表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WIND  作者: 暇脳達弥
11/13

第十一話「殺意と猛き炎」

作中の固有名詞は、現実のものとは一切関係ありません。

「ありがとうございましたっ!」

開口一番、伊吹は勢いよく頭を下げた。相変わらずの元気な律義さだ。

「いえ。」

それに、穏やかに応える風樹。

「礼なら、あちらに言ってください。ね?段ボール魔神さん?」

くすりと笑って誓雷を見る風樹。誓雷はと言えば、自分で着込んだはずの段ボールを脱ぐのに四苦八苦しており、百花の選手達の手を借りて、やっと段ボールから解放されたところだった。

「あ、そうですねっ!段ボール魔神さん、ありがとうございましたっ!」

「…ライちゃんなの〜。」

「自分でそう名乗ってたんだから、いいじゃないですか。」

「うぅ〜…。我ながらベタな名前を名乗ってしまったと、大反省なの〜。」

「へぇ…あなたも反省したりするんですね。」

「どゆー意味ですかのぉ!?ふーリン!」

…なんとも、のんびりしたやり取りが行われていたものである。

ちなみに余談だが、部屋の隅には、散々殴られ、蹴られ、踏み付けられたパーフェクトの男が、ボロ雑巾のようになって棄てられていたりした。


「改めて、お礼を申し上げます。あなたがたがいて下さらなかったら、一体どうなっていたか…。」

百花の代表が頭を下げる。選手達も揃って頭を下げた。

「いえ…、なんだかそう言われると照れ臭いですね…。私達がすんなり行動出来るのも炎護のおかげですし…。…そういえば、炎護の方はどんな状況になってますか?」

「みゅ〜ん、ちょいっと待ってね〜。」

小型モニターを操作する誓雷。程なくして、ジムの様子が映し出された。



「うぉぉぉぉぉーーっ!」

炎護の咆哮がジムの空気を震わせた。

前代未聞のハンディキャップマッチ、「一対十、十連戦」が始まって、20分近くは経過しただろうか。リング上で仁王立ちをしている炎護の全身は、炎のように赤く染まっている。それはまさに、彼の体温の上昇を物語っていた。

そしてリングの外には、幾人もの男達が、所狭しと倒れている。その数は、すでに50人に達していた。

「さぁ、次の十人!さっさと上がってこい!」

「ぐ…。」

炎護の怒声が飛ぶ。数で圧倒しているはずのパーフェクトの選手達は、たった一人の炎護に完全に圧倒されていた。いくら日田炎護でも、一対十を何戦も続ければ、いずれスタミナ切れを起こして動きが鈍り、隙も出来る。そうすれば、数で圧倒するこちらが確実に有利…のはずだった。

だが、50人を倒した現在、いまだにスタミナが切れる様子も、動きが鈍る様子も無い。それどころか、ますます打撃に磨きがかかって来た気さえする。

(人間じゃねぇよ、コイツ…!)

これが、「火の理」を知る男。日田炎護という男の恐ろしさだった。


火の理。


小さな火に適度な刺激を与えると、それは徐々に、大きく、強い炎へと成長していく。大きく、強くなった炎を消し止めるのは、なかなかに難しい。中途半端に風など与えたりすれば、さらに炎を強めることにもなりかねない。


己の身体が熱を帯び、熱き血が全身に廻る。それは、闘争の本能を活性化させ、より鋭い動作と、より強烈な破壊力を生み出す。

あらゆる打撃に耐え得る、強靭な肉体を持つこと。それが出来れば、相手の打撃は全て、己の炎を燃え盛らせるための、風でしかなくなる…。


「どうしたぁっ!!さっさと上がってこい!」

上がってくる気配の無い選手達に、炎護が怒鳴り声を浴びせる。そのせいで、彼らは余計リングに上がりづらくなっているのだが、炎護はそんなこと気にすることもなく、さらにまくし立てる。

「大の男がそれだけ集まって、全員揃って腰抜けかっ!笑い者になりたくなかったら、さっさと上がってこい!!」

「……。」

張り詰めた緊張感がジムの中を支配していた。と、

「…は、はは、はははは、あははははは!」

選手の一人が突然笑い出した。

何事か、と、他の全員が見守る中、ひとしきり笑い終えた男は、不気味な笑顔で炎護を見据えた。

「くふ…もぅ、どうでもいいや。どうせまともにやったって勝てねぇんだからよぉ…。」

瞳が異様な光を宿している。見るからに、まともな精神状態ではない。

「おい、お前ら!」

その男が、周囲の選手達に声をかけた。

「このままやったって、どうせ勝てっこねぇんだ。だったらよぉ…全員で潰してやろうぜ、なぁ?」

「!?」

炎護以外の全員が、その言葉に耳を疑った。全員で、ということは、50人で一斉で襲い掛かること。しかも、潰してやろう、とは…

「このままこいつを帰しちまったら、どのみち俺達は終わりだろ?だったら…口も利けねぇくらいに潰してやらなきゃなんねぇだろ?なぁ?」

「……。」

炎護以外の全員が、複雑な表情で俯いた。誰もが自分達の置かれている状況を理解していた。だからこそ、悩んでいた。が、

「…そうだな。」

誰かがそう言った。それをきっかけに…


…だよな…


…やるしかねぇよな…


…潰さねぇとな…


一つのきっかけで、一気に意見がまとまる。典型的な群衆心理だった。

50人の殺気立った視線が、リング上の炎護に注がれる。炎護はその視線を、険しい表情で見返していた。


「だ、大丈夫なんですか!?いくら日田選手でも、一度に50人の相手だなんて…。」

「…そうですねぇ…。」

心配顔の伊吹。風樹も不安を隠せない。

炎護の強さは知り過ぎるほどに知っているが、一度に50人を相手にしているのは見たことが無い。しかも潰すと言っている以上、相手は手段を選ばずに襲い掛かってくるだろう。例え勝てたとしても、無傷、というわけにはいかないのではないだろうか…。

不安な空気が地下室を支配していた。が、そんな中でただ一人、誓雷だけは少し違っていた。

「…あ〜あ。」

「…誓雷?」

「ん?どったの?」

「あ〜あ…、って、どういうことですか?」

「パーフェクトも終わったな〜…と思ってさ。」

そう淡々と喋りながら、誓雷はチラリと風樹を見て言った。

「ふーリンならわかるんじゃない?理を知る者が、理性を捨てて戦ったらどうなるか…。」

「あ…。」

風樹は、はっとした。理を知る者だから、すぐに気付いた。

どんな種類の理であれ、知る者となるまでには、想像を絶する修練が必要になる。それ故に異常に強いのだが、現実世界では、強すぎるのも問題である。

理を知る者が理性を捨てて全力で戦えば、おそらく、相手は死ぬことになる。

理を知る者同士で戦うときも、本能は抑えて戦わなければならない。風樹と誓雷が戦った時も、最後はどちらが冷静さを保てたかが、勝敗を分けた。もし互いに全力を出していたら、どちらかが死んでいたか、制止に入ったであろう炎護が死んでいただろう。

それほどに、危険さを孕んだ力なのだ。


「ま、あの感じのシチュエーションなら、半殺しくらいで済むんじゃない?」

そう言って、誓雷はモニターを全体図に切り替えると、ポンッと風樹に手渡した。

「じゃ、ふーリン。このコたち、ちゃんと送り届けてあげてねん♪。」

「あなたは?」

「ちょちょ〜っと、ね♪。細工をしてこようかな〜…って思って。」

「…。何をするかは知りませんが…面白いことになるんでしょうね。」

「あい♪もちろん。」

ニカッ、っと笑うと、誓雷はひょいひょいとドアまで跳ねて行き、

「終わったら炎龍党のジムに行ってるからねん♪」

そう言って、さっさと出ていってしまった。

「あ、あの…、本当に大丈夫なんですか!?日田選手も月代さんも…。」

「まぁ…大丈夫でしょ。」

伊吹の不安をサラリと受け流すと、風樹もスタスタとドアへと歩いていった。

「私達も参りましょうか。彼らがせっかく作ってくれた時間、無駄には出来ませんから。」


読んでいただき、ありがとうございましたo(^-^)o。予定ではそろそろ終わるはずだったのに、書きたいことが書いてるうちに大きくなってしまいました(^.^;)。もうすぐ最終話です。次回も、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ