039 『格差』
『格差』
今日は、男を二つに分ける日。一部の得る者たち、特権階級者以外には忌むべき日だ。
「本当に、こんな風習はなくなればいいのに……」
そう、今日は二月の十四日。呪わしきバレンタインデーなのだった。
放課後の今、当然ながら今年も僕の手元に貰ったチョコは一つもない。学校にいるだけ悲しくなるので、本来ならすぐに帰りたいところだが、間の悪いことに今日は部活の日なのである。
「流石に、『チョコが貰えず悲しいから部活休みたい』なんて言えるわけないし……」
「ねぇ、何が悲しいのかしら? さっきから、ずいぶん落ち込んでいるみたいだけれど」
どうやら呟きが聞こえてしまったらしい。先輩がからかい混じりの言葉を投げてきた。
「いや、なんでもないですよ。えぇはい、別に何も落ち込んでなんていませんとも」
「あら、てっきりバレンタインのチョコが貰えず、うなだれているのかと思ったわ。まぁそうよね、チョコがもらえないぐらいでわざわざ落ち込むなんて、とても格好悪いものね」
「うぐっ。えっ、えぇ、そうです。僕がそんな人間に見えますか?」
……まぁ完全に図星なんですが。笑顔で人の心に刃を突き立てるのは勘弁してください。
「そうです、そもそも、この国の風趣自体が間違ってるんですよ! もともとは、こんな格差を感じさせられるようなイベントじゃなくて、もっと広く緩いものだったんですから……!」
こんな風に、女性から男性へチョコを一方的に贈る、という風習になっているのは日本だけなのだ。そもそも日本での始まりが、菓子メーカーの販促のためと言うのがまた酷い話である。
「ふふっ、なんだか実感がこもっているわね。やっぱり、チョコが欲しかったの?」
「違います、僕はあくまで一般論を言っただけで……! けど、こんな一方的な風習に縛られたくない、という思いはあります。だから、今日はこれを持ってきたんですよ……!」
紙袋を取り出し、先輩に渡す。中身は勿論、チョコである。ただし、貰ったものではない。
「えっと、これは、どういうことなのかしら……?」
「本来のバレンタインは男女どちらからでも、親しい相手にチョコを渡すという風習なんです。だから、僕はもうチョコなんてもらえなくても、悲しくなんてないんですよ!」
貰えないなら渡せばいいじゃない! この逆転の発想で、僕はもう悔しくなんか――、
「あら、じゃあ折角持ってきたんだけど、私のチョコは受け取ってもらえないのかしら?」
「ごめんなさい、嘘です、貰えないのはすごく悲しいです! すいません、強がってみただけなんです! ありがとうございます、喜んで受け取らせてくさい!」
前言撤回、即平伏して先輩からチョコを頂く。強がりなんかじゃ、生きていけないんだ……!
「ふふっ、喜んで貰えたようで嬉しいわ。やっぱり、君って面白いわね」
先輩が笑っているが気にならない。人生初の、家族以外の異性からのチョコなのだから!
今年の二月十四日は最高の日だった! バレンタインって素晴らしい!
格差社会(ただし恋愛的な意味で)。
しかしよく考えると、二人きりの部活で仲のいい美少女の先輩がいるというだけで、勝ち組であろうというね。
まぁそんな萌え回です。
では、次回もよろしくです。




