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038 『帰還』

『帰還』


「旅行のほうはどうでした、先輩?」


「えぇなかなか楽しかったわよ。ただまぁ、寒かったわ、それはもう……」


 思い出したのか、身体を震わせる先輩。だが、真冬の北海道ならばそれも致し方ないだろう。


 修学旅行から一週間。旅行明け一度目の部活だし、折角なのでそれについて聞いてみよう。


「そういえば、あの電話の後って、大丈夫でした?」


「なんのことかしら? 君に電話をかけはしたけれど、心配される覚えはないわよ」


 どうやら、はぐれたことは、あくまでなかったことにするつもりらしい。


「そういえば、うちの妹のやつも修学旅行ではぐれたらしいんですよ。あいつの場合は、逆に気ままな旅を満喫してたそうですが。我が妹のことながら、色々頭が痛かったですよ……」


 妹が言うには、同じくはぐれていた同級生と偶然会って、そのまま意気投合して観光していったらしい。初対面の相手と仲良くなるのはいいが、観光より班との合流を優先しろと思う。


「確かに、周りへの影響は気になるわよね。はぐれたら自分だけでなく、班の人や教員、ひいては旅行の参加者全体に迷惑をかけてしまうもの……。あっ、勿論一般論としてだけれど」


 実感のこもったつぶやきの後、誤魔化すように付け足す先輩。まぁ中等部ならまだしも、班を纏める役の高等部の生徒がはぐれてしまうというのは、やはり恥ずかしいのだろう。


「ところで、質問なのだけれど、君は妹さんからなにかお土産とかは貰ったのかしら?」


「土産ですか? 僕個人、というわけではないですが、家族用に銘菓的なものは買ってきてくれましたね。一応、親が旅行の前にこづかいと別に土産代をあらかじめ渡していたんで」


「そうなの。じゃあ、君はお土産としてどんなものを貰ったら嬉しいのかしら?」


「何を貰ったら嬉しいってことはないですね。贈ってくれるその気持ちが嬉しいですし、内容はあまり気にしないと思います。まぁ大きな木彫り熊とかゲテモノ料理は少し困りますが」


 昔、妹が買ってきた虫の佃煮は流石に喜べなかった。寧ろ嫌がらせかと思ったぐらいである。


「そう、ある意味張り合いがない答えの気もするけど、それならよかったわ。はい、これ」


 言いながら、鞄から包みを取り出して僕に渡してくれる。お土産を買ってきてくれたらしい。


「わぁ、ありがとうございます。でも、わざわざ、気を使ってもらってもらわなくても」


「後半の言葉はいらないわ。こういうときはお礼だけでいいの、遠慮は逆に失礼よ? あぁでも、できれば開けるのは家まで待ってくれないかしら。包み紙とか、いろいろ出てしまうしね」


「言われてみればそうですね。そろそろ下校時間ですし、家での楽しみにさせてもらいます」


 そんな風に今日の部活は終わった。そして家で包みを開けて、僕は思わず苦笑してしまう。


 渡された包みに入っていたのは、ちょっとした御菓子。――ただし、北海道ではなく空港のレシートと一緒に。


「北海道で買い忘れて、帰りの空港で慌ててお土産を選んでくれたってことかな?」


 考えると、少しおかしくなる。そしてそれ以上に、先輩の心遣いが嬉しく思えるのだった。


旅には土産がつき物です。

そしていろいろあって買い忘れ、帰りの駅とかで慌てて買い込むというのもある意味お約束。


それでは、次回もよろしくお願いいたします。

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