転属命令
那覇基地に戻ると雅人は、たまっている仕事が山の様にある事に気付いた。そりゃあ一週間も留守にしていたら当然かとも思ったが、こうした事務作業など、中国海監の船を沈めた時の事を思えば、何ともない。残務処理を苦とも思わなくなったのは、雅人の成長だったのかもしれない。そんな最中に御偉いさんから声がかかる。
「桐生一尉、司令室に来てくれ。」
「は、はい。直ぐに行きます。」
その電話の先には美良海道海将補(第5航空集団司令官)と、雅人の直属の上官である横尾久夫三等海佐がいた。
「東京から帰ってきた君を呼んだのは、君に至急のお願いがあってな。何、そんな難しい事じゃない。単刀直入に言うと、転出して貰いたいんだ。」
「詳しい内容はこの後私が伝える。転出は幹部自衛官の証だ。胸を張って新天地でも頑張って欲しいと思う。」
「実はね、P-3Cのパイロットが八戸で一人足りなくなってね…。それで海幕から若い粋の良いのはいないかと打診されてね。」
「光栄な事じゃないか。対中戦闘で実績を残した中央は、お前を評価しての抜擢だ。」
「暑い土地から寒い土地に行くのは、辛いかも知れないがこれも、国防の為だ。桐生一尉の経験値も確実に増える。」
「この決定は海幕からの直接人事だ。」
「そうなんですね…。」
「君の様な優秀なパイロットを失うのは、こっちこそ惜しい。だが、仕方あるまい。これも運命だ。」
「君の勤務評定は実に優秀だ。だからこそ、そうしたパイロットは奪い合いになる。それが世の常だ。」
「荷物をまとめて一週間以内に八戸に行って貰う事になるが、引き継ぎその他の事項があれば済ませておくように。」
「ああ、それから八戸に任官した時点で桐生一尉は一階級上がり三等海佐となるので、伝えておく。」
「この昇進は間違い無く対中戦役の武功だ。おめでとう。」
「桐生一尉に伝える事は以上だ。何か不明な点があれば、私との面談で教えてくれ。以上、解散。」
「桐生、風邪引くなよ?八戸は寒いらしいからな。」
「大丈夫ですよ。コイツ体は鉄人クラスに頑丈ですから。」
「そりゃあ無いっすよ。横尾三佐?(笑)お世話になりました。」
その後、雅人は横尾三佐と二人きりで話をする事になった。




