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魔法と予兆と覚醒

 突き刺さる殺気が俺自身へと向けられた。すくんでしまう足を必死に動かす。せっかく生き返ったんだ。安々と殺されるわけにはいかないと、ベンジャミンの動きに注目した。


 褐色の腕を振って間違いなく何かを投擲する。反射的に俺は飛び退いて躱した。ただでさえ薄暗い洞窟の中だ。一体何かを投げたのかは分からないが、だからこそ逃げるに越したことはない。


 避けて安心する間もない。第二弾が投げられる。


「……ぐ、……!?」


 複数の個体。肩にかすってよろめいてしまう。見切るだけでもしんどいというのに、肩に当たった感触は突き刺されたような痛みだ。初めての痛みにひるんでしまいそうだがなりふり構ってられない。


「うまくかわすな。だがこれならどうだ?」

「……何っ!?」


 言葉だけではうまく解釈できなかった俺は聞き返す。その一瞬あとに気付く。目の前の男が見ているもの。奴が視界に留めているもの。


「……お前、まさかっ」

「まず一人」

「このくそやろうっっ!?」

「あ……」


 攻撃の対象はソニアちゃんだ。俺じゃなくて小さい女の子から狙いやがった。俺にはできるかわかんねぇけど、助けるんだ。今度こそ……。


「ソニアちゃんっ!」

「お兄ちゃんっ!」

「ぐああぁっ!!」


 背中越しに痛みを感じる。足から崩れそうになる。けどここで倒れるわけにはいかない。


「ラルク君っ!」

「あの馬鹿っ」


 ルキナの声が聞こえる。リーゼも今、一人押さえ込んでくれている。今回ばかりは俺が何とかしないと。


「ふ、さすがに耐えるか。まあ時間の問題だがな」

「俺を狙ってるんじゃなかったのかよ」

「……? 別に誰からでもいいだろう。実際、貴様にダメージを与えることができた。成果をあげることができたのだから間違っちゃいない」


 ああ、そうかい。


 こいつは分かりやすいクズの考え方を持った敵って奴だ。俺も大概だけど、こいつの思い通りにさせるのだけは気に入らない。


「はぁ……はぁ……、ぐっ、なぁ。この子は逃がしてくれないか」

「無理だな。口は封じる必要がある」

「じゃあせめてさ。狙うのは俺からにしろ」

「……ま、いいだろう」


 とりあえず時間を稼ぐ。それしかない。リーゼには何とか勝ってもらうことを期待するしかないけど、閉じ込められたルキナはヴァレットとかいう女を叩くしかない。


「何の真似だそれは」


 ベンジャミンが問う。当然だ。俺は足元に転がっている石ころを手に取ったのだから。けど魔法をろくに使えない俺からすればこれくらいしかできることがないんだ。


 ソニアちゃんを助ける。リーゼも、ルキナもだ。震える足を抑えて必死に自分に言い聞かせる。

 俺は一回死んだ身だ。最悪もう一回くらい死んでもどうってことない。なんだったらもう一回転生できるかもしれない。

 本当は死ぬのなんて二度と嫌だ。それでも自分にそう言い聞かせて死ぬ気で喰らいつく。それくらいしないと、ルキナは開放できない。


「いくぞッ!」


 精一杯叫ぶ。ベンジャミンをやりあうと見せかけて、狙うはヴァレットだ。

 浅い踏み込みながら掛ける。怯んでくれとばかりにすぐに石を投擲する。ベンジャミンは半身になることでかわしてしまう。掛けながら転がる石を二つ掴む。そのまま、避けたベンジャミンに向かって投げつける。

 そのまま、ヴァレットにも石をぶち込む。が、ベンジャミンの反撃にあって体勢を崩されてしまう。何かを放出しているのだが、ベンジャミンは俺みたいに石を拾う動作がまったくない。

 魔法で何かを投げているのか。俺には分からない。


「ぐ……」


 顔面にぶち当たったものの、すぐに顔をあげて視界を戻す。そこには笑みを浮かべるベンジャミンの姿があった。


「このっ……!」


 殴打される。いや、胸に感じるのは熱い痛み。斬撃だ。そうか……こいつの……魔法は……。

 魔法を関しては素人の俺にも見当がついた。けどだからといって突破口にはなりはしない。

 どうする……どうすればいい。


「きゃあああ……」


 背後に聞こえる悲鳴。


「なっ、ソニアちゃん……、なんでっ」


 俺は目の前に敵がいるにもかかわらず背後を振り返る。吹き飛ばされるソニアちゃんが映る。


「馬鹿が……。お前からやろうが、その子供からやろうが結果は何も変わらん。全員死あるのみだ」

「くそがッ!」


 ベンジャミンがさらに攻撃を続ける。俺に一太刀浴びせたあと、倒れるソニアちゃんに向かって凝固した血液を飛ばした。

 倒れるより前に俺は駆ける。もつれる足を動かし、自らの血にまみれながらソニアちゃんのほうへと倒れ込んだ。


「ああぁあぁあ……!?」


 魔法のスピードに敵うわけがない。負傷した体では追いつけずソニアちゃんがさらに攻撃を浴びてしまう。


「はぁ、はぁ……やめろ、このくそ野郎!」


 地に伏せたまま硬く拳を握る。何で俺は魔法が使えない。何のために俺は転生したんだ。生き返っても何も出来ないじゃないか。己の無力さに涙が込み上がる。


「吠え方だけは一人前だな。そこで大人しく見ていろ。まずはガキの死体の完成だ」

「ふざ……けんな」


 ベンジャミンが鮮血を放つ。もう動けない女の子に向かって魔法を発動する。


「やめろって言ってんだろうがぁああ!」

「……!?」

「こいつは……」

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