028 『三原則』
『三原則』
第一条 兄は妹に危害を加えてはならない。また危険を看過し妹に危害を及ぼしてはならない。
第二条 兄は妹の命令に服従しなければならない。命令が第一条に反する場合この限りでない。
第三条 兄は第一条および第二条に反することのないかぎり、自己を守らなければならない。
「……それはなんなのかしら? ロボット三原則を改変したものみたいだけど」
僕の手元にある紙を見て、先輩が戸惑った声を漏らす。正直、僕も同じ気持ちだ。
「昨日、妹が渡してきたんですよ。喧嘩したら、仲直りの条件としてこの三つを守るよう言ってきまして。原因は僕で悪かったと思うし、反省もしてますが流石にこれは……」
「なるほどね。確かに、ちょっとこれはいきすぎなような気もするわね」
そう、いくらなんでもやりすぎだ。こんな三原則を守らせようとする妹は聞いたことがない。
「でも、一見横暴な内容に思えるけれど、実は君の事を心配しているんじゃないのかしら?」
「えぇ? そんなことないですよ。単にもじったからこうなっただけじゃないんですかね?」
「でも、それなら単に『命令に絶対服従』とでもすればいいだけでしょう。それをしなかったのには何か意図があるんじゃないかしら。参考までに、喧嘩の原因はなんだったの?」
「いや、庭の木に登って降りれなくなった猫を助けようとして、ちょっと木から落ちそうになっただけですよ。確かに心配はかけたけど、そこまで強く怒ることじゃないと思いません?」
心配させたかもしれないが、何も悪いことはしていないだろう。しかし、それを見た妹は僕がいつも不注意だとか色々言ってきて、僕も言い返してしまい喧嘩になってしまったのだ。
「全面的に君が悪いわね。というか、妹さんがこれを君に出した気持ちも分かる気がするわ」
「そんなぁ。けど、いくらなんでも勝手すぎると思うんですが。なんでも命令に服従なんて」
「君は反省してると言ったけど、それは『心配をかけたこと』にでしょう? 危険な行動したことは悪いと思ってないから、同じようなことを結局繰り返す。けど、そんなことを続けていれば、いつか取り返しの付かないことになる。妹さんはそれを心配したんじゃないかしら?」
「そうですかねぇ……? 先輩はそう言いますけど、やっぱりそんな風には想像できないです」
我侭で勝手気ままな我が妹が、そこまで殊勝なことを考えている筈ないと思うのだ。
「まぁ結局は仮定の話よ。けど家に帰ったら妹さんとちゃんと話し合った方がいいと思うわ」
「確かに、これをそのまま呑むわけにもいきませんし、どちらにせよ話すのは必要ですね」
家に帰ったら、落ち着いて妹と話してみるか。一応ないと思うけど、先輩の考えも参考に。
「ちなみにロボット三原則だけど、実は後々追加されて、第零条もあるのだけど知ってた?」
「いや、知らないです。三つは聞いたことありましたが零なんて聞いたことないですね」
「第零条っていうのは、単に第一条の『人』を『人類』に置き換えたものよ。君のそれに合わせるなら、『妹』を全般的なものに置き換えるとして、『年下の女の子』とするべきかしらね」
「……なんか『兄妹の三原則』から『ロリコンの三原則』に変わってません、それ?」
ロボット三原則にかけて妹三原則、とみせかけて落ちはロリコンという。
真面目な話でも、一部を換えるだけでとても残念なものになるものです。
……じつは本来24話くらいに入る予定だったけど、入れ忘れてたというね。
それでは、次回もよろしくお願いいたします。