第8話:堂々巡り
時雨とルミナが暴れ回ったことによるショッピングモールの被害は、爆発事故として、世間的には処理されることになりそうだった。
現場で目の当たりにした……と言うより、その要因である身としては少々申し訳ない気持ちになる。まあ、説明するにしてもしようがないし、誰も信じてくれないだろう。
さて、件の事件による死傷者はいなかった。厳密に言えば、俺が怪我人ではあるのだが、記録として怪我人はいないことになっている。
自室のベッドの上で右腕を天井へと突き出しながら、その掌を眺める。
事件から二日が経過したとは言え、時雨の突き出したナイフを受け止めたはずの右手には傷ひとつに残っていなかった。
腹の上で眠りこけている海月に視線を移し、右腕を下ろす。
時雨とルミナ。二人は気になることを多々言っていた。
「霊長後継戦争か……」
正直な話、仰々しいと思うし、馬鹿馬鹿しいと斬り捨てたいところである。
だが、そうできない理由は明確だ。
あの日の戦闘と空から落ちてきた卵から生まれた海月の存在こそ、その証明となる。
「……変なことに巻き込まれたな」
寝ている海月の頭を撫でながら、思わず呟く。
あの時、ルミナにはああ言ったものの、興味があるかないかで言えば、興味はある。しかし、それに参加するか否かについては全く別の話。
地球の意志、霊長候補、アダムとイヴ——あの僅かな時間だけでも、何かしらの意味がある言葉を知った。その全てについて意味は理解できないが、海月は勿論、俺にも関係してしまうもの。
「霊長候補とイヴは海月のことで、アダムは俺か。地球の意志が今の人間を見放した。結果として次の霊長——人間の代わりを選ぶことになった。その方法が霊長後継戦争ってところか?」
言葉にしながら、情報をまとめていく。
同時に、とある事実が明確になっていくことに、薄ら寒さを感じる。ただ、俺は見て見ぬふりをした。それを認めてしまうと、何かが決定的に崩れ去ると思ってしまったからだ。
ほう、と溜息を短く吐いて、天井を見つめる。
これから今回のような襲撃が起こるのだろうか?
俺や海月は当事者だ。巻き込まれるのは仕方ない。しかし、他の者たちが巻き込まれる可能性は否めない。
時雨とルミナは人祓いを施し、極力周囲を巻き込まない配慮をしていた。それは、あの二人の性格によるものだろう。だが、関係者全員がそうとは限らない。周囲に無頓着の者もいれば、敢えて被害を拡大させるような者もいるはずだ。
その時、俺はどうする?
霊長後継戦争。その勝敗はアダムまたはイヴ、どちらかの死。
————海月を差し出せば丸く収まる。
そんな邪な考えが過り、自己嫌悪に陥る。
それはできない。
では、どうする?
堂々巡りとなる思考の中で、俺の意識は少しずつ沈んでいった。




