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第十五章《剣姫の逃避行 -Blade Princess;04 GREAT ESCAPE-》

 砲撃の雨が降り注ぐ中、ブラハム=ゴルドルアーは苦い顔で汗を拭っていた。

 ブラハムの眼前には多くの木々が立ち並んでいる。森の入り口、と称すべき領域が口を開けていた。

 そこを取り囲むように展開していたヴァルト軍を背後から強襲したところまでは良かった。

 だが、森林を盾に取り、木々の合間から砲弾を撃ち込まれては、《明星》率いる戦車団たちも迂闊には手を出せない。

 森の中からあぶれてしまった一部の戦車や車両たちを潰すことは出来たものの、それ以上の攻撃は実を結ばなかった。

 結果、後方へ下がってからのおっかなびっくりな牽制攻撃を突発的に仕掛けるという、なんとも情けない有り様を呈していた。

 武勇に富んだブラハムとしては、なんとも情けない話であった。

 ――やはり、正攻法では厳しいか……。

 ブラハムとしては、もう少し敵方の陣形が崩れるものかと予測していた。だが、実際には、その動きは実に的確で素早い動きで、陣形を立て直して見せた。

 状況判断、そしてそこからの作戦展開。何より、整然とした陣形の再配置が、敵将の力量を示していた。

 数の理は向こうにあり、戦力差は明確。そのうえ奇襲後もここまで鮮やかに立て直されては、あまりにも分が悪い。

 この状況を覆すには、相応の武力か、はたまた、搦め手からの奇策が必要か。

 一人唸るブラハムだったが、そのすぐ横から小さな溜息が漏れる。

 振り返るでもなく、ブラハムはその溜息の主へ声を掛ける。

「アンタならこの状況をひっくり返せるか? ……参謀長殿」

「私の正確な役職は参謀長ではありませんが、その質問には答えましょう」

 淡々と、事務的な口調で答えたのはピンク髪の麗人、マツリだ。

「私の仕事は勝負に勝つことではありません。戦争で相手にダメージを与えることでもありません。主君であるアークの補佐をすることが私の務めです。ここでの私の役割は戦線を維持することであり、ひっくり返すことではありません」

 そんなことを告げるマツリに、ブラハムは返す言葉も思いつかない。

 唖然とした様子のブラハムに対し、マツリは尚も説明を続ける。

「現状維持です。その間に味方が何人死のうと、敵が泣いて助けを求めようと、やることは変わりません。貴方がここで死んだとしても、それは変わりません」

 そんな発言を聞いては、ブラハムは肩を竦める他ない。

「……そりゃあ、参謀呼ばわりして悪かったな、狂信者」

 呆れたように口にすると、マツリは少し目を丸くしたようにブラハムを見つめていた。

 そして、その機械的に無表情な横顔に、僅かに色が加わった。

 ぴくりと動いた表情筋から、その感情は上手く読めない。だが、なんとなくブラハムには分かってしまった。

 こいつは今、笑っていたな、と。


――


 逃避行が始まった。

 先頭はクレアだ。それを囲うように里の守り手たちが警戒網を広げ、しんがりをクォラルが務める。

 一行は北へ北へと歩みを進めながら、同時に周囲を観察していた。

 クレアの進行方向の左右から戦闘の気配を感じる。

 練られた気が獲物を威嚇するように周囲へと放たれている。

 懸念はある。

 このまま進んで大丈夫なのかどうか。

 戦闘地帯が移動したなら、巻き込まれる可能性はかなり高いだろう。

 かといって、遠回りするような時間も余裕も今はない。

 後方には怪物じみたプレッシャーを放つ大男がいる。あの男だけは里の誰にも勝てない。ゆえに引き下がることも待つことも出来ない。

 追いつかれないためには前へ進むしかない。

 決めればあとは進むだけだ。

 クレアは迅速に、そして慎重に歩を進める。

 戦闘を行っている左右から気取られないように静かに。

 里の一行もそれに従い、慎重についてくる。

 非戦闘員とはいえ、それでも妖精の端くれ。気功術程度なら扱えるのだ。ゆえに気配を殺すくらいなら朝飯前。

 油断は出来ないが、必要以上に心配することもなく、前進する。

 進めば進むほど、気配は強まってゆく。追い越すにはまだ距離がいるだろう。

 だが、ここで焦れば全てが水泡に帰す。

 気を殺し、前へ。ここが第一関門だ。


――


 『サツキ様』。そう呼ばれてからのリースの様子がおかしい。

 痛みに耐えるように頭を押さえており、表情は苦痛に歪んでいる。

 対するリースと似た恰好をした金髪の少女は、不気味に笑い声を上げているだけだ。

 その対比はあまりにも対照的で、見ていて気味が悪い。

 普通に考えるなら、金髪の少女が何事かを仕組んでいて、リースがそれに苦しめられている、というふうに解釈をしたほうが自然だろう。

 そう考えたフレアは少女に詰め寄ろうとした。

「おい! お前、リースに何をし……」

「黙れ!!」

 突然の咆哮。少女は怒り狂った様子で声を荒げる。

 その変貌ぶりに、フレアは抗戦の意を削がれてしまう。

 少女はナイフを抜いて、周囲に殺気を撒き散らす。

「テメェ邪魔すんじゃねぇよ。アタシとサツキ様の間に割って入ってくんじゃねぇよ。死にてぇのか」

 今度はぼそぼそと呟くような口調だ。ともすれば聞き逃してしまうかというほどの。だがしかし、その不穏なワードのオンパレードな台詞はとても聞き流せるようなものではない。

「ああもう邪魔だ目障りだ殺そう殺すしかないやっぱりそれが一番だ。じゃあ殺す殺してやるくびり殺してやる原型も残らないくらい無残に凄惨に死にさらせよこのゴミ屑が」

 ぶつぶつと呟きながらも殺気はなおも増大してゆく。

「おいおい、物騒な嬢ちゃんだな。それにサツキってのは誰なんだ。まさか……」

「サツキ……、その名前は確か、前にも聞いたような……」

 呆れ顔のスピアに、フレアは頷きつつ思案する。

 何処だっただろう。思えど、簡単には思い出せない。

 リースのことを知っていた人物……?

 ところが、思考は長く続かなかった。

 ナイフを持った少女の姿が、突然消えたからだ。

「何処へ……ッ!」

 周囲を窺うフレアとスピア。だが、答えはすぐに明かされた。

「サツキ様。私です。エリィです」

 声は背後から聞こえていた。いつのまにか回り込まれていたのだ。

 少女は感極まったような語調でリースへと語りかけている。

「貴女の忠実な部下です。誰よりも美しく誰よりも誇り高く、誰よりも強い、……サツキ様。ああ、サツキ様。貴方様との御拝顔の栄を賜れた今日という日を、私は生涯忘れないでしょう。この日をお待ち申し上げておりました……」

 その姿は、やはり狂的だった。

 思わず後退りしたくなるような、怖気の走るような、狂信。

「もう演技は必要ありません。本来の姿を取り戻してください。本当の貴女を。偽らざる貴女の姿を。貴女の真実を。本当の、《疾風五月ハヤテサツキ》を!」

 その声をきっかけにしたかのように、リースは再び頭を押さえる。

 しゃがみ込み、苦痛に悶えている。

 それを眺めるエリィと名乗った少女。

「サツキ様ッ!!」

「リースッ!!」

 互いに呼びかけ合う二人。

 リースは這いつくばるようにして、痛みに耐えている。

 その視線は、上へ向けられている。

 その先にはエリィがいる。そしてフレアがいる。

「アタシは……ッ!」

 懸命に前を見据えるその鋭い眼差しには誰が写っているのだろうか。

 エリィへの悪意か。フレアへの悪意か。

 リースは、答えない。

 だが、その険しい眼光には、確かな殺意を宿していた。


――


 気づけばリースは、水音の中にいた。

 重力を失った世界。

 光は遙か上空で揺らめくばかりだ。

 暗い。冷たい。怖い。

 遠い上方でたなびいている光のカーテンは、おそらく水面だろう。

 ならばここは水中だ。

 自分は水中に沈んでいるのだ。

 答えは同時に疑問を生み出す。

 何故、こんな所にいるのだろう。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 ぼんやりと水中を漂いながら、リースは呆然と、そんなことを考えていた。

 水面はさらに遠ざかり、見えなくなってゆく。


『サツキ様! どうして私を連れて行ってくださらないのですか!?』

 脳内に響いた声に、思わず目を丸くする。

 問い掛けてきたのは金髪の少女だ。名をエリィと言う。

 確か、彼女も戦争孤児で、リースと同じようにヴァルト社に引き取られたらしかった。

 リースの部下を命じられてからというもの、あらゆる命令に忠実に従う番犬のような娘だった。

 同い年で幹部候補にまでのし上がったリースを心底尊敬しているらしい。全く以て阿呆らしい。

 忠実に指示に従えば、それで出世できるとでも思っているのだろうか。

 あるいは、それでリースのような強さを身につけられるとでも思っているのだろうか。

 どちらにせよ、阿呆らしい。

 いちいち部下を躾けるのも面倒だったリースは彼女を適当にあしらい続けた。

 それでも執拗に指示を請うものだから、扱いはさらにぞんざいになっていった。

 冷たく当たれば当たるほど、エリィは叱られた犬のようにシュンとなって落ち込んだ。

 これでいい。そう思った。だがしかし。

 翌日からまたも熱烈に挨拶を交わされる。

 生き生きとハツラツと元気一杯に頭を垂れてくる。

 それはそれは、もう、どうしようもないほどに、阿呆な娘だった。

 正直な話、これ以上冷たく当たるには、軍規に抵触するくらいの苛烈なアクションが必要だったのと、そうまでして彼女を遠ざけたいのかという心情を鑑みた結果。

 リースは態度を軟化させるという行動に至った。

 頑なだったリースの心づもりを、少女の献身が打ち破ったのだった。

 とはいえ、その行動は、献身と一言で片付けるのは少々難があった。

 というのも、風呂にもトイレにも同行を願ったりと、その行動はちょっと常軌を逸していた。

 だというのに、最初は迷惑がっていたはずなのに、何度も繰り返すうちにそれに慣れ親しんでしまったリースは、順応性が高すぎたのだろうか。

 そんな接触を繰り返し、いつしかそれが当たり前になった頃の話だ。

 話は冒頭へと立ち返る。

『サツキ様! どうして私を連れて行ってくださらないのですか!?』

 エリィはそう問うたのだった。

 リースは答えた。

『仕方ないでしょ。アンタを連れてけばリスクが高くなる。良いかい、これは簡単な任務じゃないんだよ』

『でも……!』

 頬を膨らますエリィをリースは睨みつけて黙らせる。

 案の定、強ばった少女の頭をリースは撫でてやる。

『アタシが信用できないのかい?』

 ……それは出会った当初を思えば有り得ないような諭し方だった。


 五月。それはただの識別名でしかない。

 五月に拾われたからサツキ。ただそれだけの名前でしかない。

 疾風。それは字。与えられた名前だ。

 風が吹き抜けるように、影が舞うだけで、いくつもの命が散った。

 花弁を落とす草花のように、人体を切り刻んだ。

 あとに残されるのは、血と屍。それだけだ。

 それが彼女に与えられた名前。

 疾風五月。

 リースという名前を与えられるもっと前に、彼女が名乗っていた名前だ。

 殺した数は知らない。少なくとも数えられるような数ですらない。

 腕を振った回数を覚える人間はいない。それと同じだ。

 歩いた歩数を数える人間はいない。それと同じだ。

 食事をした回数を数える人間はいない。それと同じだ。

 生きるために、人を殺し、それだけを繰り返した。

 そうやって生きてきた。そうするしかなかった。

 それ以外の選択肢はどこにも残されていなかった。

 だから疑問も感じない。何の疑問も湧かない。

 ただ、当たり前のように殺した。

 ただ、それだけだった。


 始まりは知れない。

 どこでボタンを掛け違えたのだろうか。

 どこで間違えたのだろうか。

 徐々に狂いだした歯車は、キリキリと気持ち悪い音を立てながら廻り続ける。


 少女は、理解した。理解してしまったのだ。

 自身が、記憶喪失のリースではなく、ヴァルト社暗部の殺し屋、疾風五月であることを。


――


 リースはゆっくりと目を開いた。

 目の前には金髪の少女がいる。

 あの時よりも随分と強くなっている。それが肌身に染みて理解できる。

 それは何処か嬉しいような気持ちと、何処か寂しいような気持ちとが鬩ぎ合う、不思議な感覚だ。

 自然と言葉が出る。

「あれから随分と成長したのね、エリィ……」

 その言葉を聞き、途端にエリィは涙を流した。

 フレアのほうは呆気にとられている。だがそれも詮ない話だ。

 記憶が蘇ることなど、ましてや、こんな状態の少女と知り合いだなどと、想像は出来まい。

「あと、ごめんね。フレア……」

 リースは目頭が熱くなっているのを感じていた。

「わたし、ううん、アタシ……、ただの人間じゃないんだ」

 震えてつっかえそうになる唇を、なんとか動かした。

「そう、アタシは、………………人殺しなんだ……」

 諦めたように、呟いた。

 それは告白の言葉でもあって、決別の言葉でもあった。

 ――もう、アタシは、何も知らなかったわたしには戻れない。……ううん、違う。

 リースは首を振る。

 ――アタシは、初めから、何もかも間違えていたんだ!


 キィン!


 と、ナイフを抜き放つ。

 過去は変わらない。変えようがない。

 終わってしまった事実は、そこに冷たく横たわるだけだ。

 だからこそ、終わらせる。

 この関係性を、終わらせる。

 ボタンを掛け違えたのなら、全部まとめてぶった切ればいい。

 それで全てが丸く収まる。

 ――ああ、なんだ。簡単なことじゃない……。

 なのにどうしてか、リースの視界は歪んでゆく。

 頬が、濡れる。

 雫が、落ちる。

 それは、一つの淡い恋心が、儚く散った瞬間だった。

 それでもいい。どうだっていい。

 このナイフが、全てを終わらせる。幕を、引く。引いて、裂く。

 ――こんなアタシは、もうフレアの隣には居れない……。居ちゃ、いけない……。だから……ッ!

 分かっている。簡単な話だった。

 もう一度、『サツキ』に戻るだけだ。

 あの瞬足の、殺し屋に。


――


 シークの脳裏には一つの光景が思い出されていた。

 映像はスローモーションで再生される。

 真っ赤な鮮血と、舞い上がる銀髪。

 シークは絶望を胸に抱きながらその光景を見つめていた。

 指一本動かすこともなく、まばたきすら忘れ、見入っていた。

 ただ、見ているだけだった。


 よく考えれば簡単に分かる話だった。

 人生というものは、それほど虫の良いものではないのだと。

 それでもなお、楽観的な思考を信じていたのは、想像力が欠如していたのかもしれないし、単に甘えていただけなのかもしれなかった。

 ただ、シークはそんな紙一重の幸せが続くものだと信じていたし、疑う余地などないのだと考えていたのだ。

 そして当然のごとく、甘い予想は裏切られることになり、現実というものは、その世知辛い側面を惜しげもなく晒すことになるのだった。


 その日、シークの母は死んだ。

 人間によって、殺されたのだ。

 人が人を殺す理由などいくらでもあるだろう。

 怨恨、強盗、強姦、人や物の独占、憂さ晴らし、逆恨み。そして、迫害。

 例えば、幸薄い貧乏な街々があったとして。例えば、歴史上多くの不幸を招いた民族がいたとして。 

 溜まりに溜まった不満や鬱憤を、晴らす場所すらなかったとして。

 その矛先が彼らに向かったとして。

 果たして誰が彼らを責められよう。

 そんなふうにして。

 何処にでもあるようなありふれた貧民街の連中が、とある事情から差別を受けていたフォーレス家を執拗に攻撃し、暴行した。

 未遂ならば今までいくらでもあった。

 その程度の逆境は幾度となく越えてきた。

 だが、それは綱渡りのような神懸かり的なバランスで回避してきたのであって、避けられて当然というわけではないのだ。

 だから、それは起きた。起こるべくして起こった。

 というより、今まで起こらなかったということのほうが不思議なくらいだったのだ。

 たまたまシークと母が二人でいた時のことだった。

 突然、三人の男たちに囲まれ、刃物で斬りつけられた。

 その凶刃を受け止めたのは母だった。

 鮮血が、舞った。

 母は、静かに微笑った。

 まだ幼かったシークを(この時はまだシークは八歳だったが、もっと幼い頃、4~5歳の子供に向けるような優しい笑顔で)安心させるように微笑を見せた。

 その口元から、赤い雫が溢れる。

 倒れる母を、少年シークは見つめることしか出来なかった。

 あの頃の弱い自分は、守られることしか出来なかったし、現実を受け止めることすらも出来なかった。

 シークは見ていただけだった。

 その目の前で、母は死んだ。

 たなびく銀色の美しい髪だけが、鮮烈に目蓋に灼き付いて離れなかった。


――


「アルテリーク=フォーレス。俺にとって何よりも大切な人の名前だ」

 灰色の外套を赤く染めた男は、ぽつりと、そう呟いた。

 それにアークは怪訝な表情を浮かべる。それは今までに聞いたことのない名前だったからだ。

 しかし、フォーレス、という名字には浅からぬ因縁があった。

 『フォーレス家』。かつて古き時代に人間王として君臨していた者の名前だ。

 そして、それ故に妖精戦争に人間族が敗北した際、民衆から一斉に蔑まれ、疎まれた一族の名だ。

 荒廃の元凶にして、衰退の象徴。

 彼らは住む土地を持たない、追われ迫害される一族となった。

 妖精戦争終結より一万年経過した今も、その歴史は忘れられることもない。

 止むことのない軋轢が、そこにはあった。

 その立場が大きく変わったのは、僅か十年前。

 一つの王国が乗っ取られたのだ。たった十人にも満たない一団に。

 そのうちのほとんどはフォーレスの血筋を引いているというだけの、特に特筆すべき点のないただの剣士、あるいはガンナー程度でしかなかった。

 ただ一人。

 たった一人だけが、常軌を逸していた。

 名を『ヴァルトニック=フォーレス』という。

 剣を振るえば三十人を薙ぎ払い、銃を撃てば百人の軍勢を統べる指揮官の眉間だけを的確に狙い撃つ。

 軍を指揮させれば圧倒的に不利な戦況すらも打開して見せ、城を守らせればあらゆる計略を看破して見事な防備をこなす。

 言うなれば、それは超人だった。

 世の中には《龍の血を継ぐ天才》が世界を揺るがし、歴史の刻み手となると云われている。

 アークは知っている。

 《龍の血族》の一人を。

 究極無比なる人物を。最強の剣士を。天賦の才の持ち主を。

 ゆえに分かるのだ。常識では計れない天才。ヴァルトニックもその一人なのだと。

 ほぼ、たった一人からなる軍勢で国を滅ぼした覇王。

 ヴァルトニック=フォーレスは、《スカーレット・イリス》だと。

 アークにとって、『フォーレス』という名はそれだけである種の畏怖を抱かせるジョーカーだ。

 その血筋の者が、シークであり、今目前の男が口走ったアルテリークという名の人物なのだ。

 男の返答に答えたのは、シークだった。やはり浅からぬ因縁があるらしい。

「忘れるわけないだろ、当たり前だ。そこまで俺は親不孝者ではないつもりだ、ジーク」

 懐かしむような、声音ではあるが、その立ち姿には明確な闘志が宿っている。

「……そうだな。さすがにお前は覚えているよな。俺たちの目の前で死んだ、母さんの名前だ」

 二人は得物を構えたまま、語り合っている。行動と口調がちぐはぐではあるが、何故か違和感は感じない。まるでこの状態こそがこの二人のあるべき関係性であるかのようだ。

「やっぱりアンタらは、こういうやり方を選んじまうんだな……」

 シークが少し寂しげに呟くと、ジークと呼ばれた男は僅かに闘志を燃え上がらせた。

「……そうか。お前は、やはり味方にはならないか……。親父は最後までお前を信じていたというのに……」

「……期待なんかするから裏切られるんだよ、馬鹿野郎ッ!」

 それは、どこかフレアとの仲違いを思い出させるような言い回しだった。

 そして、そのシークの喧嘩腰な発言をきっかけにして、二人は身構えた。

 ジークは、叫んだ。

「邪魔をするなら、斬る。例えそれが同じ血を分けた、弟だとしてもな!」

 シークの得物は、銃剣。そして、ジークが右手に持つ、その武器もまた――


 ――銃剣だった。


――


「ヒィ……、ヒィ……、ヒィイ……」

 男は、脂汗を全身に浮かべながら、荒く息をついていた。慣れない山道を全力で疾走してきた。それも片腕を失った状況でだ。

 身体中が軋み、動く度に激痛が走る。

 それはあまりにも無様な有り様だった。

 こんな筈ではなかった。こんなのは、あまりに自分らしくない。男はそう考えていた。

 そんな折、正面から足音が聞こえた。どうやらこちらを目指しているらしい。

 男は、ぼんやりとそちらを眺めていた。

 不思議と、危機感というものはない。

 今、この状況でもちらに向かってくる者は、味方に違いないと、そう予測していたからだった。

 そして、その予測は当たっていた。

 視界に映ったのは黒服の男たちだ。自分が身につけているものと比べて、飾り気の少ない下等な者たち。

「ドルフ様! ご無事でしたか!?」

 男たちは、駆けつけるなり担架を広げ始める。どうやら負傷の報せを聞いてやってきたらしい。

 担架に乗せられ運ばれる中、残った左腕を強く握り締める。

 煮えたぎる憎悪を消化しきれぬのか腕はプルプルと震え始める。

「許さん……ッ!」

 ドルフは、静かに吠えた。

「この恨みは必ず果たしてやるからなァッ……!!」

・ご無沙汰です。亘里です。

フラムと人間倶楽部が一段落したのでようやく本腰入れてアレとかコレとか出来ます。よっしゃ。


・グラハムとかマツリとか

戦争始まったのに戦場を全く描写してなかったことに気づきまして、書きました。

マツリはいわゆる狂信者なのです。


・リースの過去

昔リースが何をやってたか。ついに思い出しました。

予想通りの展開すぎて新鮮味が薄いかもしれません。

どうして記憶を失ったかなど、もう少し書く予定です。


・シークの過去

今回、リースの過去と並列で並べてしまったので、なんともベタな感じ。

以前にもちょっとだけ描かれていたので、焼き増し感は拭えないかもしれません。


・ドルフ

不穏な空気を感じさせてます。

やられキャラ感満載ですね。


・次回予告

思った以上に話が進まなくて困ってます。しばらくはバトルが続きます。

よろしくお願いします。

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