第五節 越冬して
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やがて春が来た。
雪が溶けて地面がゆるみ、教会の蔵から出す金豆の量も少しずつ増えていった。畑にはぽつぽつと人影が見え、鍬を振る音があちこちから聞こえた。
アウルスは村を回り、秋の取立ての見込みを帳面に記した。受給簿の写しを作り、代官所へ送る分に封をした。60グロスを自分で払った家と、彼が立て替えた家。今後三年で返せる見込みのある家と、まだ分からない家。これら再び整理した。
――この冬に届け出られた死は七件だった。
畑を歩くと、去年の秋に蒔いた金豆が青々とした葉を出していた。だが、種にする分まで食い潰した家の畑は、まだ土が剥き出しのままだった。
果樹やブドウの剪定に鋏を入れている農民もいた。別の区画では赤カブの種を溝に落としている老人がいた。赤カブは金豆より早く育つ。それが実るまでのあいだ、村は一年で最も食料が逼迫する季節を通り抜けなければならない。
寒さが緩む春は、同時に蓄えが底を突く春でもある。畑に出ている人々の顔色は冬よりいくらか生気を取り戻していたが、腕や首筋の肉は削げていく一方だ。
荷造りをしていると、テッサが来た。
「アル」
それは、子供の頃の呼び方だった。
「これ、持っていって」
テッサは小さな包みと水筒を差し出した。包みを開くと、干した金豆が一掴みほど入っていた。
「……ありがとう。でもいいのか、テッサ」
「いいの。畑にもう芽が出てるし、あと少しで赤カブも蒔ける。なんとかなりそうだから」
テッサは笑みを浮かべてそう言うと、もう一つ、畳んだ布の塊を差し出した。広げると、男物の上着だった。擦り切れてはいるが、裏地にまだ厚みが残っている。
「死んじゃったステファノスのだけど。あんたの外套、もうだいぶ薄くなってるでしょう。——これはあくまで一時しのぎだから、余裕ができたらちゃんとしたのを買いなさいよ」
アウルスは上着を手に取った。テッサの元夫、ステファノスの体格は彼より一回り大きかったから、袖が余る。
だが、裏地に手を当てると確かに暖かかった。
「あんたはこの村だけじゃなくて、他の場所も回らなきゃいけないんでしょう。体を壊したら元も子もないんだから」
「……ああ」
アウルスは上着を抱えたまま、少し黙った。
「一生大事にする」
テッサは小さく笑った。口論のあと初めて見る笑顔だった。痩せた頬に皺が寄って、目元だけが昔と変わらなかった。
「気をつけてね、アル」
パウロスが馬を引き、荷車が村道を出ていった。
――街道に出る手前で振り返った。教会の屋根が見えた。
湿った畑が、緩やかな斜面に広がっている。点々と人影も見える。鍬を振る者、水を運ぶ者、しゃがんで土に手を入れている者。家々から立つ薄い煙が何本か、風のない空にまっすぐ昇っていた。
アウルスは前を向き、荷車の横に腰を下ろした。パウロスが手綱を引き、馬を急かして歩かせた。




