第272話 魔法少女、強敵と対峙する ③【side】
「ぐっ、はあ……っ!!」
『1番』が消滅したことを確認した瞬間、全身の力が抜けた。
体内から、ごっそりと魔力を持って行かれた感覚がある。
ゴシックセイラはたまらずその場に膝をついた。
(な、なにこれめっちゃキツい……っ!)
今回の戦闘のため大鎌『タナトス』に搭載された対怪人用の大技、『慈悲なる収穫』。
まさか、今回の怪人たちの中でも最強格と言われる『1番』をたった一撃で倒すとは思わなかった。
だが、その代償も大きい。
魔法少女衣装が解けるほどではないものの、たった一度の行使で行動不能に陥りかけるほどの凄まじい魔力消費量である。
さっきの攻撃を少しでも耐えられたり、あるいは他の怪人と組んでいたら……そのまま戦闘を続行する自信はなかった。
「セイラ、大丈夫!?」
もっとも、そのための2人組行動である。
その場で息を整えていると、少し離れた場所にいたシャイニールナが慌てて近寄ってきた。
「な、なんとか……」
セイラは返事をしてから、大鎌『タナトス』を支えにして立ち上がる。
すでに刃からは青白い魔力が消え失せている。
魔力が枯渇気味のせいか強い虚脱感があるものの、体力の消耗はそこまで激しいものではない。
あと数分休めばなんとか身体は動くようになるだろう。
と、セイラの様子を見て無事だと判断したのか、表情を緩めたルナが興奮したようにまくし立ててきた。
「いやセイラの必殺技、えぐすぎっしょ! さっきの『1番』ってめっちゃ強かったでしょ? それをたった一撃……? おかげで私の出番ほとんどなかったじゃん!」
「あはは、それは……なんかごめん」
セイラは苦笑したものの、ルナが驚く気持ちは分かる。
今回襲撃してきた怪人たちの最強格とも言われる『1番』をたった一撃で屠ったのが自分だということが、いまだ信じられない。
もちろんこの技については三木主任から説明を受けている。
だから、なぜこういう結果を生み出したかは理解しているつもりだ。
……この『慈悲なる収穫』は『タナトス』の魔力刃に自分の魔力を上乗せして攻撃範囲を拡張するとともに、魔法少女衣装に施された基本的な魔法である『浄化』を武器に転用したものだ。
この『浄化』という魔法は、本来、武器や衣装に付着し魔法的な組織結合状態となった妖魔の体組織を洗浄する効果を持つ。
もちろん通常は衣装ごと『浄化』してしまわないよう、効果はごく弱く、しかも妖魔の体組織だけに反応するような特殊な術式となっている。
これにより妖魔を斬ったり叩き潰したりしても、以前より血糊や肉片がこびりつくことは少なくなったのだが……
その効果を微弱な常時発動型から瞬間最大出力特化型に変更しその威力を何百倍にも高めたのが、この『慈悲なる収穫』なのである。
そしてこの超強化された『浄化』による魔力結合解除効果は、いかに強力な再生能力を持つ怪人とて治癒が追いつく速度ではない。
おまけにこの技の魔力分解作用の副次的効果として、魔法による防御結界すら斬りつけた場所からどんどん分解してしまうという理不尽な性能を持っていた。
もちろんその分魔力消費が激しく、連発できるものではないのだが……それを補って余りある、文字通りの『必殺技』だった。
それゆえ次の戦闘ではこの技を使うことはできないし、セイラとしてはルナに主役を譲り、自分は援護に回るつもりである。
「それじゃ、次の戦闘はルナちゃんの――」
と、セイラが言いかけたそのときだった。
突如ヘッドセットが一瞬ガガッと鳴り、緊迫したバックノイズとともに大声が聞こえてきた。
『魔法少女各員へ通達。緊急事態だ。廣井が怪人の奇襲を受けた。『8番』だ。手の空いている者は至急彼の元へ増援に向かってくれ』
「えっ? 廣井さんが!?」
ルナと顔を見合わせる。
そんな、まさか。
たしか、『夜叉』からもたらされたリストの怪人は、番号順の強さだったはず。
8番ならば、それほどの強さはないはずだ。
もっとも、それはあくまで『夜叉』の評価によるものであって、実際の戦闘では個々人の相性というものがある。
実際、さきほど倒した『1番』はまともに戦えば魔法少女数人がかりでも負ける可能性がある相手だった。
多分、近接格闘特化のマキナだけなら手も足も出なかったことだろう。
あるいはルナの全力の攻撃や『必殺技』でも、あのカウンター魔法や再生能力を突き崩せなかった可能性がある。
それでもセイラが『1番』に勝てたのは、相手がこちらの実力を過小評価し慢心していたことと、『慈悲なる収穫』という防御力無視の攻撃手段があったからだ。
だから、もしかすると敵との相性次第では、彼でも苦戦するのかも……と考える。
いずれにしても、司令部の命令ならば従うべきだ。
セイラの魔力は完全に万全とは言い難いが、しばらく休憩したことで多少は回復している。
通常戦闘なら可能だろう。
「とりあえず、様子だけは見てこよっか?」
「だね」
セイラとルナは『了解』と司令部へ応答したあと、指定された地点へ向かおうとしたのだが……
『…………司令部の郷田だ』
ものの十秒ほどで再び連絡が来た。
とても気まずそうな口調だった。
『たった今、『8番』の撃破を確認した。増援要請はキャンセルだ。ゴシックセイラ、シャイニールナ、君たちはポイントCにて『7番』の迎撃を頼む、どうぞ』
「……ぷっ」
「はは、ははは……だよねー」
ビルの屋上から屋上へと飛び移りながら、2人が吹き出す。
どうせそんなことだろうと思っていた。
あの人が負ける姿なんて全く想像がつかなかった。
ふたたび司令部に『了解』と応じたあと、セイラはルナと顔を見合わせた。
なんだか、先ほどの疲れも吹っ飛んでいた。
「それじゃ、もうひと頑張りしますか」
「おっけー! 全部終わったらみんなで打ち上げいこー!」
「さすがに深夜は補導されちゃうよ……」
「あ、そっか! じゃ、明日か明後日で!」
そんな戦場に似つかわしくない会話をしながら、2人の魔法少女は次の目標地点へと向かっていくのだった。




