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WIND  作者: 暇脳達弥
3/13

第三話「気楽なる救いの風」

この作品に登場する固有名詞は、実在のものとは一切関係ありません。

アウトロー。

ルールの枠から外れ、好き勝手に生きる者たち。

レイジストの中にも、アウトローと呼ばれる者たちが存在する。

彼らは公式にレイジストとして認められていない者や、レイジストとしてのルールを破ったレイジスト崩れたち。

公式には禁じられているストリートファイトを平然と仕掛け、中には恐喝や窃盗を行う者までいる。

ここ数年で一気に増加したアウトロー達。その背後に存在する、何者かの影。その姿は、まだ見ることはできない…。


「…近いですね。」

「わかるのか?」

「走ってる足音がなくなりましたから。身を潜めたか、袋小路にでもつかまったか…。」

「よく聞こえるな。」

風樹の聴力に、炎護は素直に感心した。いくら周囲が静かだとはいえ、自分達の足音と紛れてわからなくなりそうなものだが…。

「さて、と。」

改めて周囲を見渡してみると、この辺りは住宅街の外れ辺りらしい。とはいえ、半分以上スラム化しているような雰囲気で、決して居心地がいいとは言えない。かなり細い路地が、何本も交錯している。

「あの女がこの辺りに詳しければ、上手く隠れられているだろうな。」

「詳しくなければ、確実に迷ってるでしょうね。」

「お前はこの辺りには詳しいのか?」

「子供の頃、よく探検に来てましたから。あの頃は、アウトローなんて少なかったし…。」

「…そうだな。」

最近、夜の10時にもなると、住宅街の辺りに歩いている人影はない。こんな時間にウロウロしていたら、アウトローに、襲ってください、と、言っているようなものなのだ。街の住民は出来るだけ早く家へと帰り、遅くなってしまった者は、人通りが多く、賑やかな繁華街で朝まで過ごす。そんな生活リズムが浸透していた。

「繁華街のカプセルホテルは連日満員だそうだ。」

「へぇ…。」

いつの間にか話が他愛もない雑談になっていた、その時。

「………。」

風樹が不意に沈黙した。炎護に、静かに、のサインを送ると、静かに目を閉じ、耳をそばだてる。

……やっとつかまえたぜ…

…その先は袋小路だ。逃げても無駄だぜ…



「……左の路地…袋小路になっている道……。…あそこか。」

「聞こえたのか?」

「ちょっと急がないと、やばいかもしれませんね。」

それだけ言って、風樹は走りだした。炎護もその後を追う。



「…いるか?」

「…ええ。」

声を追った二人は、目的地の手前の角で様子をうかがっていた。角からそっと覗き込むと、うっすらと男二人のアロハが見える。その向こうには、逃げていた女性がいるのだろう。追い詰めた、という余裕からか、男達は、一気に襲い掛かろうとはしていない。風樹達にすれば好都合だったが。

まだ多少余裕はある。風樹達は男達に感づかれないよう、耳打ちで会話を始めた。

(私一人で行きます。炎護はここで待機していてください。)

(何故だ?)

(かなわない、と考えて、人質をとられてしまったら厄介ですから。)

(…なるほどな。)

炎護は、すぐに風樹の意図を理解した。レイジング選手ではない風樹と、すでに百試合以上をこなした一流レイジストの炎護。実力的には拮抗している二人だが、知名度には雲泥の差がある。当然アウトロー達の間にも、炎護の顔や実力は知れ渡っている。

たいていのアウトローは、彼と真正面から戦おうとは思わないだろう。ならば、どうするか。真っ先に考えられるのが、女性を人質に取って脅しをかけてくる、ということ。そうなってしまうと、迂闊に手が出せなくなってしまう。

その点、外見が細身で無名な風樹一人で行けば、人質を取られる可能性は低い。風樹が男達をうまく女性から引き離すことが出来れば、救出は出来たも同然だ。


(では、行きます。)

(あぁ。お前なら心配はないとは思うが、油断はするなよ。)

(了解〜。)


ニコリと軽く微笑むと、風樹は角を曲がって男達に近づいていった。


「へへ…手間かけさせてくれたな。でも、もう終わりだぜ。」

「こんな時間に一人でうろついてた、自分が悪いんだぜ。」

迂闊だった…。目の前の男二人を睨み付けながら、女は唇を噛んだ。何故、この時間の外出を大丈夫だと思ってしまったのか。

自分はレイジングの選手で、少なからず実力がついている…。その過信が招いた事態だった。冷静に考えれば、アウトローもレイジストとしての実力を持っている者が多い。あの時、もう少し冷静になっていれば…。悔やんでも悔やみきれない。

「さぁて。こいつを連れてけば俺達の仕事は終わりだ。…けどなぁ。」

「けど、なんだ?」

問われた男は、ニヤリとして言葉を続ける。

「連れてこい、って言われてるだけだからなぁ…。…連れて行きさえすれば、何したって文句は言われないよなぁ?」

「…なるほどなぁ。」

男の考えが飲み込めたらしい。もう一人の男も野卑な笑みを浮かべた。

「こんなにてこずらせてくれたんだ。少しくらいお楽しみがあっても…いいよなぁ!」

女の顔色がサッと変わった。体が内側から震えてくるのが、はっきりとわかる。自分がこれから何をされるのか。それがはっきりとわかったからだ。

口元に卑猥な笑みを浮かべ、二人が一歩、また一歩と近づいてくる。逃げようにも、背後は壁。登れるようなものもない。…完全に、逃げ道はない。

体の震えが止まらない。恐怖のあまり喉に声がつまり、助けを呼ぶことも出来ない。涙を堪えて、相手を必死に睨み付けるのが精一杯だった。

「へへ…。こいつ、着痩せするタイプかなぁ?」

「さぁなぁ?実際に調べてみるしかねぇなぁ。」

「じゃあ、俺は上を調べてみるぜぇ。」

「俺は下だな…ひひ。」

悪夢だった。いや、夢ならどれだけ救われただろう。目の前に迫る悪夢は、紛れも無い現実だった。

自分は今から全てを剥ぎ取られ、女性として、最悪の苦痛を味わう…。

堪えていた涙が、一気に溢れ出た。立っていることが出来ない。ガクリと膝をつき、うなだれる。涙がポタポタと、古びたアスファルトを濡らした。



「そんなことしちゃ、いけないんですよ〜?」



まるで緊張感のない声が聞こえたのは、その直後だった。

声の方へと顔を上げる。二人の男も声の方を振り向いていた。

涙で滲む視界の中に、細身のシルエットが映し出されていた…。

読んで下さってありがとうございました♪。どうにか第三話までやってまいりました。次回はいよいよアウトローとのバトル…ですが、バトルよりも、アウトローをおちょくるシーンの方が多くなる予定です(^.^;)。よろしければ、また読んでいただけると幸せです♪。

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