12.
「これは、あなたが守れなかった約束の証。あなたに返すわ」
小さなダイヤモンドが付いた簡素なデザインの指輪。
幼い頃。これを付けていれば母の体調が良くなると思った。けれど、今では裏切りの証になってしまった指輪。
重たい沈黙が部屋を支配する。
アイザックとミエールは、ロザリンの宣言に驚きで固まったまま。
「なっ……、婚約破棄!?ま、待ってくれ、ロザリン!」
「そうよ。いきなり婚約破棄だなんて……。衝動的に行動するのはよくないわ。私とアイザック様はただの友達。今日だって……」
いつもと変わらない、ふわふわたしたミエールの話し方。
ミエールは顔を引きつらせながら言った。
「ただの友達……?」
「そうよ。何度も言っているじゃない」
ロザリンが友達という言葉に反応すると、ミエールはホッと息を吐く。
「ただの友達が、ドレスの袖をまくり上げてソファの上で抱き合うの?ほら、今もドレスがめくれているわよ?」
ミエールはロザリンの言葉に、慌ててドレスを整える。
「それは誤解だと……!!」
慌てて声を上げたアイザックが、ロザリンの腕を掴もうとした。
だが――
「触らないで」
ロザリンの声が、それを制した。
目を見開いたアイザックに、ロザリンは真っすぐ視線を向けた。
「あなたを信じたのは、母の笑顔のためだった。……でも、もう終わり。信頼を裏切る人に、私の人生は渡さない」
ロザリンの瞳には、涙もなければ揺らぎもなかった。
その確固たる意志に、ミエールでさえ言葉を失っていた。
「この商会も、あなたも、ミエールも、私を“都合のいい人形”だと思っていたのかもしれないけれど……もう終わりよ。私はもう、“何も知らないロザリン”じゃない」




