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WIND  作者: 暇脳達弥
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第七話「暴かれた影」

作中に登場する固有名詞は、実在のものとは一切関係ありません。また、念のため追記。盗撮は犯罪行為です。現実では絶対にしないようにしてください。

「…しかし、すごいですね…。」

風樹が思わず感嘆の声を漏らす。さっきまでいた森林公園とは、掛け離れた空間だったからだ。

誓雷についていった先にあった、地下への入口。階段を降りた先にあった、一本の通路。そして、その通路に立ち並ぶ、機械たちの行列。

素人目には何の機械なのかさっぱりわからない、大小様々なサイズの機械達が、静かな音を響かせながら鎮座している。

「下手に触らないでね〜。どれも高いよ〜。」

先導する誓雷が話し掛けてくる。自分のアジトだけあってひょいひょい歩いていくが、後をついて歩く二人は、そうもいかない。

なにせ、ただでさえ機械が設置されているために狭くなっている通路に、なにかの段ボール箱やらマニュアルやら書類やらが無造作に積まれていて、体格のいい炎護など、体を横にしてやっと通れる、という状態なのだ。

「これで、触るな、というのは酷だろう…。」

口ではそう言いながらも、どこにも手をつかずになんとかバランスを取りながら進んでいく。律義な炎護であった。


やがて、一枚のドアにたどり着いた。誓雷が二人を振り返り、にこりと笑う。

「お疲れ様でした〜♪終点〜終点〜。ライちゃんの情報秘密基地、中枢でございま〜す♪」

「やっと着いたか…。」

「距離自体は短かったのに、あの狭さと歩きづらさのせいで、やたら長く感じましたね。」

「はいは〜い、文句言わないの〜。」

そう言うと、誓雷はドアの鍵を開け、二人を中へと招き入れた。



「…これは…。」

「…想像以上だな…。」

部屋に入った二人を出迎えたのは、一枚の超巨大モニターだった。一般的に大型テレビと言われている画面のサイズの、およそ10倍はあるだろうか。そのモニターには、精密なヒートシティの地図が映し出されていた。

「うふふのふ〜♪驚いたかぴら〜?」

誓雷が自慢げに問い掛ける。二人が絶句している姿に何とも言えない優越感を感じているらしい。

「あぁ…正直驚いた。」

「ですね…。」

風樹は感心したように、ほぉ、と息をついて、言葉を続けた。

「こんな大きなモニター、一体どうやって運び込んだんでしょうね…。」



「そっちかよ!!!」



呼吸の合った二人のツッコミが、地下室に響き渡った…。



「…ふーリンってさぁ、そういうボケとかする人なのね。」

「意図的ではないと思うが…天然なのかもな。」

「誰が天然ですか。」

風樹の一言で、すっかりシラけてしまった感じの誓雷。ふぅ、と、溜め息をつくと、改めて二人に向き直った。

「え〜と、まぁ見てのとーり、これはライちゃん達が暮らしてるヒートシティの地図。ま〜、細かい説明は省くけど、これでライちゃんはシティ中の情報を得ているわけ。んで、だ…」

誓雷が、モニターの近くに設置されていた数台のパソコンの内、一つを操作する。と、モニターの画面が、地図の一部の拡大表示に切り替わった。

「百花の女の子を襲ったアウトローが、誰に雇われていたか、だけど、まず間違いなく…」

さらに拡大図が表示される。そこに、一つの名前が赤文字で表示されていた。

「パーフェクトの仕業だろうね〜。」

「パーフェクト?」

「そ。パーフェクト。あの巨大レイジング組織。」

「そうなんですか?」

「あぁ、そうか…。パーフェクトが台頭したのも、お前が街にいない時だったからな。」

「急激に名前が目立ってきたのは一年前くらいからだからね〜。」

そう言うと、誓雷は説明を始めた。

パーフェクト。一年前まで、その名前を表舞台で聞くことは無かった。だが、それがある日、急激に勢力を伸ばし始めた。

「バックに大企業がついたのよね。表向きは、大企業側がレイジング業界に進出するためにパーフェクトを買収した、ってなってるけど…。」

誓雷はニヤリと笑うと、突然人差し指を天に突き出して、ポーズを決めた。

「ライちゃんの目は、真実を見抜くっ!」

「…買収ではない、と?」

「うんにゃ。」

風樹の言葉をさらりと否定すると、誓雷は言葉を続けた。

「買収したのは間違いないよ。でも、企業側の一方的な買収じゃあなかったんだな〜。」

そう言って、マウスを操作する。と、一人の初老の男の画像が映し出された。

「現パーフェクト代表、神凪元次(かんなぎもとじ)。一年前に就任して以来、パーフェクトを瞬く間に巨大組織に成長させたカリスマ。…っていうのが、世間の認識。でもねぇ…。」

誓雷は言葉を切って、ふぅ、と、溜め息をついた。ややあって、再び喋り始める。

「結局は大企業の金の力を利用した、強引な買収による組織の肥大化に過ぎないのよね〜。しかも買収に応じなかった相手には、強行手段も辞さなかったみたいだし。詐欺やら脅迫やら誘拐やら…まぁ〜、いろんな酷いことやってるんよね。でも、どんなことをやっても、バックの大企業が隠蔽工作を張り巡らせて無かったことにしちゃうし…。厄介な連中だよ。」

「なるほど…相当あくどい連中みたいですね。」

「神凪は超野心家。今、レイジングで頂点を極めることは、ヒートシティ中の注目を集めることになる。そうなれば、名声も金も自然と集まってくる。…欲にまみれた大人は嫌だね〜。あ〜やだやだ。」

汚らわしいものを振り払うかのように首を振る誓雷。風樹も、徐々に真実が見え始めてきた。

「つまり、アウトローが百花の選手を誘拐しようとしていたのは、人質を取って、百花繚乱を強制的に買収し、傘下に組み込むため…ですか。」

「だいたい当たってるかな。…でも、奴らのやることは、もっとえげつないよ。買収して、まだその先があるのよね…。」

そう言うと誓雷はパソコンから顔を上げて、二人の顔を真顔で見つめた。その表情に、ふざけた様子は微塵もない。

「一つ疑問に思わない?なんでその大企業はパーフェクトの悪事に加担しているのか。」

「それは…、パーフェクトがレイジングの頂点に立てば、自分達も甘い汁が吸えるから、では?」

「それもあるね。でも…、もっとわかりやすい理由があるのよ。」

「わかりやすい…?」

「パーフェクトのバックについてる大企業は、正直お金には困っていない。パーフェクトが試合で活躍することで、興行収入やらグッズ販売やら、かなりの金が入ってくるからね。となると、だ。悪事に加担するだけの見返りが、それとは別に存在する!…ってことになるのよね。」

「見返り…。」

「さて、問題です。金以外の見返りとは、一体なんでしょうか?」

「…………?」

「まぁ、悪党の欲望なんて、たいてい金かコレか、だけどね。」

「………女、ですか?」

「そ。正解。…にわかには信じらんないかもしんないけど、パーフェクトの連中はアウトローを金で雇って女の人をさらってこさせたり、詐欺まがいの手口で女の人を騙したりして、その人達を企業の上層部に贈ってたのさ。…好きにしていい女、ってことでね。」

「…外道だ。」

「…まったくですね。」

静かに感想を述べる二人。二人とも口調は冷静だったが、心の内には並々ならぬ不快感が生まれていた。

「…ま、ここまで言えば見せる必要ないかもしれないけど…。一応、証拠。」

そう言ってパソコンを操作する。と、モニターに映像が映し出された。部屋の中を上から撮影した録画映像らしい。電話をかけている一人の初老の男が、映像に収められていた。

「こいつは…。」

「パーフェクト代表、神凪だよ。」

「お前…よくこんなところにカメラ仕掛けられたな…。」

「ライちゃんの隠しカメラテクを、甘く見ちゃダメなのだよ。」

映像の中の神凪は、穏やかな低音の声で何か会話をしている。これだけ見ると、濁った野心の塊な男には見えない。カメラの角度の関係で表情はよくわからないが、そんなに悪人面でもなさそうだ。そういう悪人が、最も厄介なのだが。


やがて、話が終わったらしい。神凪は電話を切ると、部屋の中にいるらしい誰かに向かって喋り始めた。

『百花との契約を急がせるよう伝えておけ。』

「…!」

風樹に戦慄が走った。神凪の声が、電話とはまるで違う雰囲気に変わっていたからだ。その声は、冷酷な野心家、そのものだった。

『金づるは一刻も早く、と言っている。うるさくてかなわん。契約に応じないようなら、手段は選ぶな。いいな。』

「スポンサーを金づる呼ばわりか…。さすが、といったところか?」

やれやれ、といった風に、炎護がつぶやく。そして映像では、神凪が決定的な一言を発していた。

『百花を従えられれば、金づるはいくらでも金を出すだろう。クク…。…ただの女は飽きた。強く、気高く、美しい女を、徹底的に…。が、…クク…希望だそうだからな。』

「………。」

「…ま、そーゆーことだね。」

そう言って、誓雷は映像を切った。モニターが、再びシティの拡大図を表示する。

「…はい。ライちゃんの提供出来る情報は、以上。…以上だけど…」

誓雷が風樹の表情をうかがう。炎護も、さっきから沈黙を続けている風樹を横目で見る。

「ふーリン。まさか、パーフェクトの事務所に乗り込もう…とか、考えてないよね?」

「………。」

「さっきも言ったけど、奴らは自分に都合悪いことは、全部隠蔽してくる。一人で乗り込んだところで、単なる暴力事件で処理されて刑務所行きが関の山。…わかるよね?」

「ずいぶんと親切なんですね。」

「…せっかく出来た新しいおともらちだもん。…なくしたく、ないっしょ?」

「………。」

誓雷の言うことは十二分に理解できる。ただ単に乗り込んだところで、自分が不利になるのは目に見えている。後のことなど気にせずに暴れまくる、というのは、いかに風樹でも躊躇われる行動だった。

誓雷が持つ映像証拠があれば大丈夫かもしれないが、それでは誓雷が警察に捕まる羽目になる。彼は警察に依頼されてカメラを仕掛けたわけではない。あくまでも自分の仕事のためだ。それはつまり、盗撮。犯罪行為だ。ばれれば、無罪とはならないだろう。

(…どうしたもんでしょうか…。)

自分の本心。自分の状況。周囲の状況。様々な現実の中、自分はいったいどうすればよいのか…。風樹は、必死に考えをめぐらせていた。…と、

「…ぉや?」

誓雷が妙な声を上げた。二人がそちらを見ると、誓雷はあざやかなマウス捌きで、次々に映像を呼び出していた。モニターにも、次々と映像が表示されていく。

「…ホントにやりやがったのね…。」

苦々しげに呟く誓雷。

次々に表示される映像には、一人の人影も映っていなかった…。

今回は、ほとんどが説明に終始した感じでしたが…いかがだったでしょうか?いよいよ悪役も本格的に登場です。投稿ペースは遅いですが、また読んでいただけると嬉しいですo(^-^)o

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