ラインナップ
――バルフォア学園影の伝統行事、卒業準備日。
よく言えば壮行会とか送別会。実質は追い出し会。
あらゆる心残りの解消が許される一年で最後のイベント。遣り残した事をすっきりと片付け、晴れ晴れと卒業生に旅立ってもらうのだ。
教師だろうが先輩だろうが格上貴族だろうが、完全に無礼講で、学園生活でたまった遺恨を、お互いに心置きなくぶつけられる特別な一日。
この日が設けられているがために、普段は我慢出来てるところもある。
だから自由登校と言いつつ、出席率は学生も職員もほぼ百パーセント。暗黙の了解ってやつだね。
まあ私は、やりたいことは遠慮せずやって来たから、今更卒業生の誰かに思うところは特にない。せいぜいダニエルとお別れ会でもしたいくらいかな。私にとって初めてのまともなパーティーは、すごく新鮮で楽しかった。ギディオンとのパーティーはほとんど反則だったからね。
この伝統の裏行事、当然学園の傾向として、心残りを晴らす手段は、サシの勝負が主流となる。
本来校内で私闘をする場合は、学園に届けを出して許可をもらい、見届け人の下で行われる。だけどこの日ばかりは各自の裁量の下で、かなり自由度の高い作戦行動が許される。魔術使用も可で、持てる全力で戦えという学園の粋な計らい! もちろん医務室は治療特化の魔導師を揃え、フル稼働の態勢を整えて患者を待ち受けている。
長年のライバルとの決着、受けた仕打ちへの仕返し、先生に対するあれやこれやといった不満、一方的な逆恨みまで、どんな心残りも上下関係なしでぶつかりに行けるとあって、今から浮足立っている生徒も少なくない影の花形イベントなのだ!
「卒業生は悔いなく卒業するため。在校生も悔いなく送り出すため。その準備、という意味合いだからな。学生生活最後の決着とあって、学園のあちこちで盛り上がるそうだ」
「卒業式本番と違って、みんなイベントに臨む意気込みが違うよね~」
キアランとノアが、分かりやすく補足してくれた。
魔術ありのガチ決闘で見どころ満載だけど、もちろん普段は目立たないような普通の学生だって、最後のチャンスにはっちゃける。
一般生徒なんかだと、この卒業式準備日で、初めて殴り合いの喧嘩をしたというOBも少なくない。非戦闘職ですら、身に覚えのある奴は防具や武器持参が常識だ。なんか、嫌な常識だな。
それからもう一つの常識も、ユーカに教えておかないと。
「まあ私たちは残る側だから、けりをつけたい卒業生でもいない限りは受け身で待機なんだけどね。その代わり三年生から挑まれたら、逃げはなしだから」
これも重要なルール。
それはもう、プロレスの見せ技の作法のように真正面から受けて立たないといけない。
この日ばかりは、基本的に勝つためなら何でも認められる流儀の学園でも、逃げ隠れは許されない。
だって戦略的撤退ってのは、後日の勝利を見据えての作戦だからね。もう次のない最後の一番で逃げたりしたら、戦わずに負けを認めた腰抜けってことになる。
卒業という晴れ舞台を前に、そんな腑抜けた姿を見せたら、何十年経っても語り継がれる笑い者確定だ。
「毎年の恒例行事として、多少のことは大目に見られるお楽しみ会みたいなもんだよね。今年度は目玉対決が目白押しで、僕も今からどれを見ようか悩みどころだよ」
ノアが面白そうに付け足す。こののぞき屋め! でも激しく同感だ!
愉快な悲喜こもごもが学園のあちこちで観覧できるこのイベント。毎年何かしらの見どころ対決があって、当然教師時代はトップクラスのお楽しみ行事だった。
ここでもやっぱり記憶に残るのはトリスタンだ。
卒業生・在校生が手を組んだ『騎士・魔導師連合軍』対『卒業生トリスタン』の一戦は、今も語り草! トリスタンに関してはもう最初から一騎打ちの前提取っ払われてて、まるで大昔の番長漫画のような手に汗握る展開に、観戦してる私も超燃えた! そしてもちろん勝ったのはトリスタンだ!
さすがのあいつでも一日仕事だったけど、見事やり切った。
今思えば、迫りくる危機を見事かわし続けられたのは、戦闘力以上に、隠れ預言者の鋭いカンのおかげだったんだろうな。未来の情報という究極の武器が、いかにチートかを示す一例だね。
それから普段滅多にみられない戦闘職対一般人、あるいは生徒対先生なんかのマッチメイクも頻発する。こっちは戦闘が禁止な分、見応えのある壮絶な舌戦となる。
教師から返り討ちの論破を食らい、完全敗北で締めくくるのも毎年見られる一つの決着。教師サイドは油断することなく理論武装の準備を整え、職員室で手ぐすね引いて挑戦者を待ち受けているのだ。生徒への最後の餞別。これに負けるようじゃ学園の指導者は務まらない。
あとは、ハンター家被害者の会が結託して、卒業するハンターを取り囲み、心置きなく今までの迷惑行為に対する罵詈雑言を浴びせかけるのも定番行事。逃げずに相手をしないといけないから、ガイは覚悟しとけ。多分ダニエルも。
ある意味これも卒業パーティーの断罪になるのかな?
とにかく溜まっていた鬱憤の全てをぶつけ、翌日の卒業式には全員遺恨なしで、すっきり晴れ晴れと式に臨むのだ。
何割かの生徒は、治しきれなかった怪我と包帯とともに。
「マックスとヴァイオラは、今から覚悟しときなよ。腕に覚えのある卒業生から、果たし状が雨アラレだからね。未来の公爵に挑めるチャンスなんて、これが最後だから殺到するはずだよ」
「ふふふ。すでに故郷からフル装備は持ち込んでるわ。一人残らず返り討ちよ」
ヴァイオラが不敵な笑みを浮かべる。おお、これもある意味リアル公爵令嬢の返り討ち。ただし超物理。
「おう、俺も楽しみだ。久しぶりの正装だから気合入るよな」
マックスも拳を反対の掌にパシッとして見せる。
マックスが着る予定なのは、本拠地であるラングレー領軍の騎士戦闘服。多分ヴァイオラもご同様のはず。
戦闘職なんかは、所属組織での自前の正式なユニフォームをまとっての参戦が通常。騎士としては、自領の軍服が一番の晴れ着だからね。
私としても、国中のいろんな正装が見られて面白いんだよね。
「私もデザイナーとして恥ずかしくない衣裳を用意したいなあ」
自分の服装への意気込みを口にしたものの、まだまったくの手付かずで、実はちょっと焦っているところなのだ。
サロメからも間に合わなくなるから早く案を出せとせっつかれてはいるんだけど、どうしてだか今回はイメージが一向に降りてこない。
こんなことは珍しい。いつもなら着たい服だらけで、選ぶのが大変なくらいなのに。
最近の私の一番の悩みどころだ。
一方でそんなやりとりに、ユーカが首を傾げた。
「え? 制服じゃなくていいんですか?」
「制服でもいいけど、この日はみんな自前の服だね。実戦形式になるから、当日は一番慣れた装備か、花道に相応しい装いで臨むの。実家から家宝の剣を持ち出してくるのも普通にあるし。戦わない子たちはめいっぱいのオシャレをしてきたりね。あ、でもユーカは今年一番のダークホースだし、戦闘職から挑まれる可能性高いから、着飾るより実戦装備の方がいいかもね」
私の予想に、ユーカが目を丸くする。
「え~、私逃げるのが一番の得意技なんですけど」
来年度からは、魔導師にジョブチェンジがほぼ確実なユーカがぼやく。
でもそんな言葉とは裏腹に、腕が鳴るぜと言いたげな、やる気満々の顔だ。
いやホント、この国との相性抜群だよね。すっかり馴染んじゃって。
実際ユーカは魔術の訓練を積み重ねてきて、それなりに戦えるようになってきてる。ただ、今のところ一番の得意技は本人の言う通り、転移魔術なのだ。
だって修行する以前に、私が脳に直接術式を刻み込むというドーピングを施しちゃってるから、成長の伸びが圧倒的に違う。
「ふふふ。転移魔術は戦闘に関しては逃げるだけ、ってわけでもないよ。いろいろと応用を考えてみなよ。ユーカしか使えないのは、最大の強みだよ」
軽くアドバイス。教えすぎてはいけないからね。自分でよく考えるように! 私的には一番のお気に入り。応用は無限大の魔術だ。




