお寺の和尚さんが、資料や古文書を持っている』

等といった情報が、思わぬ人から集まって来ます。

 放課後になるとカメラを肩に、お稲荷様周辺をさまよい、何人もの人に話を訊いて古文書などを見せてもらいました。


 それで判ってきた事は、

『田水小学校は明治6年に、お稲荷様の境内にあった寺子屋を田水小学校として創立されました。当初の生徒は20人位で、先生は地元のそれ相応の学識者が選出されました。最初の頃は月謝のようなものを払っていました。』

ということです。


 私自身、ここまで調査してやや納得がいったことは、全国の小学校の創立が明治5~6年なのです。急に今のような学校が、僅か2~3年で全国に出来たのが不思議でしたが、元々の『寺子屋』を『小学校』と指定し、段々に制度や設備などを整えて行ったのだなと理解する事が出来ました。


 田水小学校は、その後段々に生徒も増え、手狭となったので、数年後に南にある薬師寺境内に移転します。これが現在の田水小学校で、その時のお堂の一部が、今でも校舎の東側に安置されています。その後火災に見舞われたところまでが、私の担当になった部分でした。ここまで資料や写真が集められたのは、多くの助言者や資料提供者のお陰だと感謝しています。

 私自身も、学校史と地域の歴史についての見識が広まったように思います。


 オルガン教室?


 新校舎建設に、新式の音楽室が設置されました。この音楽室には、最新式の電子オルガン設備とシステムが導入され、教師用と児童用が連動した壮観な音楽室です。

 どのような仕組みになっているのかは解りませんが、各児童がオルガンを弾くと、それが教師用に伝わり、どのオルガンが間違えたのか、何を弾いているのかが判るようになっているという最新式の設備です。他にも色々な機能や性能があったとは思いますが、音楽に疎い私にはチンプンカンプンな事ばかりです。

 児童が一斉に弾いても、間違った児童が直ぐに分かるので、指導には大変便利だったと思います。当時の教育長が音楽専攻だったため、導入には色々とアドバイスをしてくれたらしいのです。


 蛸山(蛸足)遊具施設


 記念事業の一つとして、蛸山遊具施設を作ることになりました。当時、この蛸山遊具施設を作る職人は、日本でも3人しかいないと言われ、そのうちの一人が田水に住み込み、製作に係わってくれました。


 今までに見たことも無い大きな蛸が、校庭の南東に聳え立ったのです。


 高さ3メートル程、幅7~8メートルはあったでしょうか。大きな蛸の身体や伸びた足が滑り台や梯子、チェーン等で昇降できるようになっていますし、トンネルや潜り穴などもあちこちに空いています。


 子供達が曲がりくねったコースを通って滑ったり、登ったりして遊ぶわけです。子供達にも大人気で、休み時間になるといつも一杯で、時には、順番待ちの行列まで出来るほどでした。


 ここでも、子供達の素晴らしい運動神経と創造力を見せ付けられました。

 子供達が4・5人集まると『キャッ、キャッ』と奇声を上げながら駈けずり廻るのですが、いきなり鬼ごっこが始まったり、それも鬼と逃げ役が急に逆転したりと、私が見ても、そのルールややり方が全く理解できません。でも、子ども達は、歓声を上げながら、蛸山の上へ下へと、周囲等を走り廻って、その喜びとエネルギーを発散させているようです。蛸山での遊びを、子供なりのルールで際限なく繰り返しているのです。子供達にとって遊びの天国のようです。見ている大人たちも楽しく、微笑ましい空間となりました。


 私は、この蛸山を仰ぎ見ながら、心の中で『幻の実行委員会、万歳!』と喝采を送りました。田水町の町民の皆様の子供を思う気持ちが、ひしひしと伝わり、私の胸を一杯にしたのです。今でもこの感動は忘れることが出来ません。



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