特殊業務 整理
「資料室に行きますよ。そこで【整理】の仕事を教えます」
多少疲れているが、わざわざ抵抗する必要は無いので黙って付いて行く。今度は司書さんが作った扉では無く、司書室内に設けられている扉に入る。
室内の中央には大きめのテーブルが一つと、椅子が数脚。そして左右と奥の壁には、ぎっしりと本が詰まった棚が敷き詰められている。しかし、棚に収まりきらない本も多く、床に積み重ねられていた。
「ここで本の解読をするんです」
そして二人は横並びに座り、説明を開始する。
「これはさっき取ってきた本です」
と、テーブルに置く。
そしてそれとは別に、テーブルに置いてある一冊の本を手繰り寄せ開く。
「これは今回の本の解読資料。書かれている事は蛇の生態についてです」
確かに書かれているのは蛇の学術的なもの。骨格や器官について到底理解しがたい言葉が並んでいた。
そしてもう一冊を手繰り寄せる。それは一風変わった表紙で、蛇の様な紐の様な絵が描かれていた。開かれたページを見る。
「なんですかこれ? オカルトっぽいですけど」
「オカルトではなくて民俗学です」
日本においての蛇の位置づけ、信仰と異怖について書かれていた。
「本の内容が、生物学的なのか民俗学的あるいは宗教的なのか、それとも全くの別なのか判別できないので、全ての角度からアプローチを試みる必要があるんです」
そう言って回収してきた本を開く。
「この作業では本の声を聞き、それをつなぎ合わせてもう一度普通の本の形に製本する仕事です。文字という形を取り戻してもらい、その恩恵として能力を貸してもらうんです」
一呼吸。
「さて、此処からは菅野君が適任かどうかの班別をします。このページ、何を言っているのかわります?」
そう問われ文字を見る。聞こえるか、と言われたが見える以外の感覚は無い。しかも先程と同じ様に文字としての認識すら危うい状態に変わりは無かった。
暫く固まっていると、悠が告げる。
「私には断片的に【瞳】【生者と死者】と聞こえています」
もう一度、本に集中してみるが声は聞こえない。これは不適任という事なのだろう。
「まあ、深く考える事は無いですよ」
悠が立ちあがる。
「以上が整理の業務です。次があるから取りあえず司書室に戻りましょう」
司書室に戻ると、コーヒーでは無く紅茶の香りが満ちていて、顧問である薫子の姿が増えていた。
「委員長、整理の仕事を教えましたよ。残念ながら彼は整理向きじゃなかったです」
「これは才能に近いものだから仕方ないわね。収集も微妙だったんでしょ?」
綾女が悠に尋ねると、彼女は困ったような笑みを作りながら明言を避けた。
「現段階では何とも言えないですね。最初はなんの匂いか、なんてわからないですし」
「どういう事ですか? 匂いって」
それには司書さんが答える。
「整理では声だったが、収集では匂いなのだ。たまに犬並みに匂いに敏感な輩がいるだろ?」
「……私は犬ですか」
悪気はなかった司書さんは、わたわたと広げた手を左右に振り否定する。
「違うのだ悠よ。私が言いたいのはあれだ、ほら調香師。そう調香師だ!」
フォロー出来る言葉を見つけて、それを連呼する。そして無理やり話を続ける。
「コホン。つまり、収集に必要なのは目当ての本を見つけられる嗅覚だ」
灯也は先程の空間の匂いを思い出す。レンガだからか土っぽい匂いがした事は覚えているが、それ以外の匂いがあった覚えは無かった気がする。その事を確かめる為にヒントを貰う事にする。
「因みに匂いってどんな匂いなんですか?」
「先程で言えばハ虫類っぽかったですね。あの空間には様々な匂いが詰まってるんです。その中から目的の一冊を探しだすんですよ」
灯也は理解できた事に納得し、確信を持って返答する。
「やっぱり俺にはその才能は無いです。そんな匂いはしなかったんで」
そこにマドレーヌを食べ終えた薫子が余裕な口ぶりで告げる。
「残りの業務は二つもあるんですから、どちらかに向いているはずですよぉ」
それに同調するように綾女が指示を出す。




