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全力で

「定時になりましたので八百戦を開始します。審判を務めるのは川内健かわうちたけるです」

 審判である彼を中心に、図書委員会と緑化委員会が五メートルの距離を取って挟むように整列する。

「それでは、両者戦闘態勢に移行して下さい」

 その言葉に、両者の一年生は明らかに身構え、上級生は緩く意識を切り替える。

「八百戦、開始!」


 図書委員会の二人はまず身体強化を発動する。それに応じる形で、緑化委員会の男子生徒一人が剣を右下に構え灯也に向かって疾走する。

 剣の軌道は、灯也の左下から右上へ抜ける逆袈裟斬り。それをギリギリのところでかわす灯也には、目の前を切っ先が通過するのが確認できた。


 恐怖を感じるよりも、考えるよりも早く灯也の左手が動く。

 拳を握り、剣を振り上げた反動でがら空きになった相手の右わき腹を打つ。

 今度は、痛みで硬直している彼の剣目がけて右の拳を放つ。

 ガラスが砕けるような音が響き、刀身が粉々に散り同時に持ち主も倒れる。

(聞いたとおり、割合が低いから砕けたのか)


 灯也の脳裏には二日前に綾女の説明が思い起こされていた。

「良い? 校憑によって与えられる能力には限界があるの。解り易く言えばゲームとかのステータスの割り振り機能よ」

「ゲームとかであるポイントが十あって。そのうち六を攻撃に割り振って四を防御に割り振る。みたいな?」


「そう、校憑にもそれが当てはまる。各個人にもよるけど、おおよそ百パーセントを部員や委員に振り分けられるのよ。図書委員会は私と菅野に五十パーセントずつ。緑化委員会が二十人とすれば五パーセントずつ。当然、割り振る人数が多いと質が下がる。人数が少なければ質が上がる」

「少数で質を上げるか、多数で量を増やすかも、戦略に関係していくんですね」

「そうよ。だから忘れない様にしっかりと頭に刻みなさい」

 その会話を思い出しながら敵の行動を観察する。


 緑化委員会の残りは十九人、灯也がそれなりに戦える事が判明したことで、迂闊うかつに単体では行動出来ないと判断し今度は三人が来る。

 先頭には男女二人が剣を左右の下段に構え並走し、残る男一人が少し後方から突きの構えで疾走する。

 灯也はその光景を冷静に見極める。

 まず先頭の二人のうち僅かに前に出ている男子生徒に狙いを付ける。自分に到達する直前に掌低を叩きこんでカウンターを成立させた。


 バランスを崩した男子生徒は踏みこみを誤り、隣の女子生徒の進路を塞いだ。当然、塞がれた方は急ブレーキを掛け止まらざるを得ない。そして灯也は男子生徒を死角に使い、脇から飛び出して女子生徒の剣を拳でへし折る。

 へし折った剣の切っ先をつまみ、力をあまり込めず避けられないが防ぐ事は出来るスピードで後ろの三人目に投げつける。当然相手は防御の体勢で投的物を防ぐ。が、灯也は全力で前方に飛び四度目となる剣の破壊を成功させ、同時に相手も倒した。


 一方、灯也の少し離れた場所で綾女の方にも敵が押し寄せていたが、彼女は意にも介さず一瞬で片付ける。五人が一斉に飛びかかっていたにもかかわらず、戦闘不能に追い込んでいた。

 残り十一人。緑化委員会の委員長である南早苗みなみさなえはまだ落ち着いていた。

「図書委員会の新人さんは優秀そうですわね。機転と応用が利くのはたいしたものですわ。でも、こちらも負けたくはないのです。皆さん、あの一年生を囲んでください。私は帝さんの相手をします。決着を付けましょう」


 それは明確な布告だった。最初に仕掛けていたのは全員一年生、戦闘に慣れさせるのは実践を積ませるしかない。『負けても良いから全力でぶつかりなさい』と言った早苗の言葉を守った。結局は剣の性能を使う前に潰されてしまった。しかし、今ここに居る委員長を始めとする十一人は二・三年生。八百戦に慣れているし、訓練で剣の性能も熟知している。

 今からそれをフルで使用して図書委員会と戦おうとしていた。

「菅野、今からが本番よ。向こうも本気で能力を使ってくるだろうから、貴方もタイミングを見て二つ目を使いなさい」

「了解です」

 二人の会話は極わずか。綾女からの情報と経験則を元に、戦術を何パターンか用意していた。


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