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大預言者は前世から逃げる ~三周目は公爵令嬢に転生したから、バラ色ライフを送りたい~  作者: 寿 利真


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釣り

 クローディア・アヴァロンとの対決。


 それは窓越しの初対面の翌週にやってきた。特別授業は週一回だから、実質二回目でいきなりだ。

 早いのは、せっかちな私が待ち切れなかったせいだけど。お楽しみはあんまり引っ張れないのよ。

 睨まれてた理由も気になるし、サービス精神が旺盛だから、早く相手をしてあげたくなっちゃって。


 目立ってるだけあって、内心で私にケンカを売りたい層というのは、それなりにはいるけど、大体は事前に回避している。

 自分から問題なんて起こしたこともない学業優秀な模範生! 教師たちの真意はどうか知らんけど、私は学園の優等生なのだ!


 今回それを覆してでも見逃す気がないのは、今スルーすると、将来的にためにならない事態が起こるから。起こりかねないじゃなくて、確実に起こる。ここは断言する。

 ルーファスには世話になってるし、来年後輩になる妹ちゃんのために、一肌脱ぎたい。超苦いお薬になるかどうかはあの子次第だ。

 

 午前の授業が終わり、昼休みに入った瞬間、グ(・)ッ(・)ド(・)タ(・)イ(・)ミ(・)ン(・)グ(・)の予感が、今まさに降りてきたとこだった。


 これは機を逃さず、直ちに行動しろってお告げだよね!?


 戦場でかち合う前から、戦いはすでに始まってるのだ。むしろ接敵の前に全部の準備が終わってるくらいでないと。

 そして事前の予測に関して、私を超える者はいないぞ。


「ちょっと用事を片付けに行ってくるね」


 学食に移動しようとするみんなに、散歩でも行くようにさらっと単独行動を宣言する。


 付いてくるなと露骨に匂わされ、真っ先に食いついたのはマックスだ。


「用事って、一人でか? 何しに?」

「内緒」


 ふふっと笑ってはぐらかす。強いて言うなら、未来の後輩と遊んでくる、ってとこ?

 中途半端な状態をだらだら続けるのは好きじゃないから、とっととけりを付けてくる。まだ始まってもいないものに、どんだけせっかちだ。


「なんだか楽しそうです。一緒に行っちゃだめなんですか?」

「一人でないと『イベント』が始まらないから」


 同郷のユーカには、いかにもゲーム的な説明を返す。能力の高い騎士は感知力も強い。近くに仲間がぞろぞろ隠れてたら、釣れないからね。


「ますます面白そうです。残念」


 余計期待を膨らませちゃったな。実(・)況(・)は無理だけど、後でちゃんと解(・)説(・)してあげるから。


「また悪い顔をしてるな」


 何かを悟ったように、キアランが遠い目をする。


「ほどほどに……とは、お前には言うだけ無駄だな」


 おっしゃる通り! やるからには何事も全力でやるに決まってる。


「そういえば今日は、未就学者の特別授業があったわね」


 私たちのやり取りで、思い当たる節があったらしいヴァイオラが、探りを入れてくる。


「昨日訓練でクローディアに会った時に、グラディスのことを色々訊かれたんだけど。何かあった? お世辞にもいい印象はない感じだったわよ」


 うん、これから起こるとこ。


「すぐに解決すると思う」


 意味ありげな笑みを返す。

 ヴァイオラとクローディアは、同じく公爵家の女性騎士。同年代のライバルでもある。それなりの関係は持っているらしい。


 それにしても情報収集の形跡をターゲット本人に曝されるとは、詰めが甘いにもほどがあるな。教科書から外れたことはお粗末なタイプ?

 そうやってあちこちに痕跡を残すから、全く関わりのないキアランにまで察知されちゃってるし。少しはノアの鮮やかな手際を見習え。――いや、怖いからやっぱいいや。


 と思ってたら、ノアがいつの間にか気配を完全に消していなくなってやがった!

 アップは万全、特等席で観戦する気満々ですか。よし、虎狩りをする子ウサギちゃんの雄姿をその目に焼き付けとけ! もちろん虎が私だ!


「じゃ、ちょっと行ってくるね。何(・)が(・)起(・)こ(・)っ(・)て(・)も(・)、心配いらないから」


 ちょっと不穏なセリフを残して、足取りも軽やかに教室を出ていった。

 言葉の意味を理解したのは、キアランだけらしい。気遣わしげに溜め息をついていた。


 ちゃんと考えれば、キアランのようにおおよその結果を読むことはできる。私の対抗の仕方は、消去法でかなり限定されるから。


 だってどれだけ格闘技を磨いたところで、一般人が騎士や魔導師に戦闘で勝つことは不可能。普通の人間が変身ヒーローなり怪人なりに挑むようなもので、スポーツ観戦的には超燃える番狂わせなんて絶対にない。全ての基本性能が次元レベルで違う。


 でも私たちの世界は、世(・)紀(・)末(・)じゃないからね。戦闘職でなくてもやりようはある。

 要は最後に笑った者の勝ちってこと。


 迷いのない足取りで、いつもは通らない通路を一人で歩いていく。

 普段独り歩きをするときはトラブルを避けたルート選びをするけど、今日は逆。確実に絡まれるルートへ一直線。

 気分はすっかり名軍師。自軍の有利な地形に敵を導くべく策略を巡らすやつ。負ける戦いは始めからしないのだ!


 生徒同士の衝突は、禁じられてもいないし、学園も一切介入しないけど、厳密なルールはいくつかある。


 その一つが、学園敷地内は、全面的に魔術使用禁止。医務室や、実技の必要性がある場でしか許されない。

 しかも、軽い魔術程度だったら、使おうと思えば使えるのがある意味いやらしい。


 安全上、攻撃性の高い魔術は、敷地内の結界で妨害されるのに、日常使いがちな生活魔術とかは、その気になれば使えるのだ。魔術の使用頻度の高い生徒ほど、普段から自制心とけじめが要求される。私にはきれいさっぱり関係ないけど。


 そして施設内は常時、警備室でモニターされていて、うっかり魔術を使おうものなら、直ちに魔力を検知される仕組みだ。当然犯人もすぐに特定され、内容に応じたペナルティを受けることになる。


 暗示事件の時に、キアランとガイが反省文コースになったのが記憶に新しいとこ。あれは事情が事情だけに、大分情状酌量されたケースだけど、普通は成績や学園内の待遇、下手したら進路にも大きく響く。


 そしてもう一つ、当然のことだけど法令に則ること。騎士や魔導師は、力のない一般人にその力を振るえない。

 一周目で空手家だった時は、とにかく暴力沙汰には細心の注意を払った。格闘家の拳は凶器と同じと、口が酸っぱくなるほど言い聞かされたものだ。

 ここでも同じこと。


 戦闘職の力は、国民を守るために磨かれるもの。その牙を、守るべき対象に向ければ、厳罰は免れない。何より、地位の高い貴族ほど、誇りにかけても許されない、末代までの恥になる行為だ。

 言い換えればクローディアは、磨き上げた自慢の武器を、か(・)弱(・)い(・)私相手には使えない。

 だからこそ、学内での衝突は工夫のしどころがあるんだけど、腕自慢はその事実の重さに気付いてるのかな? 普段の戦場とは、明確に戦い方が違うことに。


 いかにルールの範囲に収めた攻撃ができるか、あるいは法の目をうまくかいくぐれるか――勝つための重要な部分は、社会と同じ。

 失敗が許されるうちに大胆にそれを試行錯誤できるのが、この学園の大きな意義だね。


 だから私は、売られたケンカを持(・)て(・)る(・)全(・)て(・)の(・)力(・)を活用して迎え撃ってもいいのだ。


 廊下を曲がる直前、頭の中でカウントダウンを始める。


 ――3、2、1……。


 突然私の前に立ちはだかる人影があった。

「大預言者は前世から逃げる ~三周目は公爵令嬢に転生したから、バラ色ライフを送りたい~」

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挿絵(By みてみん)

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