第八話「正義の味方でも気取って」
作中に登場する固有名詞は、現実のものとは一切関係ありません。
「これは…?」
「パーフェクトのいろんな場所。オフィス、ジム、宿舎、ガレージ、とか。10ヵ所くらいにはカメラを仕掛けてあるんだけど…。」
「人影がほとんどないな。興行にでも行ったか?」
「いや…パーフェクトの次の興行は確か来週…。今の時間に人がほとんどいない、っていうのは、ちょっとおかしいね。」
真剣な顔で各映像をチェックする誓雷。全てのカメラを調べた結果、映っていたのは、代表の神凪と数人の事務員だけだった。
「…やっぱ、あれかな。」
「あれ?」
聞き返す風樹に答える代わりに、誓雷は一つの映像をアップにした。そこは、パーフェクトのガレージ。数台の自家用車が停まっている。が、少し不自然な点があった。
「…移動用車両が一台もない…?」
「そ。興行がない時は遠征用の移動バスが必ず何台か停まってるはずなのに、それが一台もない。そして、選手達も、一人もいない。…さて、問題です。どういうことでしょうか?」
「………。…!?まさか…」
「?……。…!!。いや、それは…」
「…ありえるかもよ〜?その、まさか。ライちゃんも、奴らがこんな大胆な強行手段に出るとは思ってなかったけどね。」
そう言うと、誓雷は映像を消して、モニターをシティの全体図に切り替えた。そして、手早くなにかの操作をする。と、
「…あ〜あ。予想的中。」
やっぱり、といった風に溜め息をつく。モニターの地図の上を、三つの赤いマークが点滅しながら移動していた。
「これは?」
「パーフェクトの車両につけておいた発信機。カメラと一緒にちょこちょこっとつけておいたのよね〜。…で、だ。この三台が向かってる先は…。多分、二人の予想してる通りの場所、だね。」
誓雷が地図を拡大する。三つの点滅が向かった先。そこにあったのは…
「…百花のジムとオフィス…。」
「…まさかとは思ったが…。本当にやるとはな。」
「スポンサーから相当急かされたみたいだね…白昼堂々、集団誘拐するなんて。ま、なんらかのアリバイ工作をやっての上での行動なんだろうけどね。」
誓雷が車内を映しているカメラを表示する。三台とも、中には誰も乗っていない。が、しばらくすると、
「……。」
一台の車に、ジャージやTシャツ姿の女性が次々と運び込まれ始めた。皆、意識を失っているのか、ぐったりとして動かない。
「…酷いことをする。」
「ホントよね〜…。」
形容しがたい不快感が、部屋の中を包み込んでいた。爆発的な怒りでもなく、冷淡な殺意でもない。例えるなら、灰色でドロリとした不快感。
「…ふふ。」
不意に、風樹が笑った。くるりとモニターに背を向けると、出口に向かって歩き始める。
「どこ行く気?」
「気に入らない連中を、お仕置きしに行きます。」
「お前らしいな…。だが」
「大丈夫ですよ。」
炎護の制止の言葉を遮ると、風樹は言葉を続けた。
「彼女達が誘拐されてから、百花の代表が契約をしてしまうまでの間なら、私が犯罪者になる可能性は低いですから。」
「…?」
風樹の言葉の意味が咄嗟に理解できず、首を傾げる二人。風樹はクスリと笑うと言葉を加えた。
「彼らのこの行為は誘拐。もちろんこれは犯罪。百花の人達も、自分達が誘拐された、ってことは、わかってるでしょ、多分。」
「…!…あぁ。」
「なるほどね〜♪。」
二人とも合点がいったようだ。つまり風樹が言いたいことは、被害者である百花の選手たちに、証人になってもらおう。ということらしい。確かにそれなら、ただの暴力事件として片付けられる可能性は低くなる。が、
「…まさか、カージャックしよう、とか、考えてない…よね?」
「まさか。」
誓雷の心配を、風樹は軽く笑って否定した。
「私、免許持ってませんから。」
「…そういう意味で?」
「ま、おそらくパーフェクトの本拠に連れていかれるでしょうから、そこで待ち伏せるのが最善でしょうね。いや〜、パーフェクトが、ジムもオフィスも宿舎も全部同じ敷地内にあって助かりましたよ。」
そう言いつつドアに向かって歩いていく風樹。
「…仕方ない奴だな。」
その風樹の肩に、炎護が、ポンッ、っと、手を置いた。
「炎護?」
「お前一人では無茶しかねないからな。俺も同行させてもらう。」
「…それはダメです。」
炎護の申し出を、風樹は、きっぱりと断った。
「何故だ?」
「あなたが炎龍党を束ねる身だからですよ。もし、あなたに何かあった時には、所属選手や練習生の人達にまで害が及びます。」
「…なるほどな。」
目を閉じて、呟く炎護。次の瞬間、
ゴォウッ!!
「…。」
炎護の拳が、風樹の右耳をかすめていった。
「俺を見くびるな。」
ニヤリと笑って、炎護はそう言った。
「腐った連中に遅れを取る程、俺達、炎龍党は弱くない。それに、やるなら堂々と、犯罪にならない乗り込み方で乗り込むさ。」
「…なるほど、失礼しました。」
炎護の意図がわかったのか、風樹もニコリと笑って炎護に応えた。
「あ〜あ〜。すっかり友情しちゃってますにゃあ〜。うらやますいぞ〜。」
「…ふふ。あなたもやりますか?」
いつの間にか口調が元に戻っている誓雷。その様子に、風樹はクスリと笑って言葉をかけた。
「たまには情報集め以外も、楽しいものですよ。」
「みゅみゅみゅ〜。どしましょかにょ〜ん…」
「その喋り方は、肯定と受け取ってよろしいでしょうか?」
「あひゃ…バレバレ?」
「バレバレです。」
さっすが、おともらち〜♪。そう言って満面の笑みを浮かべると、誓雷はぴょいぴょいと近づいてきた。
「ま〜情報屋としては、ネタ元が潰れるのはちょびりっとイタいんだけどね〜。おともらちをなくしちゃう方が、もっと痛いし〜。だから、ばっつし協力しちゃうよん♪。」
「さっきまで、やめさせようとしていたのにな。」
「状況が変わったからなのであるよ。どーやら一刻を争う状況になっちゃってるからね〜。ささ、急ぎましょうぞ〜♪。」
「…。」
「?…どうした?」
急に沈黙した風樹に、不思議そうに声をかける炎護。答えない風樹。やがて、一言、
「…ありがとう。」
そう呟いた。
「…ふっ。何を言ってるんだか。お前の正直過ぎる行動は十二分に理解しているつもりだ。こっちは好きで付き合ってんだから、気にするな。」
「ま〜そーだよね〜。その辺のレイジストと一対一じゃあ勝負になんないし。二、三十人まとめてかかってきてもらわないと楽しめないもん。ふーリンに便乗させてもらってるだけだよ〜んよん♪。」
そんな風樹に、何だそんなことか、と、笑って応える二人。風樹も、つられて表情を崩した。
「私に便乗して楽しみたいだけなんですか?なんだ、ありがとう、言い損ですね。」
「ひっどいにゃ〜。せっかく手伝おうって言ってんのにぃ。」
「あはは、ごめんなさい。…ホント、ありがとうございます。」
「はは。ホント、気にするなよ。…さて、そろそろ行くか。向こうでどう動くかは、移動しながら打ち合わせればいいだろう。」
「さんせ〜♪ちゃちゃっと行って、ぱぱっとぶっ潰しちゃいませう♪。」
「ですね。この三人なら、救出が間に合いさえすれば、まぁ余裕でしょうから、正義の味方でも気取りながら楽しみましょうか。」
「かなり荒々しい正義の味方だがな。」
余裕たっぷり。そんな会話を交わしながら、三人は外へと走り出した。
三つの理が、おごれる巨大組織に襲い掛かろうとしていた…。
なんとか書き上がりました…今回は次の展開への繋ぎ、って感じかも…?。次はいよいよ、色んな意味で暴れ回る…予定(^.^;)




