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結婚は人生のリスク管理に含まれませんので ~結婚を断った令嬢は、王国の帳簿を黙って直すことにした~  作者: 霧島 結衣


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第26話 それでも、選ばない

 評価は、最後まで静かだった。


 勲章もない。

 式典もない。

 名を呼ばれることすらない。


 王城の公式記録に残ったのは、たった数行の事務的な文言だけだ。


 ――新経済協定の発効に伴い、関連制度の恒常運用を承認する。


 誰の名も、そこにはない。


 だが、それでよかった。


 エリシアは経済記録整理室で、その文書を一読し、静かに棚に収めた。

 もう、個別に管理する必要はない。制度として動き出した以上、彼女の手を離れた。


(固定された)


 それは、達成感よりも、安堵に近かった。


 午後、国王ローデリヒから最後の非公式の呼び出しがあった。

 場所は以前と同じ、私的な書斎。


「もう一度だけ聞く」


 国王は、椅子に深く腰を下ろしたまま言った。


「後悔はないか」


 その問いは、政治的なものではなかった。


 エリシアは、少し考えてから答えた。


「ありません」


 即答ではなかったが、迷いもなかった。


「結婚していれば、もっと楽だっただろう」


「はい」


 それも事実だ。


「もっと早く、表に立てた」


「はい」


 否定しない。


「それでも?」


 国王は、じっと彼女を見た。


「それでも、選びません」


 エリシアは、静かに言った。


「楽な道は、設計を歪めます」


 国王は、短く息を吐いた。


「……お前は、自分が前例になったことを分かっているのか」


「はい」


 それは、喜ばしいことでも、重たいことでもある。


「次からは」


 国王は、低い声で続けた。


「結婚を断る者が出ても、“あの令嬢は特別だった”とは言えなくなる」


「それで構いません」


 エリシアは、はっきりと答えた。


「特別でなくなることが、目的でした」


 沈黙が落ちる。


 国王は、しばらく何も言わなかった。


「……厄介な女だ」


 だが、その声には、わずかな敬意が混じっていた。


「その厄介さが、国を守ることもある」


 それが、彼なりの評価だった。


 整理室へ戻る廊下で、エリシアは足を止めた。


 窓の外、城下の街が見える。

 人々は、何も知らずに暮らしている。

 だが、彼らの生活を支える制度は、少しだけ変わった。


 誰かが結婚しなかったことで。

 誰かが象徴になることを拒んだことで。


 リーゼが、廊下の向こうから声をかけてきた。


「……次は、どうされますか」


「次?」


「もう、ここまで来たので」


 エリシアは、少しだけ考えた。


「次は」


 そして、答える。


「同じやり方が、私以外でも可能かを確認します」


 リーゼが、目を見開く。


「それって……」


「ええ」


 エリシアは、穏やかに言った。


「私がいなくても、回るかどうか」


 それが、最後の確認だった。


 自分がいなくても壊れない。

 誰かの人生を差し出さなくても続く。


 その時初めて、この選択は完成する。


 結婚しない人生は、例外ではなくなり始めていた。


 そしてエリシアは、今日も選ばない。


 誰かの妻になる道を。

 誰かの象徴になる立場を。


 ただ、静かに、制度の中を歩き続ける。


 それが、彼女の答えだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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