風紀委員会
綾女は、司書さんの言葉通りに灯也にマドレーヌを勧める。
「これなら全部食べても良いわよ。因みに紅茶は悠が淹れてくれるけど、コーヒーは自分で淹れなさい。今日はそこの来客用のカップを使って。明日からは自分用のカップを持ってくるのよ」
言われるまま、コーヒーを淹れマドレーヌを貰う。美味しいと感想を述べるべきか考えながら、ひと口ふた口と食べ続ける。
「それが美味しいのは知ってるから感想はいらないわ。それより食べながらで良いから聞きなさい。図書委員会に与えられた業務は二つ、カウンターでの貸出や図書だより作成などの通常業務。戦闘を行う特殊業務の二つ。通常業務は絶対に覚えてもらうけど、特殊業務の方は適材適所でこれから決めて行く事になるわ」
灯也は、なるほどと相槌を打ちながら二つ目のマドレーヌを手に取る。
「戦闘は実際に見た方が効果的だぞ? 一度目は他の委員会や部活の戦闘を見せて、二度目に我々の戦闘の見学が効率的だな」
彼女の格好にまったく似合わない酢昆布を食べながら告げる。
すると突然、機械の振動音が微かに響いた。
それはどうやら綾女の携帯のようで、彼女はポケットからそれを取り出すと、画面を確認する。
暫く画面を眺めていた綾女だが、携帯の画面から目を離す。
「今メールで戦闘情報が送られてきたわ。菅野、終わらないうちに見学に行くわよ。司書さんは留守番してて」
「何を言う、私も行くぞ。短時間なら無人でも良いだろう」
仕方なく図書館を一時的に空けて、急かされるままに灯也は綾女と司書さんについて行く。
図書館棟を出て校舎の方に戻ると、下駄箱付近に人だかりができているが、それは遠巻きに眺めるに留まっていた。
図書委員会一行もそれに混ざる。灯也の目に映った光景は、青白い光のロープ状のものに縛りあげられている男子生徒だった。
「ロープで縛ってる方が風紀委員会委員長の藍沢ななせよ。覚えておきなさい」
「縛られてる方は見た事が無いな、一年生か」
学校では絶対に見る事のない光景のはずなのに、彼女たちが落ち着いているのはこの光景が通常だからなのだろう。
誰も止めることが無かったが、一人の男子生徒が人垣を割って止めに入る。
「すまんな藍沢、もうそろそろウチの部員を開放してもらえないか? ちゃんと罰も受ける」
そう言いって詫びるのは野球のユニフォームに身を包んだ巨躯。
「吉田、お前ら野球部は一年間の学内清掃。この理由を説明すれば一週間に減罰」
苛立ちを隠さず、端的に説明を求めつつ罰を言い渡す風紀委員長。
「コイツが校憑の能力を聞いて、「試したい試したい」と煩くてな。せっかくだから絶対に勝てない相手に挑ませた」
「次やったら廃部に追い込む」
そう言って背を向けて歩き出す彼女と同時に、野球部一年生に巻かれていた光のロープが消滅する。
「どう? 一応不思議なものが見れたでしょう?」
綾女が灯也に聞く。しかし灯也の中では、あんな魔法じみたものが校内に溢れているという事が、一応などという優しい表現では終わらなかった。
「一応どころではないですけど、見れましたね。図書委員会もあんな感じなんですか?」
戦うにしても、図書館棟で会った人は誰もが戦闘に向いているとは思えなかった。という事は、能力の方が強い事になる。
「口頭で説明するにしても、此処じゃ説明しづらいから司書室に戻りましょう」
踵を返し図書館棟に向かう。その道中に携帯電話を取り出し何処かに掛けた。
図書館棟の入り口に着くと、『閉館日』と書かれている立て看板を取り出す。
「司書さん、今日はこのまま閉館にしましょう。彼に委員会の事を教えるから」
「そうだな。全てを教えるなら他の生徒は邪魔だからな」
看板を入り口に置き三人は中に入る。幸い、図書館の中には人はいない。先程の風紀委員会と野球部の戦いが少なからず影響していたのだろう。
無人の図書館を進み、司書室に入る。そこには悠が居た。
「委員長、言われたとおりに準備しましたよ」
悠の言葉にありがとう、と告げ灯也に向く。
「今から図書委員会の能力を教えるわ」
そう言って綾女が説明を始める。




