もう一つの目玉イベント
「君たちの戦いも気になるけど、今年はどんなドラマが見られるのか、そっちも楽しみで仕方ないよね。僕たち、本当にいい時期に入学したと思うよ」
ノアが実に楽しそうに当日に思いを馳せる。
「ここまで人材が揃ったことなんて、多分学園史上初めてだもんね」
私も同意する。
多分マックスとヴァイオラ、それからガイやアーネストもだけど、それ以上にルーファス辺りは果し合いを挑まれて、休む間もないだろうな。現時点で最強の次期公爵だし。
とにかく力及ばずとも、人生最初で最後の記念受験みたいなもんで、この辺の有力騎士なんかには挑まなきゃ損だもん。
「あと、意外なとこで、ベルタもショーギ勝負を挑まれて大変になるかもね」
別の戦いへも目を向ける。勝負は何も物理だけじゃないのだ。
なんだかんだで、ガイへの二歩による反則負け以外は無敗だった。こっちも最後の一勝負で行列ができるはず。
さすがにこれは時間的な都合で、一対一は難しいだろうから、ベルタが何面差しになるかが、注目のしどころかな。
「ついでに言うと、戦闘ばかりじゃないのよ?」
ヴァイオラがニヤリと、面白そうに話題を変える。
そう――戦闘とは別に、青春と切っても切れないもう一つの目玉イベントがある。
それは、恋の告白大会!!
戦闘装備と並んで、告白用の花やプレゼント持参の奴も多い。そのためのオシャレでもあるのだ。
まさにこの日は、成立したてのカップルと玉砕した敗残者で、明暗がはっきりと分かれる日でもある。
三角関係の清算で殴り合ったり、諦めきれない相手に最後の告白を敢行してとどめを刺されたりと、学園中で繰り広げられる普段見られない光景も見逃せない。
こっちの戦いも、ザカライア時代のお楽しみの一つだった。
もちろん影で密かにというシチュエーションをこっそりのぞくのも捨てがたいけど、公開告白という青春の一幕に、どれだけ心をときめかせたことか!
「ディンズデール先生の話なんて、この時期はいまだに話題に出てくるわよ」
意外と恋バナ好きなヴァイオラが、とっておきの噂話を放出してきた。
「卒業する男子生徒が、先生に一世一代の告白をして、それが今の旦那さんなんだって」
「え~~~~~~~~っ!!!」
ユーカと二人できゃあきゃあと盛り上がる様子を横目に、そうそう、そんなこともあったなと、私も当時を思い出す。
そりゃ、はっきり覚えていますとも。一途で将来有望な年下男子を上手いこと釣り上げやがってこの小娘がっ! とどんだけ歯ぎしりしたことか。私に呪う力があったら、確実にあいつら爆ぜてたとこだよ!
「ここにいるメンバーは、それへの対応にも追われることになるだろうな」
キアランが気が乗らない様子でぼやく。
自惚れじゃなくて、経験と観察からくるキアラン特有の予測だから、きっと間違いない。
まあそっち方面は、目立つ面子には避けられないイベントだからね。こっちでも記念受験ならぬ、記念告白が多発する。
ダメ元で挑んで、信じられない大物を釣り上げる奴が何年かに一回くらい出て、学園に伝説を残すのだ。恩師であるシャンタル・ディンズデールを落とした男子生徒のように。
「グラディス! 人気のない場所は行くなよ!?」
多分一年生でご指名ナンバーワンになりそうなマックスが、自分を差し置いて心配してくる。
ちなみに人気としては多分キアランと二分するくらいだと思うけど、落としやすさというか、付け込みやすさというか、とにかく弱いとこから攻めるのが常套だからという理由で、マックスにより攻撃が集中するはずというのが私の予想だ。これはむしろ不名誉な評価だぞ、マックス。
「私よりあんた、肉食だらけのお姉さま方をちゃんとあしらえるの?」
「お、おう、当然だ! 戦闘に集中して、近寄らせる隙は作らねえ!」
疑いの視線で私に聞き返され、マックスが虚勢を張る。
でもそれ、逃げだから。全部の戦闘が片付いて疲れ果てたとこに殺到されるだけの悪手だから。身をもって作戦ミスを学習するがいい! 来年も再来年もあるからな!
その上卒業生の立場になったら、後輩からのアプローチも可になるから、最終学年では絶対数が全学年に及んでしまうという恐ろしいシステムだ。
隣で苦笑するキアランも、一年目から確実に玉砕攻撃が殺到するはず。王子に身近に接する最後のチャンスだからね。
非公開とはいえ、一応カノジョとしては心配しなきゃいけないとこだろうけど、こっちはしっかりしてるから問題なし! ちょっとやそっとじゃ突破できないガードの堅さは、大預言者の折り紙付きだ!
「まあ、私の方は大丈夫だよ。大体、校庭で他の戦いの観戦してる予定だから」
とりあえず取り越し苦労の弟を安心させるために、一番安全な行動計画の予定を答える。
観覧用に設けられる非武装地帯に椅子でも持ち込んで、ピクニック気分で、時折舞い込んでくる火の粉を払いながらのんびりとバトル観戦を楽しむのだ。ビールが欲しいとこだ。飲めないけどね!
もしコクりに来るやつがいても、気を持たせることなく衆人環視の中キッパリお断りするし。
――って、我ながら私も随分偉くなったもんだな! やっぱり彼氏ができると心の余裕が違うわ!
そして逆にケンカを売られても、非戦闘職同士でなら、男相手だろうが殴り合いで負けない自信はある。まして一般人に対しては実力行使を禁じられている戦闘職からの口撃に関しては、負ける要素が欠片も見当たらない。ジャンジャンバリバリかかっておいで!!
「今年の目玉は当然、ガイとアーネストの学園生活最後の一騎打ちだね。賭けの倍率がトントンっていう接戦だよ」
「あと、ハンター家の次のトップ争いもね。三年間不動のリーダーだったガイが卒業するでしょ? 卒業準備日に果し合いで来年度のリーダーを決めるのよ。今年はジェイド対ギルね」
ノアとヴァイオラが、それぞれに耳寄り情報を開示していく。確かに人材の当たり年だけあって、今年は注目対決が目白押しなんだよね。
それにしても、長年学園に居座った私ならともかく、一年生でよくもまあそんなに情報持ってるものだと感心するね。
それくらいの注目イベントってことだ。
それだけに私の目下一番の心配は、ドレスのデザインが決まらないことなんだけど。
まだ在校生とはいえ、晴れの舞台に納得のいかないものを着るわけにはいかん!
『マダム・サロメ』の高級路線で行くか、『インパクト』の未発表な最新作で行くかすら、いまだに決められないなんて、あまりにも私らしくない。
タイムリミットが着々と迫ってきて焦るばかりなんだけど、さて、どうしよう?




