千年の呪縛からの解放と、英雄の帰還
【第3章・世界樹防衛編、堂々開幕!】
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剣と魔法のファンタジー世界を、FPSのロジックで圧倒する痛快無双劇!
※第1章・第2章(王都編まで)完結済み。今からの「一気読み」も大歓迎です!
その日、エルフェリアの空に『千年の真実』が映し出された。
「ユーグ、フィオ! 世界樹の根を使って、この水晶の記憶をエルフェリア全土に投影してやれ!」
「任せて、ポンタ! 行くよ、フィオ!」
「うんっ! 精霊の力、いっぱいいっぱい広げるよ!」
ポンタの指示を受け、若枝の精霊ユーグと大地の精霊フィオが力を解放する。
彼らが『記憶の水晶』にマナを注ぎ込むと、淡い翠色の光が謁見の間から溢れ出し、世界樹の根のネットワークを伝ってエルフェリア全土へと駆け巡った。
次の瞬間、森の木々の上空――広大な空をスクリーンにするかのように、巨大な蜃気楼が浮かび上がった。
それは、千年前の凄惨にして気高き、真実の歴史。
邪神の瘴気から森を護るため、自らの身体をバイパスにして世界樹を転移させたエルミナの姿。その代償として肌がドス黒く変色し、苦しみながらも他種族との友愛を説いた女王の最期。
そして――その遺言をことごとく破り捨て、国を護った恩人であるルシオンたちを『穢れ』と罵り、追放した長老たちの醜悪な姿。
「あ、ああ……なんということだ……」
「我々は、国を護ってくださった真の英雄を、迫害していたというのか……!」
空を見上げていたエルフの国民たちは、その真実に愕然とし、次々とその場に泣き崩れた。
彼らが千年間信じ込んできた「清浄な血」という選民思想は、元老院の保身のために作られた虚飾に過ぎなかった。自分たちが石を投げ、蔑んできたダークエルフこそが、この美しい森を護り抜いたエルミナの直系だったのだ。
謁見の間でも、激しい後悔の波が押し寄せていた。
「我々の無知と、千年にも及ぶ大罪を……どうか、どうかお許しください……っ!」
真実を知り、滂沱の涙を流す近衛騎士団長が、シャドウの前に武器を投げ捨てた。
それに続くように、数十名の近衛兵たちが一斉に膝をつき、深く、深く土下座をする。額を床に擦りつけ、嗚咽を漏らす彼らの姿には、かつての傲慢さは微塵もなかった。
シャドウは、血まみれの身体を引きずりながら、ゆっくりと騎士団長の前に歩み寄った。
「……顔を上げろ」
「し、しかし……我々は、あなた方からすべてを奪い……!」
「お前たちが直接手を下したわけではない。それに、お前たちは今、真実を受け入れた」
シャドウは静かに、けれど凛とした声で告げた。
「復讐は何も生まない。血塗られた憎しみの連鎖は……私の代で、終わりにしよう」
その言葉に、近衛兵たちはさらに激しく泣き崩れた。
己を迫害してきた者たちを赦す。それは、かつての復讐鬼だった彼女からは想像もつかないほど、真の英雄の末裔としての気高く、そして懐の深い姿だった。
『マスター。元老院の排除および真実の公開を確認。これより特使としての本来の任務、星の龍脈(結界)の修復工程に移行します』
ポンタの脳内に、ソフィアの冷静なシステム音声が響く。
(ああ、大掃除の仕上げといくか)
ポンタは小さく頷くと、エリスへと視線を向けた。
「エリス。ジジイ共の後始末はついた。次は……あいつ(シャドウ)の番だ」
「はいっ! シャドウさん、少しだけじっとしていてくださいね」
エリスは静かに深呼吸をすると、愛用の杖を両手で強く握り締め、ゆっくりと目を閉じた。
直後、彼女の足元から、清らかで圧倒的な魔力波が金色の波紋となって広がり、謁見の間の空気が神殿のようにピンと張り詰める。
「――我が血に眠る、守護の願い。千年の時を超え、今ここに真なる光を刻まん」
エリスの詠唱に応え、彼女の背後に巨大な『幾何学模様の光の魔法陣』が何層にも重なって展開されていく。
「ユニークスキル――【聖盾アイギス】、全力解放ッ!!」
エリスが目を見開いて叫ぶと同時に、魔法陣の中心から、神々しい白銀のオーラを放つ巨大な『光の盾』が顕現した。
それは単なる防具の形をしていない。まるで大天使の翼が幾重にも重なり合い、世界そのものを包み込むかのような、神聖にして不可侵の絶対防壁。
アイギスが放つ凄まじい光量と聖なる波動に、ポンタたちでさえ思わず目を細め、近衛兵たちはあまりの神々しさに祈るように手を組んだ。
「千年の間、世界を護ってくださった気高き血脈よ。……大いなる癒やしの光よ、ここに!」
エリスが杖を振り下ろすと、アイギスから幾千もの『光の羽』が舞い散り、眩い光の奔流となってシャドウの身体を包み込んだ。
「ぐっ……!?」
シャドウが短く呻く。
邪神の瘴気を極限まで引き出したことで、彼女の臓腑を内側から焼き焦がし、へばりついていた黒い呪いの塊。それがアイギスの神聖な光に炙り出され、真っ黒な靄となってシャドウの身体から抜け出ようと蠢く。
「消え去りなさい……ッ!」
エリスがさらに魔力を注ぎ込むと、光の奔流は暖かな白銀の炎へと変わり、黒い靄をジリジリと焼き尽くしていく。
やがて、千年もの間、暗殺者の一族を苦しめ続けてきた邪神の呪いは、キラキラと輝く光の粒子となって完全に霧散し、エルフェリアの空へと溶けていった。
「あ……」
シャドウが目を丸くする。
物心ついた時から、常に身体の奥底にへばりついていた鉛のような痛みが、嘘のように消え去っていたのだ。
「痛みは、完全に消えました。ただ……」
エリスが少しだけ申し訳なさそうに眉を下げる。呪いの痛みは消えたが、シャドウのドス黒く変色した肌の色までは、元の白い肌に戻すことができなかったのだ。
「完全に元の姿に戻せなくて、ごめんなさい……」
「何言ってやがる」
ポンタが鼻で笑い、シャドウの肩をバンッと叩いた。
「穢れなんざとっくに落ちてる。その色は、テメエらの先祖が世界を護り抜いた『誇り高き英雄の証』だ。堂々と胸を張ってりゃいいんだよ」
「……ああ。その通りだ」
シャドウは自分の黒い手のひらを見つめ、かつてないほど穏やかで、美しい笑みを浮かべた。
「これは穢れではない。私たちがエルミナの血を引く、誇り高きエルフである証だ」
アイギスから放たれた浄化の光は、そのまま地下の世界樹の根へと深く浸透していった。
乱れていた星の龍脈が清流のように整い、エルフェリア全土を覆う強固な『結界』が、再び色鮮やかに張り直されていく。
「わぁっ! 身体の奥から力が湧いてくるよ!」
マナが満ちたことで、弱っていたフィオが弾けるような笑顔を見せ、謁見の間の宙をくるくると飛び回る。
「フィオちゃん、元気になって本当によかったなの!」
ニアが獣耳をピンと立てて喜び、ハティと一緒にフィオの周りをぴょんぴょんと跳ね回った。
さらに、地下空間からズズズ……と地鳴りが響き、ポンタが破壊したはずのガーディアン(エント・パラディンたち)も、青々とした葉を茂らせて完全復活を果たしていた。
「あははっ! 師匠がいっぱい壊した木のお化けも治ったねー!」
「あんだけ蜂の巣にしたのに、随分と再生力が高いじゃねえか。さすがは世界樹の防衛機構だな」
巨大レンチを担いで無邪気に笑うルルの横で、ポンタが感心したようにショットガンを肩に担ぎ直す。
聖域は完全に浄化され、星の命脈は再び力強い鼓動を取り戻したのだった。
事態が落ち着きを取り戻し始めた頃。
近衛騎士団長が、改めてシャドウの前に跪き、真剣な面持ちで口を開いた。
「シャドウ様。元老院の長老たちは地下牢へ投獄し、厳しい裁きを受けさせます。しかし、トップが不在となった今、この国は大きく揺らいでおります。……どうか、正当な英雄の血筋であるあなたに、このエルフェリアの新たな『女王』となっていただきたいのです」
それは、千年の時を経て、エルミナの直系が正当な王座へと帰還する懇願だった。
だが、シャドウは静かに首を横に振った。
「その申し出は、感謝する。だが、断る」
「な、なぜですか……!」
「王座に座るのは柄じゃないが……いずれにしても、帝国の難民地区には、今も劣悪な環境で人質にされている私の同胞たちがいる。……彼ら全員を取り戻し、この手で自由にしてからだ」
決して同胞を見捨てない。その揺るぎない決意に、騎士団長は深く頭を下げた。
「……承知いたしました。ならば我々は、必ずや同胞の皆様をこのエルフェリアへとお迎えする準備を進めておきます。かつてのエルミナ様が望んだ『他種族と手を取り合う、開かれた国』へ向けて……それが、我らの償いの第一歩です」
ダークエルフすべての帰還と受け入れの約束。
それはシャドウにとって、何よりも価値のある、希望の言葉だった。
「さて。ジジイ共の掃除も、特使の仕事も片付いたな」
ポンタが首の骨をボキボキと鳴らしながら、ヒロインたちを振り返る。
ソフィアからの報告によれば、エルフの国の龍脈は完全に安定した。これで、ポンタたちが特使として巡るべき大国は、残すところあと一つとなっていた。
「残るは、北の大地にある『宗教国』だな」
「宗教国……」
次の目的地を口にした途端、ミリーナがふと、浮かない顔で俯いた。
「私の、ルナ一族の村があった場所です……。でも、幼い頃に村を襲撃されて、森で行き倒れになっていたところをギデオン様に拾われたので……私自身、詳しいことはわからないんです」
「ミリーナお姉ちゃんの村を襲った人達がいる国、なの?」
ニアが心配そうに見上げると、ミリーナは静かに頷いた。
「ええ。記憶は曖昧ですが……あそこは他種族に対して独自の厳しい教義を持つ、とても閉鎖的な国だと聞いています。特使の役目も、一筋縄ではいかないかもしれません」
「……安ずるな、ミリーナ」
ヒルデが力強く笑い、ミリーナの華奢な肩を抱き寄せた。
「どんな国だろうと、我らの敵じゃないさ。いざとなれば我の拳で全員まとめて目を覚ましてやる」
「ヒルデさん……。はい、ありがとうございます」
ミリーナの顔に、ようやく少しだけ安堵の笑みが戻る。
ポンタはコンバット・ショットガンを肩に担ぎ直し、不敵な猛禽の笑みを浮かべた。
「帝国のクソ野郎との決着の前に、最後の特使の仕事も片付けてやるか。ショットガンの弾はたっぷりあるからな」
エルフの国を縛り付けていた偽りの歴史は崩壊し、英雄の血脈は真の誇りを取り戻した。
エルフェリアに平和な風が吹き抜ける中、一行は次なる龍脈の調査と、ミリーナの因縁に向き合うため――北の大地にある信仰の国、『宗教国』へと新たな旅立ちの歩みを進めるのだった。
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