放課後
「はあ、何か大変な事になったな。昼休みで色々な情報が入り過ぎだ」
そうこぼしながら灯也は教室に戻った。
「それで薫子ちゃん、どんなズルをしたの?」
綾女が見透かしたように問うと、薫子は小首を傾げて聞き返してくる。
「先生としては、何としても知らぬ存ぜぬで返したいですねぇ」
「別に責めたりしないわよ。むしろ、人手を増やしてくれたんだから感謝してるわよ」
それを言質として薫子は話しだす。
「簡単ですよぉ? くじ引きで図書委員を決めたんですけど、くじを作ったのは私ですからねぇ、当たりを最初から私が握ったまま、欠席の彼の分を引いた振りをしたんですぅ。彼には悪い事をしたと思っているんですけどねぇ、教師を長くやってると何となくわかるんですよぉ。この子はどういう事が向いているのかなって」
教師らしい審美眼だが、しかしその正反対の行動を評価しても良いのか、悩ましい限りである。
「なるほど、薫子もなかなかやるな」
感心したように言う司書さんに、困った笑顔を向ける薫子。
「菅野君には言わないでくださいねぇ。それより皆さんも授業ですよぉ? 遅れたらだめですからねぇ」
そう言って薫子も司書室を出て行く。
それを皮切りに悠も司書室を後にする。最後までいた綾女が誰にも聞こえないような声でつぶやく。
「さて、どうなるか楽しみね」
●
教室に戻った灯也は、ある事に気付いた。
(すっかり忘れてたけど、昼食べてねぇよ。腹減った)
食べざかりの男子高校生にとって昼食を抜く事は拷問に等しい。そんな状況でまともな集中など出来るはずもなく、心身ともに疲れ切って放課後を迎えた。
「食堂で何か食べて行くか、何か買って行くか」
食堂で遅めの昼食を取るにしても、どんなに急いでも二十分は掛るので、恐らく屋上から吊るされる。購買で何かを買ったにしても、図書館では飲食厳禁。司書室で、お茶は飲んだが何かを食べても良いのかは知らない。
どうするか、と食堂前で悩んでいると、後ろから声がかけられる。
「どうした灯也入らないのか?」
振り向くと、制服だらけの中に馴染む気が全くないフリルドレスが広がっていた。
「司書さん。昼に何も食べてなかったから、食堂で食べるか、パンでも買うか、迷っていて」
「なるほど。遅れると綾女がうるさいから、食堂で食べないのは良い判断だ。でも、軽めの物で済むなら司書室に用意されていると思うぞ? お前が甘いもので腹いっぱいに満足できる性質ならな。それに小遣いの節約にもなる」
それを聞いて、何も買わずに司書室に向かう事にする。
「私は買うものがあるから、先に司書室に行っておいてくれ」
そう言ってフリルを揺らしながら、食堂横の購買部に消えていく背を見送った。
早く着いて悪い事は無いので灯也は足早に図書館棟に向かった。
二回目となれば、図書館棟の外壁も内装も落ち着いた雰囲気に見え、本を読む環境としては最高だろうと思う。
今日二回目の司書室、ドアを開けるとコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。
「早いわね。感心じゃない」
目の前の椅子に座って優雅にコーヒーを飲む委員長がいた。しかしそれより気になったのは真直ぐ図書館棟に来たはずの灯也よりも早く、司書さんがいた事だ。
「綾女、彼に今日のおやつを食わせてやれ。昼食を食べていないそうだからな」
自分は購買で買ったのであろう酢昆布を食べていた。




