第二話「闇夜を裂く風」
この作品に登場する固有名詞は、現実のものとは、一切関係ありません。
理
そうなるべき物事の道理。理を知り、それを体言できれば、彼方までも道は開ける。
戦いの世界でも、それは同じこと。
「………。」
「どうした?」
「いえ…。変わらないなぁ…と思って。」
周囲を見渡しながら風樹は答えた。かつて自分が暮らしていた街の景色。それは、5年の歳月が経った今でも、変わらずに風樹を包んでいた。
「そうだな…。」
だが、それに応える炎護の言葉には、多少の憂いがあるようだった。外から見ただけではわからない、何かが変わってしまっている。そう言いたげな言葉。
「…ま、本質は変わっていない、かな。」
「…?」
怪訝な表情をする風樹に、気にするな、と笑うと、炎護は先を歩いていった。
(何か変わったんでしょうか…。)
もう一度辺りを見渡すと、風樹も後を追った。
夜10時。
繁華街は人でごった返している時間帯だが、彼らが歩いている場所はまるで別世界。し…ん、と、静寂に支配された世界。
閉店時間間際の定食屋で適当に夕食を済ませると、二人は夜の公園にやってきた。二人以外に人影は無い。外灯の明かりが、ぼんやりと公園の闇を照らしていた。
「…懐かしいですね。」
「そうだな。」
感慨深げに、ゆっくりと歩く風樹。彼にとって、ここは決して忘れてはならない場所だった。
「ここでお前のトレーニングをしていた時は、まさかここまで強くなるとは思わなかったな。」
「炎護のトレーニングを受けたからこそ、今の私があるんですよ。」
当時を懐かしむように、一歩一歩歩いてゆく。この場所は、当時はまだ格闘技の素人だった風樹を、炎龍党の所属選手だった炎護が鍛えていた場所だった。
強くありたい。自由に、自分の意志を貫くためにも、強くなければならない。
レイジングの選手として世に出るためではなく、純粋に自分の気持ちに嘘をつかないため。そのために、風樹は力を求めた。そしてそれに応えたのが、幼少の頃から兄弟のように共に過ごし、レイジングの世界で強さを追い求めていた炎護だった。
炎護は自分のトレーニングが終わった後、毎晩のようにこの公園で風樹を指導し、鍛え上げていった。炎護の教えを吸収し、風樹はぐんぐん強く成長していく。それでも、五年前に風樹がこの街を出るまで、風樹が炎護に勝てたことは一度もなかったのだが。
「それが、五年で俺を負かすまでに成長するとはな…。俺もお前がいない五年間、サボっていたわけではないのだがな。」
「やっと勝てる見込みがでてきた、ってレベルにたどり着いただけですよ。」
謙遜はもういい、と、炎護は苦笑する。
「さすがは、理を体得した者、だな。」
「それはお互い様でしょう?」
「…気付いていたのか?」
「30分以上、リング上で向き合っていればね。」
静寂が、ゆっくりと時を刻んでいく。旧知の者、わかりあえる者同士の、ゆったりした時間が流れていた。
「………?」
と、風樹が不意に押し黙った。どうしたのか、と、問い掛けようとする炎護を制して耳を澄ます。
「……二つ…いや、三つ。軽いのが一つと、重いのが二つ…。」
「?一体何を…、…!」
訝しげな表情の炎護だったが、彼もまた、はっとした表情になった。彼の耳にも聞こえたからだ。複数の人間が走ってくる足音が。
「吐息が荒い…追われてますね。」
「…聞こえるのか?」
走る人物達の姿はまだ確認できないのに。これも五年間の修業の成果なのだろうか…。炎護が興味深げに問い掛けた時。
公園の前の道に走り込んでくる人影が見えた。
外灯がその姿を一瞬照らす。若い女性だった。上下共白のジャージ姿。レイジングの練習生、といったところか。
彼女が走り抜けてから数秒の間。さらに二人の人影が、足音も荒く走り込んできた。
アロハシャツを着た、体格のいい男二人。いかついチェーンのネックレスが外灯の明かりに鈍く光る。いかにも、という感じのチンピラ風だ。
足音が遠ざかっていく。ややあって、風樹が口を開いた。
「あれは…いわゆる、あれですね。逃げるヒロインを追う敵キャラ、ってやつですね。」
「漫画なら、そうだな。」
「てことは、やっぱり主役が必要ですよね。」
「…手を貸す気か?」
「疼くんですよ。私のお節介魂が。」
「…アウトローどもに中途半端に関わると、後々面倒だぞ。」
「関わるな、と?」
「いや。」
軽く首を振ると、炎護は笑った。
「やるなら、徹底的にやれ、だ。」
「了解〜。」
クスッと笑うと風樹は駆け出した。炎護も後に続く。
「相変わらずのお人よしだな。」
「炎護こそ。」
「若いレイジストを、むざむざ見捨てるわけにはいかんからな。」
「レイジスト?」
「ん…?…あぁ。レイジングの選手の事をレイジストと言うんだ。」
「へぇ〜。」
他愛ない会話を繰り返しながらも、二人はかなりの速度で走り続ける。二人の足音が、闇夜の街を切り裂いて行った…。
なんとか第二話を書き上げることが出来ました…再び読んでくれたことに感謝です。今回からいよいよメインの話に入っていきます。第三話も構想は出来ていますが、文章にするのって難しい…。また、暖かく見守っていただけるとありがたいです。




