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攫われたファイ

拙作ですが読んで頂けると嬉しいです。




 ファイがゴブリンに攫われた?

 俄には信じられない話だがメイがそんな嘘を吐くわけがない。

 メイもかなり疲弊しているようだったが、少しずつそのときの状況を話してくれた。



 XXX XXX XXX XXX XXX XXX XXX



「う~~~」

「ファイさん、大丈夫ですか? ずっと唸ってますけど」

「ずっとぐるぐるするんだ。なんだか目が回るというか」

「サウナ結界の爆発のせいですね。音は聞こえているので鼓膜は破れていないようですね。だとすると、爆発の衝撃で三半規管が混乱しているのかもしれませんね」

「さんはんきかん?」

「えっと、体のバランスを取る体の器官です。それが三半規管で耳の奥にあるんです。ファイさんの今の状況はこの三半規管がうまく機能していないんだと思います。つまり、今ファイさんが立っているのか、寝ているのかを判断できなくなっているので目が回るような感覚があるのだと思います」

「僕、立っているよ?」

「はい、ファイさんは立ってますね。でも今ファイさんの三半規管にはそれが分からないんです」

「三半規管は馬鹿なの?」

「馬鹿ではないですよ。そうですね、一時的に疲れているようなものです」

「そうなんだ~。メイちゃんは本当に物知りだね」

「魔法使いはあらゆる理を知っていなければいけないって言うのが私の師匠の教えなんです」

「な、なぁ。お嬢ちゃん達。ほ、本当に大丈夫なのか?」

 2人の緊張感のない会話を聞いていて不安に思ったのか、後を付いていく村人の1人が我慢できずに声を掛けた。

「うん? 大丈夫だよ」

 そのとき横通路から2匹のゴブリンが飛び出してきた。

 ファイはゴブリンの方すら見ず、2匹の内1匹の腹部に蹴りを入れて吹き飛ばす。

 唖然とする村人を尻目にもう1匹には脳天にチョップを入れて一撃で倒す。

「ね?」

「あ、ああ、そうだな。あんたら小さいとは言っても冒険者なんだもんな」

 通路の奥からゴブリンが武器を構えて走ってきた。

「シャドウスパイン!」

 メイの魔法によりそのゴブリンの目の前の地面から黒い無数の棘が生えてくる。突然のことに止まることができず、そいつは黒い棘に体を貫かれて絶命した。

 穴だらけになったゴブリンを見てその村人は息を呑んだ。

 メイは頬を膨らませてその村人を睨みつける。

「小さいは余計です」

「……はい、冒険者さん。すいませんでした」



「結構、ゴブリン達残ってるね」

「はい。ウォリアさんが言っていた残党ですね。ホブゴブリンのような大型個体はいないようですが、注意して進みましょう」

「こいつら弱っちいから僕達なら大丈夫でしょ」

「まぁ、そうなんですが。油断は禁物ですよ」

「うーん。確かにぐるぐるして本調子じゃないしな~」

「あ、あれで調子が悪いのか? こいつら本当に何者なんだよ」

 2人は砦地下部の北側を捜索していた。

 こちら側は残党ゴブリンが多かった。

 それでもゴブリン達が集団で襲ってきたりせず、2人は危うげなく捜索を続けた。


 そんなとき、そいつは現れた。

 便宜上そいつと呼称したが、他のゴブリンと見た目に差はなかった。

 そいつは常に他のゴブリン達と一緒に現れる。

 他のゴブリン達は2人を見つけるや否や襲いかかってくるが、そいつは何かを窺うかのように2人を観察するだけで、何もせず、すぐに去っていく。

 最初は怪訝に思っていた2人だったが、何度もそれが繰り返される内にやがて慣れてしまい、視界の端で何もせず立つそいつを段々と気にしなくなっていった。

 そしていつの間にか全く姿を見せなくなったのだが、2人はそいつの存在をすっかり忘れていた。


「あ、駄目だ。この道も行き止まりだ」

「分かりました。バツ、と。じゃあ、1つ前の分かれ道に戻りましょう」

 メイは手帳にマッピングをしていた。線で描かれた砦地下の地図には至る所にバツ印が付けられていた。

 2人は来た通路を戻る。2人の足元にはさっき倒したばかりのゴブリンの死体が転がっていた。

 メイが歩く足元のゴブリンの死体が動いた。

「えっ、きゃっ!」

 ゴブリンの死体の下に別のゴブリンが隠れていた。隠れていたゴブリンはメイが通り過ぎた瞬間に不意打ちで飛び出してきた。

 それはさっきまで散々姿を現すだけで何もしてこないあのゴブリンだった。

 そいつが手にナイフを持って襲いかかってきた。

「メイちゃん、危ない!」

 ファイの位置からは距離が離れていてそいつに攻撃が届かない。メイにナイフの刃が刺さる直前に何とかそいつの手からナイフだけを蹴り飛ばすことができた。

「ぎぃ!」

 そいつは叫び声を上げると、メイの体を足場にして、今度はファイの方へ体当たりを仕掛けてきた。

 ファイは無理な体勢でナイフを蹴り飛ばしたためバランスを崩していたが、普段の彼女であればその体当たりを軽く躱せただろう。だが、本調子ではない彼女は咄嗟に腕でガードして受ける選択をした。

 所詮ゴブリンの素手による攻撃だと高を括っていた。

 ファイは腹部に重たい衝撃を感じた。

(えっ!?)

 確かにそいつの体当たりを腕でガードしたずだった。

 なのにまるでガードを突き抜けて攻撃が当たったようだった。

「……くっあぅ!」

 ファイは鈍い痛みとともに猛烈な倦怠感を感じた。

 視界が段々と狭くなっていく。

(あ、あれ? な、何、で……)

 ファイはそのまま意識を失い、前のめりに倒れ込んだ。

「ファイさん!」

 メイは目の前で起きたことが信じられなかった。

 あのファイがゴブリンの一撃で昏倒させられたのだ。

 そいつはメイの方へ振り返った。

「ひっ!」

 そのときメイはそいつに言い知れぬ恐怖を感じた。

 そいつはメイの方を見て笑ったのだ。

 ゴブリンは人型モンスターであり、比較的人に近い存在と言えた。彼らにも感情はあるので怒ったり、笑ったりする。但し、怒りという攻撃的な動作を伴う感情に比べて、笑うという感情は人間には分かり辛いと言われている。

 しかし、メイはそいつのその顔が笑い顔だと瞬間的に悟った。彼女はその笑い顔について身に覚えがあった。

 勿論、これまでゴブリンに笑い掛けられたことなどない。

 ではなぜ身に覚えがあると思ったのか。

 その理由に思い至った彼女は血の気が引く程ぞっとした。

(あれは、私の体を舐め回すかのように見るときに男達がする下卑た笑みだ……)

 ウォリアには及ばないが、メイにもモンスターについての知識はそれなりにあった。

 だから彼女はゴブリンが人間の女性を繁殖道具に利用するという知識も持っていた。

 その知識によればゴブリンは人間の女性に欲情しないはずなのだ。

 彼らにとって人間の女性はあくまで道具なのだから。

(じゃあ、アレは何なの?)

 知識と目の前で起きている事実の齟齬に混乱するメイだったが、今そいつが最大の脅威であることは分かっていた。

「フレイムスロワー!」

 そいつに向かって杖を構え、魔法の言葉を唱えるが、何も起きなかった。

(な、何で? 魔法が使えない!?)

 加えて、メイの全身を猛烈な倦怠感が襲う。

 立っていられなくなり彼女はその場に尻もちを付いた。

 そいつはそれをチャンスと見て飛びかかってきた。

「い、いやっ!」

 メイが杖を突き出す。それが偶々そいつの胸に当たった。

「ぎゃ!」

 そいつは胸を押さえて後退ると、しばらくメイの様子を伺う。

 メイは倒れそうになる体を必死に杖で支えながらそいつを睨みつけた。

 するとそいつは踵を返し、倒れているファイを抱えて通路の奥へ消えて行った。

「ま、待て……」

 メイはそこで意識を失った。

「お、おい。あんた大丈夫か? おい!」

 一連の出来事は村人達が呆気にとられる程短い間に起きたことだった。

読んでくださりありがとうございました。

面白いと思って頂けましたら評価とブックマークをよろしくお願い致します。



ファイとメイの名前をよく間違えます。

本話投稿前にも結構な数の間違いに気づき慌てて直しました。

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