第九話「潜入と突入」
作中に登場する固有名詞は、現実のものとは一切関係ありません
「たのもぉぉーーっ!」
ジムの中に、野太い声が響き渡る。その声の主を見た全員が、一斉に表情を引き攣らせた。
(日田…炎護!?)
(な、なんで奴が道場破りに来るんだよ!?)
(しかも、よりにもよってこのタイミングで!?)
パーフェクトのジム内に、静かで激しいざわめきと動揺が拡がっていた。
話は少し前に戻る。
「…帰って来た来た〜♪。哀れな子羊、満載バスが〜♪。」
携帯していた小型モニターをチェックしていた誓雷が歌うように呟いた。
「…彼女達がガレージからどこに連れていかれるか、それが問題ですね。追跡出来ますか?」
「ばっつしよん♪」
風樹の問いに、ニカッと笑って誓雷が答える。
二人はパーフェクト敷地内の、地下の一室にいた。以前、誓雷がカメラを仕掛けに潜入した際も、隠れ場所にしていた部屋らしい。どうやらこの部屋の存在を知ってる人間は、あまり多くないようだ。
「さてさて〜…」
小型モニターには、バスから降ろされる百花の選手達が映されていた。カメラが広い範囲を映しているのではっきりとはわからないが、皆、意識は戻っているらしい。が、手は後ろ手に縛られているようだ。
「いやん、縛り上げるなんて、ひどいことなさるのね〜。」
「ま、所詮そういう連中ですから。とりあえず正義の味方を気取る私達としては、きっちり助けてあげなきゃ、ですね。」
「りょ〜かいん♪。」
完全に敵地だというのに気楽な二人。そんな事を言っているうちに、数人の男達が彼女達を連れてカメラから消えた。パーフェクトの選手であろう他の男達もバスからぞろぞろ降りてきて、いずこかへと向かって歩いていく。
「彼等が行く先は、宿舎かジムか…。そろそろ、炎護の出番ですね。」
「だねん♪。自分でやるって言ったんだから、ばっつりんと引き付けてもらわないと♪。」
映像を切り替えつつ、外で待機している炎護に連絡を取る。この辺り、誓雷はホントに手慣れている。
手早く二言三言で会話を済ませると、誓雷はモニターに目を戻した。が、
「…ありゃりゃん?」
「どうしました?」
「いやさぁ…どこにも映ってないのよ、あのコたちが。主要な部屋や通路にはたいていカメラを仕掛けてあるし、あれだけの大人数なんだから、どっかで引っ掛かると思うんだけど…。おかしいにゃぁ…?」
首を捻る誓雷。彼女達が、自分がカメラを仕掛けていない場所に連れていかれているのだとしたら、建物内の細かい所まで捜し回らなければならない可能性がある。それは、正直面倒だった。
その頃、炎護は正面からパーフェクトのジムに乗り込んでいた。この辺りで、冒頭のシーンに戻る。
「なんだ、なんだ!どいつもこいつも腑抜けた面構えをしやがって。せっかく道場破りに来たのに、まったく拍子抜けだな!」
選手達をじろじろ見渡しながら、挑発的な言葉を浴びせかける炎護。彼の役割は、なるべく多くの人間をジムに集結させ、風樹と誓雷を動きやすくさせること。そのためには、あっさり挑発に乗ってきてほしいところだったのだが…。
(日田炎護が道場破りだとぉっ!?)
(冗談じゃねぇよ!俺達で勝てるわけねぇ!)
(第一、今夜は百花繚乱をさらってきた褒美に、パァ〜っ!っと、遊べる予定なんだぜ!?)
(そんな時に道場破りなんて、タイミング最悪じゃねーか!)
(なんとか帰ってもらわねぇと…。)
そんなことを考えていたりしていた選手達。炎護の実力と知名度が、完全に裏目に出てしまっていた。
が、炎護はそんな反応など気にせずに、ずかずかとジムの中へと入っていく。
「お、おい!」
「んん?」
声をかけてきた一人の選手をギロリと睨む。一般人ならあっさり逃げ出してしまうであろう、そんな威圧感たっぷりの一睨み。この男も冷や汗をダラダラかきながら、なんとか言葉を続けていた。
「こ、こっちはまだ道場破りを受けて立つとは言ってない。それなのに中に入ってくるのは…」
「ほほぉ?」
ずいっ、っと身を乗り出して、至近距離から男を見下ろす。ただでさえ威圧感がある炎護なのに、さらに、この威嚇。男は完全に胆を潰していた。
「それだけ数がいるのに、たった一人の俺に勝てる気がしない、か?。天下のパーフェクトも、実際はたいした事ないのだな。」
男の態度を鼻で笑いながら、炎護はさらに言葉を続けていく。
「パーフェクトの実態。奴らは金で虚勢を張っているだけだった…。か。いい記事になりそうだな。」
「!!ちょ、ちょっと待てっ!!」
炎護の、記事、という言葉に、パーフェクトの選手達が敏感に反応する。
「き、記事とは、どういうことだ!?」
「そういうことだ。この、有りのままの現状を、雑誌社に売り込むのさ。本当は俺の道場破りの方を売り込むつもりだったが、お前らが受けて立ってくれないなら仕方ない。」
「ぐ…」
言葉に詰まる選手達。日田炎護が、そういうことをするタイプではない、ということは知っているが、万が一、本当にそんな記事が出回ったとしたら、彼等が被る被害は相当大きなものになる。
レイジストは、少なからずファンの人気に支えられている。ファンの多い選手の出場する大会には、それだけ多くの人が集まり、それが大きな収益となって、レイジング業界を潤している。だから業界も、ファンの多い選手は何かと優遇したりするのだ。
炎護のように、圧倒的な実力でカリスマ的人気を持っているなら話は別だが、そうでない選手はどうすればいいか。地道に実力をつける。ルックスを磨く。パフォーマンスを磨く。方法は様々だ。
パーフェクトの選手達がとっている手段。それは、金の力、だった。
パーフェクト所属の選手達は、勝率が軒並み高い。が、その勝ち星の実に半数は、金の力で奪い取った勝利なのだ。いわゆる、八百長試合、である。
選手の人気が、組織の人気になり、人気が高ければ、それだけ収益も増える。だから代表の神凪は、勝利を奪うためには金を惜しまない。
勝つ試合だとわかっていれば、選手達は、いかに観客に自分を魅せるか、という一点に集中できる。結果、パーフェクトの選手は人気が高くなる。
それが、金の力によるものだ、と、わかったらどうなるか。炎護の情報だけではそこまで気付かれないだろうが、一つ綻びが出来れば、そこからどんどん嘘は暴かれていくもの。そうなれば、パーフェクトの選手達は終わりだ。
「い…いいだろう。」
暫くの沈黙の後、選手達の中でも先輩らしき男が声を発した。
「だが、ここは我等、パーフェクトのジムだ。ルールは我等のルールに従ってもらう。」
(やれやれ、やっとか…。全く、骨が折れるものだな…。)
心の中で溜め息をつきつつ、炎護はコクリと頷いて、肯定の意思を示す。
「よし…。」
そう言うと、男は近くにいた練習生らしき男に何事か指示を出した。
「今、宿舎に戻っている選手達を呼びに行かせた。そいつらが全員来たら、試合を始める。」
「ほぉ、全員集合とは、たいした歓迎ぶりだな。で、ルールはなんだ?」
「ふ、ふふ…ルールは…、一対十、ハンディキャップマッチ、十連戦だ!」
周囲が、一斉にどよめいた。いくら相手が日田炎護とはいえ、あまりに無茶苦茶なルールだったからだ。
通常、ハンディキャップマッチは一対二。過去のレイジングの試合を振り返って見ても、最大で一対三。一対十などというのは、完全にプライドを棄てた戦いなのだ。しかも、それを十連戦とは。明らかに常軌を逸している。
もちろん、この無茶苦茶なルールの裏には、
(こんなルールを突き付けられたら、いくらなんでも帰るだろう。)
という思惑も含まれていたわけだが…。
「ほほぉ?面白いな。」
「!!」
炎護は笑顔で、このルールを承諾した。常識的には有り得ない選択をされてしまったわけだが、こうなってしまっては、もう追い返すことは出来ない。
(ま、風樹や誓雷と戦うよりは楽そうだからな。)
リングに上がると、レイジストの闘争心が燃え上がってくる。まるで炎が燈されたように瞳がギラリと輝き、全身の筋肉が戦いの喜びに打ち震えているかのようだ。
「さ…いつでもいいぞ。」
明らかに腰が引けているパーフェクトの選手達に、炎護は告げた。
「束になってかかってこいやぁぁぁぁっ!!」
ビリビリと空気を震わす怒号が、ジムの中を突き抜けていった…。
今回も読んでいただき、ありがとうございました♪。なんだか思ったよりも話が先に進まなかった…(^.^;)




