見送りはいらねぇよ
雅人は、横尾三佐と二人きりになった。
「まぁ、座れ。緊張しただろ?」
「将官クラスを前にして緊張しない士官や下士官はいませんよ。」
「昇進おめでとう。これでお前も俺と肩を並べたわけだ。」
「僕以外にも中国作戦に参加した隊員で昇進した人はいるんですか?」
「詳しい事はマル秘なんだが、昇進した人間もいるし、そうでない人間いる。」
「八戸で人員が不足したと言うのは、本当の話なんですか?」
「そうじゃなければ、お前が八戸に飛ばされる理由が無いだろう?」
「そうっすよね。じゃあ今度は極東ロシア軍が相手か…。」
「対中戦闘の時のようにはいかんぞ?」
「短い間でしたが横尾三佐、お世話になりました。」
「こちらこそ。世話してやったぜ。」
「折角育て甲斐のある若い隊員を見つけたと思ったのだが…。」
「僕にとって最初の任地が那覇で良かったです。」
「そうか。片付け終わったら教えてくれ。部隊の隊員にも挨拶して行け。」
「はい。って言っても片付けはほとんど終わってます。」
那覇には、実働半年もいなかったが、赴任してからこの第5航空集団で起きた事が走馬灯の様に蘇って来るのであった。自分が三等海佐になる実感は無かったが、そんな事よりも八戸ではどんな困難が待っているのかと思うと、期待感よりも緊張感の方が高くなっていた。
片付けに使用したダンボールは1個。身の回りはさっぱりしておくのが良き幹部自衛官であると叩き込まれた雅人は、それを実践していた。それが終わり、横尾三佐の命令通り世話になった部隊の人間一人一人に挨拶をして回った。位の上下に関係無く丁寧に挨拶をした。それが雅人に出来る唯一の誠意の現し方であった。
自分が八戸に転属になる事以外余計な事は一切言わなかった。自己顕示欲が無いと言われれば、それまでなのだが、そうしたさっぱりしている所は雅人の長所であった。対中作戦で海幕からかなり高い評価を得ただけではなく、若手のホープとして順調に出世していたが、八戸では那覇以上の困難が待ち受けていようとは思いもしなかった。
見送りはあえて断った。見送りの人がいるといつまでも出発出来ない性格だからである。
「本当に見送りはいらないんだな?分かった。新天地でも頑張ってくれ。期待している。(敬礼)」
「(敬礼)失礼します。」
こうして雅人は第2航空集団のある八戸へと向かう事になった。




