体術の練習
次の日から山を登るようになったジェーンは、途中まで自力で登って疲れたら、ブーストとアクセルをかけ残りを登った。
登った後は、少し休憩をしてから体術の練習に励んだ。
最初は簡単な攻撃を避けることから始めた。
相手をしてくれるのは若いドラゴンだ。
尻尾の攻撃、手の爪の攻撃、拳での攻撃、かぶりつきの攻撃など様々な攻撃を避ける。
最初はゆっくりの攻撃も、ジェーンが避けるのが上手くなっていくにつれて、少しずつ攻撃スピードを上げていった。
それにも対応していくジェーンに、ドラゴンも少し本気を出す。
すると、対応できなくなり、攻撃が当たってしまった。
「ジェーン!大丈夫!?」
「いたた…。だ、大丈夫。」
「ジェーン、大丈夫か!?」
ジェーンドゥも慌ててジェーンのもとへ行く。
ジェーンをよく見ると、かすり傷程度だったが、一応回復魔法をかけた。
「ありがとう、ジェーンドゥ。」
「いいや、これくらい予想していなければな。動揺した私たちが悪い。」
「ごめんね、ジェーン。」
「セルシェルのせいじゃないよ。大丈夫だから。それより、もう一回お願い!」
「!!うん、わかった!」
セルシェルは離れ、戦闘態勢を取った。
それに合わせ、ジェーンも構える。
それを見たジェーンドゥは、その場を離れまた見守ることにした。
それから何日かは、ずっと回避する練習を続けた。
セルシェルがアクセルを使い、攻撃をするようになり、それを避けるために、ジェーンもアクセルを使うという状態になったとき、ジェーンは回避が完璧にできるようになっていた。
ジェーンドゥはその様子を見て、次の段階へ移行した。
次は、カウンターを仕掛けるものだ。
攻撃をかわしてすぐに反撃するという流れを、始めはゆっくりの攻撃から行った。
最初は攻撃をすることに戸惑っていたジェーンだが、人間の子どもの攻撃など痛くも痒くもないと言われてから、気持ちを切り替え攻撃を当てられるようになった。
そして、ひと月かけて支援魔法を使ってカウンターもできるようになった。
最終段階に入り、自ら攻撃を行い、駆け引きを行うようになった。
ジェーンは最初反撃しかできなかった。
むしろ、駆け引きがうまくできず相手のフェイントに引っ掛かり攻撃を受けてしまうことが多かった。
何日もそんな状態が続き、自分がフェイントに引っ掛かっていることが分かると、ジェーンは戦いを客観的にみるようになった。
周りの状況、相手の動き、繰り出してくる攻撃の強さ、どう防いだらいいのか。
彼女は考えに考え、自らも駆け引きができるようになっていった。
セルシェルがブーストとアクセルを使い始めると、今までの状況の処理スピードで対応できなくなり、ジェーンはまた攻撃を浴びるようになる。
ジェーンは攻撃の速度に追いつくために、何度も何度もセルシェルに諦めずに向かっていった。
それを見て、セルシェルもジェーンに本気で付き合った。
ジェーンの訓練を手伝うことで、セルシェル自身も強くなっていっていると感じたからだ。
実際にそれは的中していた。
セルシェルは他の若いドラゴンより、戦闘が上手くなっていた。
ジェーンは1か月をかけて、支援魔法をかけた状態で戦闘が引き分けに、また勝つこともできるようになった。
それから数日たつと、勝つ確率の方が高くなっていく。
その様子を見たジェーンドゥは、ジェーンにこれからは魔法を交えて戦ってみるよう伝える。
セルシェルとジェーンは了承し、次の日から魔法を交えた戦闘が始まった。
最初はやはり慣れていないジェーンが負け越していた。
魔法を打ちながら、攻撃をする、また攻撃を避けるという脳の処理速度が今までの倍以上必要になるからだ。
何度も何度も負け、ジェーンは悔しかったが、絶対に勝ってみせるという気概で心が折れることなく何度も戦った。
魔法を交えた戦闘訓練を初めて3か月がたったころ、ようやくジェーンが勝つ回数が増えた。
ジェーンドゥは、ジェーンの成長の早さに驚きながらも彼女の頭のよさや運動能力の適性の片鱗を知っていたため、ここまでいつかたどり着くだろうと思っていた。
ジェーンがセルシェルに勝ったところで、ジェーンドゥはジェーンに話しかけた。
「ジェーン。」
「はぁっ、はぁっ。なあに、ジェーンドゥ?」
ジェーンは息を切らしながら、ジェーンドゥに近づいた。
「そろそろ、次の段階へ進もうか。」
「えっ!?まだ次があるの!?」
「ああ、もっと強くなってもらわないと私も安心できないからな。」
「いったい何と戦うのを想定してるの…?」
「昔であった人間は、私には劣るがそれなりの強さを持っていたぞ?そんな人間がそなたのそばに現れないとも限らないだろう?」
「そうなんだ…。じゃあ、頑張る。次は何をしたらいいの?」
「次は、ここにいるドラゴンたち全員と戦ってもらう。」
「ええっ!?」
ジェーンはジェーンドゥの言葉に驚く。
なぜなら、住処にいるドラゴンの数は優に100を超えるからだ。
「100人ものドラゴンたちと戦えってこと…?」
「ああ、そうだ。」
「む、無理だよ!」
「いや、ジェーン、そなたならできる。それほどの強さを秘めているのだ。ドラゴンそれぞれに得意な戦い方がある。そこを学んで、私に引けを取らないほど強くなっておくれ。」
「……。うん、私強くなりたいもの。頑張るよ。」
「ああ、応援している。」
その日からジェーンはドラゴンたちと来る日も来る日も戦った。
ドラゴンが違えば、使う魔法も戦闘方法も違う。
ジェーンドゥの言う通り、様々な経験を得ることができた。
そして、ついに半年かけてジェーンはジェーンドゥ以外のドラゴンたちに勝つことができたのだ。
最後の1匹に勝った瞬間、ジェーンの戦いを見守っていたドラゴンたちが一斉に歓喜の声を上げた。
ジェーンドゥもだ。
歓喜の声に包まれたジェーンは嬉しくって、ジェーンドゥに飛びついた。
ジェーンドゥもそれをやさしく受け止める。
「よくやったな、ジェーン。」
「ありがとう、ジェーンドゥ。私、強くなったよ!」
「ああ、本当に強くなった。私たちの中で、私の次に強いのがジェーン、そなたになった。」
「本当!?」
「本当だ。」
「じゃあ、ジェーンドゥ。私と戦って、私をもっと強くして!」
「なに?」
衝撃的な言葉に、ジェーンドゥは目を丸くした。
ジェーンは驚いているジェーンドゥをよそに、言葉を続ける。
「私、もっといろんな戦い方を知りたい。ジェーンドゥなら知ってるでしょ?」
「ああ、もちろんだとも。」
「だから、お願い!勝てるとは思ってないよ、でも戦いがうまくなればなるほど、魔法の扱い方もうまくなっていくのを感じるの。」
「はぁ、仕方のない子だね。……いいよ、もっとたくさん学ぶと良い。」
「!!ありがとう、ジェーンドゥ!!」
ジェーンはもう一度、さっきよりきつくジェーンドゥを抱きしめた。
ジェーンドゥもそれに返すように、強くジェーンを抱きしめた。
次の日から、ジェーンとジェーンドゥの特訓が始まる。
ジェーンドゥとの特訓は生半可なものではなかった。
訓練場を新たに用意し、そこで戦う必要があるほどジェーンドゥはすごかった。
ジェーンドゥの戦い方は、今まで戦ってきたどのドラゴンたちよりも洗練されていて、また様々な戦い方を教えてくれた。
もちろん、ジェーンは勝つことができない。
でも、楽しくって楽しくって仕方がないジェーンは、毎日のジェーンドゥとの特訓が1日の楽しみになっていた。
ジェーンドゥとの特訓を始めるころには、ジェーンは支援魔法なしで山を素早く登れるようになっていった。
体力もついて、魔法の熟練度も上がっていくジェーンは、ドラゴンたちから一目置かれるようになっていった。
ジェーンドゥ親子は我々ドラゴンの誇りだと思うほどに。
ジェーンドゥとの特訓は次第に訓練場だけでなく、他の場所でも行われるようになった。
実地訓練だ。
山の中や海にいる強いモンスターや動物と戦ったり、空の上での戦い方を学んだりした。
ジェーンは、名実ともにドラゴンたちの中でジェーンドゥに次ぐ知識と戦闘ができるものとなったのだった。
そして、ジェーンは15歳の誕生日を迎える。