023 『覚醒』
『覚醒』
「先輩、落ち着いて聞いてください。実は――、この世界は今、危機に瀕しているんです」
「あら、どういうことかしら?」
首をかしげる先輩。ただの人である彼女には、この世界の歪みは知覚できないのだから当然である。むしろ、そんな先輩のような一般人を護るのが守護者として僕の役目なのだ。
「この世界『ガイア』は今、次元を隔てたもう一つの世界『タルタロス』からの侵略を受けているんです。タルタロスのテュポンと呼ばれる能力者達は次元に歪みを生みこちらの世界に来ることができ、この世界の人間の存在を支える因果核[ミラ]を奪っているんですよ」
因果核を奪われた人間は、存在そのものを消えてしまう。身体は勿論、その人に関する記憶は誰からも忘れられ、その痕跡も自然な形で元から無かったことにされてしまうのだ。
「僕はテュポンに因果核を奪われ消え去る運命だったところ、ガイアの守護神クロノスに助けられて、タルタロスと戦いこの世界を護る神繰人[デウス・マキナ]になったんです。神繰人は因果核を神造因果[アトロポス」で代用しているせいで僕は因果を結ぶことが出来な――」
――パンッ! と、手を叩く破裂音が響いた。
「ん? なんです先輩、いきなり手を叩いたりして。虫でもいたんですか?」
「えぇ、いや、ちょっとね。……聞いてたこっちが辛くなってくるなんて予想以上だわ」
言いよどむ先輩。なんだかとても気まずそうな表情だ。何があったというのだろうか?
「まぁいいです。そんなことより先輩、やっぱり催眠なんてかからなかったでしょう?」
今日は家庭部製の催眠術の本を発見したという先輩に頼まれ、部室で実験体になっていたのだ。しかし、結局そんなものかかるはずも無く、単に時間が過ぎるだけとなった現状である。
「催眠術なんて漫画とかの中だけなんですよ。人を思い通り操れたりなんかしたら、色々大変じゃないですか。それこそ催眠にかかったこと自体を気づかせないことも出来ちゃいますし」
「……そうね、本当に恐ろしいわ。念のため聞くけど、からかったりなんかしてないわよね?」
「なんのことです? からかうもなにも、さっきからなにもしてないじゃないですか」
先輩の指示に従い、身体の力を抜いて振り子に視線を集中していただけだ。催眠にかかったふりなんかしていないのだから、別にどこもからかった覚えは無い。
「ちなみに、一体どんな催眠をかけるつもりだったんですか?」
催眠にかからなかった為、どんなことをかけられる予定だったか分からないのだ。
「かかったふりができないように、なるべく恥ずかしい行動をさせる催眠よ。具体的には、思いつく限りの恥ずかしい妄想を現実と信じ込む催眠をかけたのだけど、ね」
「つまりは、中二病にする催眠ですか。なんて恐ろしい……」
かからなかったからよかったものの、万一そんなものにかかったならば自殺物だ。中二妄想を信じて格好付ける自分なんて、想像するだけで鳥肌が立つような光景である……。
冒頭からぶっ飛んだノリですが、別小説ではありません。
……書いてる途中に普通に鳥肌立ってくるというね。
ああいう、完全厨二は書くと自分自身にダメージが来ます。orz
そんなこんなで、次回もよろしくお願いいたします。