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mean.10



「え? なにがっすか?」


史帆(しほ)も大学1年のとき、同級生の女子に何から何まで真似されてた時期があってさ」


「え? なんすかそれ。初耳なんすけど」


 話も気になるけれど、前菜のスモークサーモンの料理がメチャクチャおいしすぎた。

 なんていうか……タレがうまい。あ、こういうオシャレな店だとタレなんて言わないか。

 ソース? ドレッシング? かかってるやつがめっちゃうまい。


 ジンジャーエールが進む。やばい、ここの店の料理、めっちゃうまい。


 信嗣(しんじ)さんもそう思っているのか、サーモンの前菜が皿から着実に消えていく。


 うまいっすよね信嗣さん。これマジでうまいっすよね。

 前菜ですでにこんなにうまいとか、ありえないっす。居酒屋のお通しでこんな衝撃走ったことないっすよ、俺。


「俺も史帆もそうだけど、心理系に集まる人種って、言い方は悪いけど大なり小なりメンヘラって言われる(たぐい)なんだよね。

 つまり執着心とか依存心とか……まあ、クセの強いパーソナリティを持ってるのが多いわけ」


 さらっと口にしたメンヘラという言葉は、姉ちゃんや信嗣さんも該当するのだろうか、そんなことが少し引っかかった。


 ちょっと変だけど、基本はしっかり者の姉ちゃんや、いつも穏やかで優しい信嗣さんには、メンヘラという言葉は似合わないような気がした。


「俺と史帆がつきあうようになったころから、ある女子が史帆の持ち物や服装、髪型、全部真似をするようになったんだ。

 すごくあからさまでね、まわりの人間もさすがに引いてたよ」


 俺は言葉を失った。


 姉ちゃん、俺にはそんな話……一度もしてくれなかったのに――。


「でも史帆のすごいところはさ、まったく動じないんだよね。そういう時も」


「姉ちゃん、どうやって対処したんですか?」


「真逆のタイプの服装に変えたんだ。ちょっとギャルっぽい感じだったかな。

 もちろん例の女子も真似するわけだけど、ある程度かぶりが安定したタイミングで、史帆はまた別の系統に服装を変えてた。

 研究室の先輩から服を借りてたみたいだったね。すごかったよ、どこから借りてきたか知らないけど、毎日色違いのチャイナドレスのときもあって。

 ……たしかまだ残ってたな。見る?」


 信嗣さんがスマホの画面を俺に向けると、まんざらでもない顔をした妖艶なチャイナ姉ちゃんの姿が写っていた。化粧はいつもより濃いめだ。

 しかもそれっぽい(おうぎ)まで持っている。

 ……これ、誰がなんの目的で持ってたものなんだ?


 そしてそんな4年も前の写真を――。


「保存してるんですね、信嗣さん」


 この人、どんだけ姉ちゃんのこと好きなんだろう。

 今日初めて信嗣さんにちょっと引いた。


「他の男たちのカメラから史帆を守るのにどれだけ苦労したか」


 しみじみと語る信嗣さん。


「最後はこれ。ショートヘアに、部活Tシャツ、ジャージズボン」


 信嗣さんがやっぱり保存していた姉ちゃんの写真。

 そこには姉ちゃんが、例の俺の部活Tシャツを着て、少年のような笑顔で笑ってピースサインしていた。姉ちゃんには珍しい表情だ。


 ……髪が短い姉ちゃん、初めて見た。いつ切ったんだろう。


「当然例のその子も史帆と同じ髪型に切ってきたんだ。その翌日、史帆は久しぶりに自分の私服で大学に来た。髪も巻いてね」


「え? 髪? 切ったんじゃ……」


「ショートのウィッグ。それも先輩からの借り物だったみたい。俺にも黙ってたからさ、普通にびっくりしたよ」


「その真似してた人、結局どうなったんですか?」


「発狂したよ」


「……は?」


「人から服を借りてた史帆と違って、その子は全部自腹で調達してたんだって。噂だと借金までしてたらしい。

 真似すれば真似するほど周りから気味悪がられて孤立していったし。

 途中から授業中にぶつぶつしゃべり出したり、一人でどこにもいない誰かと話してたりしてて、教授たちも様子うかがってたんだって。

 髪切っちゃったのがとどめになって、叫んで暴れて大変だったよ。

 保護者に連絡がいって、休学になって、留年になって……そのまま辞めたみたい」


 そんな、嘘みたいな話……。

 だいたいその人って何がしたかったわけ?


「……その人、なんで姉ちゃんの真似したんですか?」


「……聞きたい?」


 困った顔をして信嗣さんが笑った。あんまり言いたくなさそうな雰囲気だ。

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