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異世界から来た男と配達

私は箒を持ったまま、その鉄の箱を見送っていた。

黒い輪を四つ回しながら、何事もないように通りを走っていく。


馬もいない。


牛もいない。


魔物でもない。


それなのに動く。

理解できない。


「くるま、だったか」


小さく呟く。


村上は店の中から笑った。


「考えても分からんもんは、後で覚えりゃいい」


「……そういうものか」


「そういうもんだ」


あっさりした答えだった。

それ以上聞こうと思ったが、今は仕事中だ。

私は箒を動かし、残っていた砂を塵取りへ集める。


これで終わりかと思った、その時だった。


先ほどとは違う音が近づいてくる。

今度は少し高く、軽い音だ。

白い鉄の箱がゆっくりと店の前で止まった。


「おはようございまーす!」


一人の男が軽やかに降りてくる。

鉄の箱の横に付いた扉を開き、中から木箱のようなものを取り出した。

見た目は箱だ。

だが木ではない。

布でも革でもない。

見たことのない素材でできている。

中には緑色や赤色の野菜がぎっしりと詰まっていた。


村上が店の中から顔を出す。


「おう、おはよう」


「今日も暑くなりそうですねぇ」


「まだ朝だぞ」


「朝から暑いじゃないですか」


男は笑いながら何かを村上へ手渡した。


知り合いらしい。


男は村上と共に木箱のようなものを厨房へ運び終えると、私へ目を向けた。


「あれ?」


私を見て首を傾げる。


「村上さん、新しい人ですか?」


村上は私をちらりと見る。


「まあ、そんなもんだ」


私は正直に答えた。


「私は別の世界から来た。昨日ここへ辿り着いたばかりだ」


一瞬、静かになった。


男は目をぱちくりさせる。


それから大きく笑った。


「はははっ! 朝から面白い冗談ですねぇ!」


「……冗談ではない」


「いやぁ、いいですねぇ。そういう設定、うちの息子も好きですよ」


どうやら信じてもらえなかった。


昨日もそうだった。


やはりこの世界では、異世界などという話は空想なのだろう。


村上は肩を震わせながら笑いを堪えている。


「悪い悪い。そいつ、本気で言ってるんだ」


「えっ?」


「本人はな」


 男はさらに笑った。


「じゃあ、勇者様ってことですか?」


「魔法使いだ」


私は真面目に訂正する。


男は腹を抱えて笑い始めた。


「だめだ、面白すぎる!」


私には何が面白いのか分からなかった。


だが悪意は感じない。

笑われてはいるが、馬鹿にされているわけでもない。

それだけは何となく分かった。


男は笑いながら何かを村上へ渡す。


「じゃ、また明日お願いします!」


「おう、気を付けてな」


男は軽く手を振ると、再び鉄の箱へ乗り込んだ。

扉を閉める。

すると鉄の箱は静かに動き出し、通りの向こうへ走り去っていく。


私はその姿を目で追った。


「……毎日来るのか」


「ああ」


「毎日、野菜を届けに?」


「肉屋も魚屋も来るぞ」


私は思わず村上を見る。


「店へ食材を届ける者がいるのか」


「そうだ」


「料理人が買いに行くのではなく?」


村上は頷いた。


「もちろん買いにも行く。けど、届けてもらうもんもある」


私はしばらく考え込んだ。

この世界では、料理人は料理を作るだけではない。

多くの人が役割を分け合い、一つの店を支えている。


昨日の風呂も。


今日の走る鉄の箱も。


そして今の配達も。


知らないことばかりだ。


だが。


だからこそ面白い。


私は木箱のようなものいっぱいに詰まった野菜を見つめ、小さく息をついた。


「……強い世界だ」


村上はまた豪快に笑った。


「お前、そのうち何でも『強い』で済ませそうだな!」


私には、それが一番しっくりくる表現だった。

このお話を読んでくださっている方がいるとしたらありがたいことです

タイトルが「異世界料理人」なのにいまだに料理を作っていないことには目をつぶってください

そのうち作るはずです

いや、作らないとまずいでしょ

おそらく次回あたりには包丁握るのではないかな?

握らないかもだけど。。。。

それでは次回のお話で

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