表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/9

児玉弥生からの視点ー1

 運動音痴である。それもかなりの。


 サッカーをすれば、ボールは明後日の方向に飛んでいく。マラソンをすれば、いつの間にか周りには誰もいない。ダンスをすれば笑われる。しまいには周りを巻き込んで怪我をさせてしまう。そんな人生だった。「だった」って別に、私の人生がそれで終わっているじゃないけど。でも終わったも同然なのだ。そのくらい、高校生にとって運動ができるかできないかは重要だった。


 高校に入学すれば何かが変わるかもしれない。……なんてことはなく、散々の結果に終わった体力テスト。ありがたかったのは、周りで嘲笑するような人がいないことだった。


 同じクラスに、藤宮くんがいるのも私が目立たなかった理由の一つだと思う。藤宮くんは入学当初から目立っていた。


 目は大きく、くっきりとした二重幅とカールのかかった長いまつ毛、鼻は小さくて高いし、太陽に照らされた髪の毛はキラキラと丹波の黒豆みたいだった。つまり、アイドルみたいにキラキラしていた。


 噂を聞きつけた上級生や他のクラスの生徒たちが、男女問わず私たちのクラスにまでやってくる。すごい、本当にそんなことあるんだって全然関係ないのに内心感動してしまったのは四月の上旬ことで、最近ではもうそんなこと慣れてしまい、ただの日常になってしまった。


 けれど実際、私だって藤宮くんの外側ばかり見て、その中身を知らない。でもきっと、王子様みたいなんだろうな。だってほら、今もストレッチしてるだけで様になっている。五十メートル走は六秒台で、棒高跳びも身長くらいの高さを跳んで、野球ではホームランを打つ。そんなかっこいい映像が頭の中に容易に浮かんだ。


 神様は不平等だと思う。私だって、もう少し身長が高ければ。もう少し体幹があれば。もう少し柔軟性があれば……。そうしたら私だって、みんなに迷惑をかけないくらいの運動音痴でいられたかもしれないのに。藤宮くんばっかりズルい。


「じゃあ、今日は跳び箱やるから準備手伝ってー」


 え、跳び箱? 嘘でしょ。私が一番苦手なヤツ。でも先生はそんな私の焦りは知らないから、せっせと跳び箱の準備をする。


 脂汗をかいている私の近くで、藤宮くんと男子生徒が騒がしく喋っている。


「うわあ、俺跳び箱苦手なんだよなあ」


 藤宮くんが爽やかに言う。嘘吐け。本当に苦手なら、その笑顔は生まれないだろう。余裕だからこそ、そんな軽口が叩けるんだ。


 先生が「おい喋ってんなら手伝ってくれよー」と遠くで助けを求めている。それを聞きつけた藤宮くんと男子生徒数名が、倉庫へと走り出した。


 女子たちはそれを見てきゃあきゃあと騒ぐ。さながら姫を救いに行くナイトである。


 藤宮くんが跳び箱の一番上の部分を持ってこちらにやってくる。けれども先生が指定する位置までは体力がもたなくて、途中で床に置いてしまい、しゃがみ込んだ。「どーしたよ」と別の男子生徒が声をかけると、「思ったよりもめっちゃ重かったわ」と額に汗を滲ませながら言った。


 女子たちからは「かわいい」という黄色い声援が聞こえてくる。そうなんだ。重い荷物を持てない男子って、かわいいんだ。


 私には藤宮くんの魅力が今一つわからなかった。確かに、顔は整っているし身長も高いし、一般的にはかっこいいのだと思う。けれどそれだけで、決して仲良くなりたいとか付き合いたいとかいう欲望は生まれなかった。私ってズレているんだろうか?


 跳び箱を二台設置する。最初はウォーミングアップで、腰くらいの高さの五段で飛ぶように言われる。みんなは難なく飛んでいくけど、私にとっては当然高い壁に見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ