表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶太郎がゆく ~猫と霊を癒やす料理で、戦国の天下を巡る~  作者: 莵月
第二章 ~四歳の茶太郎、京の大火を知る~
PR
90/311

第86話 「宇治の竹炭と、速い火・長い火」

 ――同じ黒い炭でも、役目は同じではない――


 北山と東山で木屑炭団が作られるようになると、宇治でも製法を学びたいという者が増えた。


 茶師、農家、竹細工師、商屋の奉公人。


 秘密基地の前には、多くの大人が集まった。


「宇治には竹がようけある」


 竹細工師が、籠いっぱいの削り屑を置く。


「これも杉の木屑と一緒に固めたら、炭団を増やせるやろ」


 宇治では、竹林の手入れで細竹や枝が出る。

 竹籠や茶道具を作れば、削り屑も残る。

 捨てるより炭にした方がよい。


 茶太郎も、そう考えた。


「まず少し混ぜて試そう」


 竹の削り屑を炭化し、宇治の雑木炭へ加える。

 古米の糊と混ぜ、甚八じんぱちの木型で押し固めた。

 見た目は、これまでの木屑炭団とほとんど変わらない。


 カイが匂いを嗅ぐ。


「ちゃんと炭になってる」


 京鈴きょうすずも音を確かめた。


「中まで乾いてる。高い音がする」


「これなら大丈夫だね」


 茶太郎たちは、竹炭を混ぜた団子へ火を入れた。


 すぐに赤い火が広がる。


「北山の炭より、ずっと早い!」


 こたろが喜ぶ。


「これなら、早くお湯が沸くよ!」


 レオは香の印を見つめた。


「……でも……減るのも、早い……」


 鍋の水が沸いた頃には、炭団の半分以上が白い灰になっていた。


 そのまま茶粥を炊き始める。

 だが火力が急に落ち、米が十分にほどける前に火が消えた。


 茶太郎が味見をする。


「硬い……」


 さらに竹炭を多くした炭団では、火が一気に強くなり、鍋底の米が焦げた。


「同じ炭なのに……」


 茶太郎は失敗した茶粥を見つめる。


 竹細工師が申し訳なさそうに言った。


「やっぱり竹の屑は、炭団には使えんか」


「違うと思う」


 ゆかりが、二つの竈を見比べた。


「竹の火は悪いんじゃなくて、速いんだよ。木の炭と同じ仕事をさせたから、合わなかったんじゃないかな」


 茶太郎は顔を上げた。


「速い火には、速い火の役目……」


 湯を早く沸かす時には竹炭。

 長く煮込む時には木屑炭団。

 最初から混ぜるのではなく、料理の途中で使い分ければよい。


 ゆかりは二色の組紐を並べた。


「竹炭団には青緑。木屑炭団には茶色。誰が見ても間違えないようにしよう」


 こたろが炭団を別々の籠へ移す。


「速い火と、長い火!」


「走って運んだら、どっちも危ないで」


 かん太に言われ、こたろは歩幅を小さくした。


「分かってる。火を運ぶ時は、もっとゆっくり」


 竹だけを使った《竹炭団たけすみだん》を新たに成形する。

 木屑炭団より小さく、中央の穴をわずかに太くした。


 レオが燃焼時間を記録する。

 カイは炭化の色を見る。

 京鈴は乾燥音を確認する。

 こたろは一籠の個数をそろえる。

 ゆかりは青緑の紐を結び、用途を書いた木札を付けた。


 ——湯沸かし用。

 ——長い煮込みには使わない。

 ——火が回りやすいため、入れすぎない。


 二度目の茶粥作りが始まった。


 最初は竹炭団で神水を沸かす。

 鍋が沸いたところで竹炭団を別の火鉢へ移し、茶葉と米を入れる。


 その後、宇治の雑木で作った木屑炭団へ替えた。


 弱い火が、長く鍋底を温める。

 米はゆっくり膨らみ、茶葉の香りを吸い込んでいく。


 今度は焦げず、芯も残らなかった。


「できた……!」


 茶太郎は、茶粥を皆へ取り分けた。


 竹細工師が一口すすり、目を細める。


「竹の火と、木の火。両方で作った味か」


「うん。どちらかだけが優れているんじゃないんだ」


 茶丸ちゃまるが竈のそばで尾を揺らす。


『異なる性質を、無理に同じにする必要はない。順を整えれば、互いの力を生かせる』


 ゆかりの糸が、青緑と茶色に輝いた。


「人の役目と同じだね」


 試食のあと、茶太郎はもう一品を作った。


 竹炭の速い火で水飴を短時間だけ温め、宇治抹茶を練り込む。

 それを米粉団子へ薄くかけた《抹茶水飴団子》だった。


 黒漆の器に、白い団子と深い緑の水飴が映える。

 茶師たちは息を呑んだ。


「茶を飲むのではなく、食べる……?」


「苦みが、水飴の甘さを引き締めとる」


 森彦右衛門もり・ひこえもんは二つ目へ手を伸ばしながら、難しい顔をした。


「これは京の茶人が騒ぐぞ」


 宗次そうじが笑う。


「商いになりますか?」


「なる。じゃが先に、作り方と火加減を固めい。評判だけ先に走ったら、似ても似つかん物が出回る」


 宗白そうはくは製法帳に新しい頁を加えた。


 北山産——長い保温。

 東山産——短めの煮込み。

 宇治木炭——茶粥と出汁。

 宇治竹炭——湯沸かしと短時間の加熱。


 同じ黒い炭でも、土地と材料によって働きは違う。

 違いを隠さず、役目として示すことが品質を守るのだ。


 数日後、茶葉の焼印を押した木屑炭団と、竹葉の印を押した竹炭団が下京へ送られた。


 その籠には、抹茶水飴団子も少しだけ添えられていた。


 ほどなく京で、また新しい噂が流れ始める。


 ——宇治の幼子は、火の速さまで料理で使い分ける。

 ——黒い炭団の次は、緑に輝く甘い茶を作った。


 けれど秘密基地では、子どもたちが焦げた茶粥を囲み、どこを失敗したのかをまだ話し合っていた。


 噂より先にあるのは、いつも小さな失敗と、皆で考える時間だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


同じ炭でも、材料や作り方が違えば、火の強さや持続時間も変わります。それを優劣だけで比べず、湯沸かし、煮込み、保温と役目を分けることが、土地ごとの品質を守ります。


今回生まれた抹茶水飴団子も、最初から成功したわけではありません。評判の陰には、焦げた茶粥と、失敗を囲んで考えた時間があります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白いと思っていただけたら、ぜひブックマークや評価(★)をお願いします!
『茶太郎がゆく』
style=
目次からブックマークをお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ