ゴメン、知らなかった!
「………ん、どうするかな」
会ったこともなかった兄上の葬儀に参列した後、王城内に与えられた部屋で書置きを残していた。
「『俺は皇帝になんかなりたくねーんだよ! ってことで弟か妹の誰かを立太子するまで旅に出ます。探さないでください』…いや、俺としてはこれが本音だけどさ」
もったいないけど丸めてくずかごに投げ入れる。…あ、入った。
「『私はまだまだこの国のことを知りません。なので、弟妹達の誰かにその座を渡してやってください』……こんなもんでいいか、面倒だし」
それを文鎮でとめるといくつかの貴金属類と愛剣を持ち、隠し持ってきていたいつも離宮から抜け出すときに使ってる旅人風の服装を身に纏った。
「あばよ、クソオヤジ。俺と面会しないからこうなるんだからな!」
ベランダに出て、周囲及びその他に誰もいないことを確認して俺は庭に飛び降りた。
さて、っと。
衛兵とかに見つかる前にさっさと城から出なくっちゃな!
まんまと見つからずに王城を抜け出すことに成功した俺(すごくね? 一生の運使い果たしたかも知れねぇけどな!)は翌朝、残しておいた書置きが謎の方向で勘違いされるとは思いもしていなかった。
……ホント、何で俺の評価が上がるんだよ…
「―――――ここか、冒険者ギルド」
城下町の宿屋で一晩明かした俺はこの町…クローデリズの冒険者ギルドを朝一で訪ねた。
……じつは、リゼワールの離宮にいたときリオンと一緒にギルドに入ってたりするんだよなー…
もちろん本名じゃないからな? それに、俺の「今」の名前だし。
「討伐クエストって何がある?」
「クエスト受注ですか? ギルドカードの提示をお願いします。
――――――はい、確認しました。ギルドレベルBのレクス・レイリー様なら…この三つが受注可能です」
受付の女の子が提示してくれた魔水晶に表示されたものを見比べる。
ギルドレベルで受けれるクエストが結構変動するから、クエストって言うのは受付で直接聞くような方式になっている。
魔水晶? ああ、水晶の板にいろんな情報が映し出されるんだ。液晶ディスプレイみたいなものだよ…ん? 液晶ディスプレイってなんだ?
「じゃあ、コレで」
「はい、『魔獣ファイアドレイク討伐』ですね。……お一人で平気ですか?」
「ああ、途中で合流する」
「そうですか…では、ご報告は近くの町の冒険者ギルドで構いませんので。お気をつけて!」
受付嬢の見送りを受けながら俺は衛兵なんかとできる限り顔を合わせないようにしながら城門を抜け出た。
「………母上が亡くなってから苦節十余年…とうとう俺は…」
喜びで自然と笑顔があふれてくる。
あー、畜生…嬉しくってどうしようもねぇや。
「俺は、自由になるんだぁああああああっ!」
因みにここは、クローデリズから街道を少しいったところにある森の中な。
町から見えるところでこんな大声上げたら職質かけられるだろ。
それでばれたとか洒落にならねーじゃねぇか。
「ってことで! 景気付けにお前らブッ倒すから覚悟しろ!」
俺が剣を構えると途端に草むらから薄汚い格好をした武器を片手にした男達が出てくる。
「言うじゃねーか…それはおれ達が『毒蜘蛛』と知ってのことかぁ? 今ならみぐるみ全部差し出すなら許してやるよ!」
「え、何…お前ら『毒蜘蛛』いうの? ゴメン、知らなかった!」