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ヴァレットとガブリエルとベンジャミン

 女が何かしたのか。後戻りするための道は目の前にあるのに、透明な壁に邪魔をされて抜けることができない。やっぱり魔法が使えないと。


「だったら私の炎で……」


 得体の知れない障害物。まとめて燃やしてしまえば確かに突破できるかもしれない。


だが、リーゼが透明な障壁を破壊するために迎撃を準備したとき、リーゼのもとへ筋肉質の男が差し迫る。


「んなことより俺と遊ぶぼうぜっ!」

「っ……」


 太い剛腕でリーゼへ殴りかかる。とても受け止めるものではない。危機を感じたリーゼが瞬時に離脱する。

が、その分邪魔な壁をどうにかする手段が途切れてしまう。リーゼは背後に回る。

反撃に映るが、男は振り向きもせずに裏拳を浴びせた。


「ぐっ……」

「いいぞ、子供にしてはいいスピードだっ!」


 攻撃を躱された男は嬉しそうに裂けるかの如く口角をつり上げて、白い牙のような犬歯を見せつける。

喜びに身を震わせながら、次への攻撃に移り始めていた。


「俺はガブリエル・ニックバレン! 名を名乗れ小娘!」

「おいっ! 安易に名前を名乗るな、バカが」


 蒼髪の男が糾弾する。が、筋肉質のガブリエルは特に気にせず、攻撃から脱出してみせたリーゼへと意識を向けていた。


「……リーゼロット・アルクレイ」

「……ほう? どこかで聞いたことがあるような名前だ」

「六英雄のひとり、フェルナンディ・アルクレイの娘だ」


 蒼髪の男が指摘する。さも当然の如く言い当てるあたり、やはりこの世界では、勇者の名は伊達ではなさそうだ。


「ほぅ、ベンジャミン。それは本当か」

「俺の名前を晒すな。馬鹿が」


 ベンジャミンと呼ばれた男が仲間に向かって悪態を付く。だがそれも束の間、すぐにベンジャミンは行動に打って出る。


「厄介そうな勇者の娘は任せるぞ。俺は目障りな奴から片付ける」


 ベンジャミンとかいう奴が間違いなく狙っているのは俺とソニアちゃんだ。ただ黙ったままやられるわけにはいかない。すぐに動き始めるが、そもそもの初動のスピードに違いがありすぎる。瞬きをするうちに距離を詰められるのだけが分かった。


「早々に死ね」

「させないっ!」


 雷が弾ける。ルキナの迎撃により、ベンジャミンが身を覆うほどの電光に襲われて吹き飛んだ。


「助かったルキナ」

「あははっ、何処が助かったって?」


 安心したのも束の間、掌から雷を出した構えの状態のルキナのところへ、小柄な女が舞うようにして蛇のような手腕を向けた。

 ルキナの顔に影が差す。寸でのところでその場を離脱することには成功したが、ルキナの様子がおかしい。


「今、何したの?」


 宙に浮かぶルキナは表情を歪めながら、女に問いを投げた。


「さぁ、何が起こるでしょうか?」


 対する女は口元にをにやけさせながら、喜々として語る。

 緊張が走るのは一瞬、ルキナはすぐさま得意の雷魔法で仕掛けた。


「何でもいいよ。これで寝かせるから」

「ざ~んねん♪」

「……っ! くあ、ああぁぁぁ!?」


 ルキナの雷が敵に向かうことなく、ルキナの身を焼いた。バチバチと弾ける筈のエネルギーが、ルキナの周りに集約して強烈なダメージとして襲った。


「な、何だ。どうしたんだ?」

「ふふ、おバカさん」


 ルキナの魔法がルキナ自身への攻撃として成立した。一体何がどうなってるんだ?

 ガクッと腰を落として手をつくルキナは、服も身もボロボロの状態だ。それでも尚顔を上げて笑みを浮かべる。


「なるほど。(バブル)……これがあんたの……魔法ってわけね」

「あら? なかなかどうして鋭いわね」


 翠髪の女が答えると、同調するように、ルキナの周りが透明な膜に覆われていることが分かる。


目を凝らしてようやく見える程度だが、ルキナの動きを遮っているのだと理解すると、先程の雷さえもこんな透明なもので防いだのかと驚きに変わる。


「勘の良いガキは嫌いじゃないけど。……ふぅん、あんたの名前は?」

「……ルキナ・フォン・ハルバート」

「納得したわ。魔王の娘なら勘の良いのも当然よね。あんたはここでおとなしくしといてもらおうかしら」

「っ、ふざけ……」

「やめときなさい。どれだけ雷を撃ったところであんたには破れない。それが分からないほど馬鹿じゃない

はずよ」


 ルキナが苦悶の表情を浮かべる。それが女の言うことが事実であると物語る。ならばこの状況は何よりマズイ。


「ふはははっ! おらどうした! 力が入ってないぞ。勇者の力を見せてみろ。リーゼロット」

「くっ……ぁ、な、なんて馬鹿力なのよっ!」


リーゼが灼熱の太陽剣(エクスフェルド)で対抗するが、完全に力負けにしているのが窺えた。そしてルキナは女の妙な魔法で閉じ込められてしまっている。当然、余ったベンジャミンが悠々と立ちはだかる。


「このっ……」

「だから無駄だって」


 ルキナが諦めず雷を撃ち続けるも、ただただその身を傷付けるだけだった。


「だったら……」


 リーゼが隙を見て炎を撃ち出す。荒れ狂う豪炎。だがそれも、ルキナの周りで炎が弾き飛ばされてしまった。金髪の男、ガブリエルが牙をむき出しにして口角を上げる。


「無駄だ。ヴァレットのバブルはその程度では効かんぞ」

「くっ……」

「全く、私の名前まで晒さないでほしいもんだわ。まぁ、別に隠すこともないけど」


 リーゼと剣閃を交えるガブリエル。また、ルキナを閉じ込めたヴァレットが悠長に言葉を交わす。ルキナの言ったことは本当だった。今までよりもさらにやばい奴らだ。


 ジャリ……。


 リーゼとルキナが抑え込まれるなか、敵はもう一人いる。ベンジャミンが真っ直ぐに俺を見て宣告した。


「お前から死んでもらうか」

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