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俺はいつものように屋上にいた。

絶好の読書日和だ。


だが、今の俺には読書以外にやるべきことがある。


「水ノ宮くん」

「来たな、華藤。見してみ」

「はい」


華藤アオイに、1週間のスケジュールを具体的に表にして作ってくれるよう頼んでいたのだ。


俺は渡された表を眺める。

予想よりも全体の印象が、かなり黒い表だ。びっしり文字で埋まっている。

無駄にイラストまで入っているのは、自分で可愛いとか思っているのだろうか。思ってるんだろうな。


ざっと、目を通したが、それだけで疲れてきた。

ラノベ、3冊くらいは一気読みした気分だ。

これを誇張なく実践しているのなら、すごいことだ。


人間業(にんげんわざ)とは思えない。

もはや人を超えた何かの領域に達しつつあるんじゃないだろうか。


「どうかな」

「お前、なんでまだ生きてるんだ」

「そ、そんなに?」

「だいたい、睡眠時間が2時間ってなんだよ、ナポレオンか。ボナパルトか」


これはやはり華藤が命尽きてしまう前に改めさせる必要がある。


「ちょっと待ってろ」


そう言って、俺は新しいスケジュール表を作り始めた。

もっと現実的で、人間らしい生き方ができるやつを。


やるのは華藤だから、本人の意見も取り入れないといけない。


「風呂は、一時間も要るのか?」

「いる、絶対」

「ふむ。身体はどこから洗う派だ?」

「そ、それ、聞かないとだめ? んーと、首?」


首か。なるほどな。


俺は入浴する華藤を、詳細に想像してみる。なるほどな。


「あ、今、エッチなこと考えてたでしょ!」

「失礼だな。俺は、常にエッチなことしか考えていない(おとこ)のなかの(おとこ)だ。今だけに限定するな」

「水ノ宮くんって、そんな人だったの? んー。イメージとなんか違うんデスケド」


他人を見た目で決めつけるから幻滅するんだ。

俺なんか他人の本性は基本最低人間のスタート地点で想定するから、あとの評価はひたすら登り坂だ。


それにしても、今まで水ノ宮の身体でセクハラ的な発言をしようとすると、呪縛様の圧力によって沈黙を守るよう、ねじ伏せられたものだった。

それが、華藤が相手だと作用しないらしい。

華藤の前でだけは、俺は自由でいられるということなのか。


「これで、よし」


何パターンかに分岐するが、大枠は固まった。

このスケジュールなら、継続可能であろうというものがだ。


「3人だ」

「えっ」


俺は懇切丁寧に伝わるよう、指を三本立てて華藤に示す。


「6人から、3人に絞って、このスケジュールでいけば、この先も生き永らえるぞ」


俺は、書きなぐった新スケジュールを華藤に渡す。

水ノ宮の身体で文字を書くと、適当にやっても美文字になるから不思議だ。


華藤はしばらく表とにらめっこする。


「確かにこれなら」


納得したようだ。

それだって、本来、人に薦めるにはなかなかタイトなスケジュールなのだが。


「3人かぁー」

「できないのか?」

「ううん、大丈夫。そうだよね、けじめって大事だよね」


華藤は頭を抱えて悩み始めた。

今、この瞬間(とき)に何人かの攻略対象キャラの運命が大きく岐路に経たされていると思うと、ちょっとゾッとするな。


「土浦くんは、ちょっと合わない気はしてたんだよね、笑いのツボとか」

「じゃあ、そいつはナシだろ。笑いのツボは絶対、合ってた方がいい」


一人消えた。

すまん、土浦。よく知らないけど。


「緑河先生は、何か違うかなって思い始めてたから」

「お前、教師にまで手を出してたのか」

「人聞きの悪い言い方やめてよ。だから違う気がしてたんだって。年の差があると、やっぱり話が合わなかったりするし」

「ん、まあ、いいや。先生も、ナシっと」


そう言えば、変な緑色の髪のナルシストっぽい教師が学校にいるとは思っていたんだ。

あれも、攻略対象だったんだな。


「じゃあ、これで絞れたな」

「え? あと一人、残ってるよ」

「何言ってんだ。俺を外すだろ。それで、数が合う」


華藤はキョトンとした顔をしている。


何か意外なことでもあるだろうか。

俺としては、攻略対象を減らす話になったら、真っ先に自分が消し去られるもんだとばかり思っていた。


これで、華藤の攻略対象から完全に外れることになれば、もしかすると呪縛様から解放されるかもしれない。

そうなればあれだ。

この身体ならそう、よりどりみどりというあれなのではないか。


俺は、俺自身のリアル恋愛攻略が可能になるわけだ。


楽しみだぜ!


「駄目だよ」

「は?」

「外せないよ」


何を言ってるんだ。


「大丈夫だって。これからも、話を聞いたり、相談には乗るから」

「そういうことじゃないの」

「ど、どういうこと?」

「私ね、水ノ宮くんのこと、もっと知りたいもん」


スクっと、華藤は立ち上がった。

顔が真っ赤だ。


「水ノ宮くんが、私の本命なんだから!」


華藤はそう叫んで、走り去っていった。


ひとり取り残されると、いつもの屋上が何故だかひどく閑散とした空間に思えた。


本命って言ったよな。

うん、ちゃんと耳に残っている。確かに言った。

冗談っぽくもなかった。


本命か。


俺のどこがいいと思ったのだろうか。

やっぱ、見た目か?


もしかしたら、見た目と中身のギャップに萌えちゃったとか?

無いだろうな。それは無いわ。


もしかすると、もともと水ノ宮ユキトは、乙女ゲームのメインの攻略対象だったのかもしれない。

ようするにスタート時点で本命だった。

だとしたら、俺なんかが中身に入ってしまって悪いことしたな。


俺の責任ではないが。


ということは、攻略され続けるんだな、俺。

今のでちょっと、胸キュンしちゃったもんな。

間違いなく、華藤アオイの存在感が俺の中で増した気がする。


自分で自分の、華藤への好感度ゲージが上がった感触がした。


俺は、さっきまで華藤がいた空間に、華藤の見えない幻の輪郭を思い描く。

やばいな、すでに好きになり始めてるのかも。


俺を攻略するだと?


ふん。


面白い。やれるもんなら、やってみろよ!






~END~


お読みくださり有り難うございます!

今のところ何も決めてませんが攻略対象シリーズは、また書くかもしれません。

世界観とか、主人公の職業とかで、リクエストがありましたら教えて下さいね。書けそうなやつなら、チャレンジしてみます。

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