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WIND  作者: 暇脳達弥
6/13

第六話「光と風の交錯」

作品内に登場する固有名詞は、現実のものとは一切関係ありません。

風の理。


物体が空気中を動くとき、それに伴って空気も動く。そして動いた空気は、微かな風となる。

その風を鋭敏に感じ取って反応できる反射神経と、体を自在に、しなやかに動かせる柔軟性があれば、前後左右、どの方向からの打撃も、己が体に触れることはない。



光の理。


人間の目で、光の速度を捉らえることは出来ない。目が光を捉らえた時。それはすでに、光が彼方へと通り抜けた後。

人間の動態視力には限界がある。それを凌駕する瞬発力と打撃の速度を持ち合わせれば、一瞬にして相手の懐に入り込み、無数の打撃を撃ち込むことが可能。



(風の理を知る風樹と、光の理を知る誓雷…。この二人が戦ったらどうなるのか。興味があった。)

目の前で戦う二人を、炎護は真剣な眼差しで見つめていた。

(風が光を避け続けるか、光が風を捉らえるか…。どちらにせよ興味深い。)

炎護が見つめる先では、誓雷の打撃が一方的に続いていた。風樹はその打撃の全てを避けてはいるものの、全く手を出すことが出来ないでいる。

(スピードでは誓雷が勝っている。あの速度の打撃を続けられたら、風樹は全力でかわし続けるしかない。下手に攻撃しようとすれば、それこそ一方的な乱打をくらうことになる。)



(…くっ。)

炎護の考えている通り、風樹は攻撃を避けることに全神経を集中させていた。正確には、集中させなければならなかった。

(光の理とは、これほどまでに速いのですか…)

戦いを始めてから数分、誓雷は一切スピードを緩めることなく、打撃を繰り出し続けている。しかも、風樹が右に動けば、その分右に。左なら左に。後ろに跳べば、その分前に跳び、下から抜けようと体を屈めれば、即座に反応して下段への打撃を打ってくる。つまり、風樹の全ての行動に完全に反応してきているのだ。これでは、隙を突いて反撃に転じるのは難しい。

(それでも、どうにかしないと…。守ってばかりでは勝てない…。)

次々に繰り出してくる誓雷の攻撃をかわしながら、風樹は必死に打開策を探していた。



(守ってばかりでは勝てない。だが、攻めている誓雷が優勢かというと、そうでもないようだな。)



(うそうそうそ〜!?なんで一発も当たらないわけ〜〜〜〜!?)

炎護の推察は的中していた。一方的に攻めている誓雷だったが、実はかなりの焦りを感じていたのだ。

レイジスト時代、誓雷は、5分以上試合をしたことがなかった。試合開始直後に相手の懐に飛び込み、何発もの打撃を浴びせて、あっさりと倒してしまう。その辺のレイジストが相手なら、一試合にかかる時間は僅か10秒程度。唯一の強敵である炎護でさえ、5分以内で決着がついていた。勝負は、炎護が勝ったり誓雷が勝ったりしていたが、一つだけ、はっきりした事実があった。


「誓雷の打撃を避けられる相手は存在しない。」


ということだ。


その事実が、今日、打ち破られた。

最初の上段蹴りがかわされたのは、偶然だと思っていた。たまたま相手が運よく体を反らしただけだ、と。だが、何発も打撃がかわされていくうちに、偶然ではない、ということに気がついた。

(これが、風の理を知る者の力だ、っての〜!?)

まるで風が物体を避けるかのように、自分の打撃をスルリスルリとかわしていく。誓雷にとって、自分の打撃が当たらない、というのは、初めての経験だった。そのため、今の彼は少々冷静さを欠いていた。彼のスピードをもってすれば、一旦大きく間合いをとって気持ちを落ち着け、対処方を練る、ということも出来たはずだった。だが、彼はそのまま攻め続けている。なんとしてでも一撃決めなければ気が済まない。そんな、彼の意地のようにも感じられた。


(精神的には風樹の方が優位に見えるが…。さて、どちらがこの膠着状態を崩すのか…)

戦いが始まって、すでに5分は経過している。炎護は格闘技における、ある一つのポイントについて考えていた。

(風樹は、俺と30分以上戦い続けても息も切らさなかった。だが、速攻が信条の誓雷にとって、ここからは未知の領域。あいつのスタミナが、あとどれだけ続くのか…。)

スタミナが切れれば、打撃の速度も、身のこなしも、頭の回転も、全てが鈍る。抜群のスタミナを誇る風樹と、スタミナに関しては未知数の誓雷。両者の差は、さらに数分後に現れた。



(…やっばぁ…)

ずっと高速で打撃を打ち続けていた誓雷だったが、ここにきて、徐々に全身に重さを感じ始めていた。打撃の速度は維持できているものの、このままでは、いずれ打撃も動きも速度が鈍る。そうなれば、間違いなく付け込まれる。

(もぅ〜〜〜〜!なんで当たんないんだよぉっ!)

すでに100発以上繰り出している打撃が全てかわされている事に、自身のスタミナ切れの焦りも加わって、誓雷はかなり苛立っていた。それを見逃す風樹ではない。

(…打撃が荒っぽくなってきていますね。集中力が切れてきているのでしょうか…?)

打撃を次々にかわしながら考えをまとめると、風樹は大きく後ろに跳びのいた。当然、誓雷も大きく跳び、ぴったり間合いを詰めてくる。

(…!)

風樹は着地と同時に回し蹴りを繰り出した。この戦いで、風樹が初めて打った打撃。その一撃は、跳び込んでくる誓雷を正確に捉らえていた。

(わわっ!?)

突然の蹴りに慌てる誓雷。普段の彼なら難無く捌けていたはずだが、集中力が途切れている今の彼では、ギリギリでガードするのが精一杯だった。打撃を打ち続けて疲労した腕に、鞭で打たれたような乾いた衝撃が走った。

「…ぐっ!」

顔をしかめる誓雷。ずっと動き続けていた彼の足が、ここで一瞬止まった。

そこへ風樹が打撃を畳み掛ける。左右のロー、ミドル、ハイの蹴りを変幻自在に打ちわけて、誓雷のガードを揺さ振っていく。

(もう少し、追い詰めなければ…。)

今は体力的にも精神的にも、完全に風樹が優位に立っていた。しなやかで鋭い蹴りを休む事なく繰り出し続けながら、風樹は冷静に機を待っていた。

(あ〜〜〜〜っ、もぅっ!ムカつく〜〜〜〜!)

一方、上に下にと蹴りを打ちわけてくる風樹に、誓雷は苛立ちを抑え切れなかった。もっとも、それは風樹の狙い通りだったのだが。

十数発目かの風樹の蹴りを強引に押し返すと、誓雷は反撃の拳を繰り出した。狙いは、風樹の腹部。彼自身は普段通りに打ったつもりだったのだろう。だがその一撃は、風樹にとっては充分過ぎるほど隙のある一撃だった。

(…っ!!)

誓雷の拳と風樹の拳が交錯する。それはそのまま、二人の狙った場所へとに打ち込まれた。



(相打ち狙いか…。理を持つ相手でなければ、絶対に選択しない方法だな。)

目の前の二人の姿を、炎護は静かに見つめていた。

決着はついた。二人とも、立ってはいなかった。風樹は腹部を押さえて片膝をつき、誓雷は大の字で天を仰いでいた。

(…ぅっ…、やっぱり打たれ弱いなぁ…私。)

誓雷に拳を叩き込まれた場所に激痛が走っている。打撃の速度は確実に落ちていた。それで、この痛みだ。もし、誓雷の万全な状態での打撃を受けていたら。そう思うと、ぞっとする。

(今思えば、避けてから打った方がよかったでしょうかねぇ…やっぱ。でも、それだと確実に倒せることが出来たかどうか…。)

痛みを感じながらも、あれこれと考える風樹。改めて、理を知る者と戦う事の難しさ、恐ろしさを知ったようだった。

(………。)

一方、誓雷は大の字に倒れたまま、ぼんやりと、枝葉に覆われた空を見ていた。こめかみがズキズキして、視界や意識も、まだはっきりしない。

(…試合なら、レフリーストップかフォール負けか…どっちにしても、負けかぁ…。)

ぼんやりと天を仰ぎながら、ふと、そんなことが、頭をよぎった。そんなことを考えた自分に、かすかに苦笑いをする。

(…空が、見えないねぃ…ここは。)

密集した枝葉たちの中、誓雷はぼんやりと、空の青を探していた。




「ぷきゃ〜〜〜〜〜♪。この一杯のために生きてますなぁ♪。」

「…オヤジか、お前は。」

10分後、すっかり回復した様子の誓雷に、呆れ顔の炎護。さっきまで戦っていた人物とは思えない程の回復っぷりだった。

「栄養ドリンク一本で、よくそこまで回復できるな、お前。」

「回復の速さも、戦う者にとって大切な要素でぷよん♪。」

そう言うとスクッと立ち上がり、明後日の方向にビシッとポーズを決めた。

「肉体疲労、滋養強壮に、リポナミンケル!」

「…何をしている。」

「いや〜ん。そんなドライにつっこむなんて、イ、ヤ、♪。」

「やめろ、気持ち悪い。」

眉間を押さえ、フゥと溜め息をつく。その後ろでは風樹が、

(…思ったよりも効果あるかも…。)

とか考えながら、栄養ドリンクをちびちびと飲んでいた。


「しっかし、あれですにゃあ〜。さすがはえんタンのおともらち、って感じ?強いやねぇ〜♪」

一息ついたところで、誓雷がニコニコと話し掛けてきた。風樹も、それに笑顔で返す。

「いえ、勝敗は紙一重でした。運がよかっただけですよ。」

「謙虚さんですねぃ♪。…そいえば、まだ名前聞いてなかったでぷ。お名前教えちくらしゃいなん♪」

「…。樹風風樹といいます。」

一瞬、名乗ることを躊躇った風樹。名前を教えたらどうなるか、なんとなく想像がつくからだ。だが、誓雷には悪意があるわけではないし、教えないというのは失礼だろう。

「ほぉほぉ…。」

誓雷は少し考える風をしてから、満面の笑みを浮かべた。

「よろしくねっ!ふーリン♪。」

(…やっぱり…。)

風樹は内心深い溜息をついた。誓雷が普通に名前では呼んでこないであろうことは、えんタンの時点でわかっていた。あだ名をつけられるのは別に嫌いではないが、20代半ばを過ぎた今、そのあだ名はやはり抵抗があった。

「いい名前をもらったな、ふーリン。」

「…まったくですね。えんタン。」

「これでふーリンもライちゃんのおともらち〜♪」

誓雷はそう言うと、木陰に置いてあった荷物をひょいと担ぎ、少々テンションの低くなった二人に声をかけた。

「じゃあ、依頼料もばっつり払ってもらったし、そろそろアジトに行くべ♪」

「アジト?」

「ふふ〜ん♪。ライちゃんの、驚き桃の木情報秘密基地〜♪。おともらちは、特別にご招待〜♪。」

歌うような物言いで喋りながら、誓雷は森林公園を奥へと歩いていく。

「知りたいこと、ばっつり教えちゃうでちよん♪」

そう言う誓雷の顔は、実に楽しそうだった…。

ちょっと時間がかかってしまいましたが、書き上げることが出来ました。読んでくださって、感謝です♪。今回はバトル主体でしたが、うまく表現出来ていましたでしょうか…(^.^;)。次回もまた読んでいただけると嬉しいですo(^-^)o

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