第十二話「それぞれの帰還」
作中に登場する固有名詞は、現実のものとは、一切関係ありません。
「……。」
パーフェクト、オフィスビル最上階。ここは、代表の神凪の部屋。神凪は少しイライラしながら、百花繚乱の代表がやってくるのを待ち続けていた。
報告は受け取った。百花繚乱、代表含めた全員を連れてくることに成功した、と。だから、全員を一時地下室へ入れておき、代表のみをここへ連れてくるように、と、指示を出した。
スムーズに事が運んでいるなら、もう来ていてもおかしくない時間だ。だが、来ない。連絡もない。
「…遅い…!」
イライラが募る神凪。彼が座っているデスクには、すでに契約書が置かれており、契約が済み次第すぐに連絡が取れるようにと、パソコンの電源も入れられていた。
「まったく…何をしているのだ…。」
イライラしながらも、自分で動こうとはしない。この傲慢と怠慢が彼自身を滅ぼすことになるとは、彼はこの時、全く考えてはいなかった…。
そのころ、彼が待ち続けている百花繚乱の代表は、というと…。
「…なんとか無事に帰ることが出来そうですね。」
車窓からの風景を眺めながら、安堵した表情で、そう呟いていた。
あの後、地下室を脱出した風樹と選手達は、誓雷から渡されたモニターの地図を使って外へと脱出。炎護のお陰で誰とも遭遇することなく、無事に逃げることが出来た。
その後、代表が贔屓にしているというタクシー会社に連絡を取って、10台ほどタクシーを呼び、百花のジムへと向かった…というところだった。贔屓のタクシー会社があるとは、さすがは名家の出、である。
風樹はといえば、百花のジムへと向かう途中に炎龍党のジムの側を通る、ということだったので、代表と伊吹が乗り込んだ最後尾のタクシーに、便乗して乗せてもらっていた。
「ホントに…。なんとかなってよかったです。」
「日田さんがお戻りになられたら、改めて御礼に伺いますね。」
「ご丁寧に、ありがとうございます。」
相変わらず、照れ臭そうに返事をする風樹。別に礼を言われるようなことはしていない、という感覚なので、礼を言われるのがなんだか気恥ずかしいのだ。
(炎護も同じ気持ちだと思うんですけどねぇ…)
などと、勝手なことを考えたりもしていた。
「それにしても、すごいです!」
突然、伊吹が風樹にそう切り出した。
「日田選手だけじゃなくて、月代さんとも知り合いだったなんて。やっぱり、強い人には強い人の友達が出来るんですねっ!」
「まぁ、誓雷は炎護の紹介ですけどね。」
「それにしたって凄いと思います!…でも、私、勿体ないと思います。」
「何がですか?」
「日田選手も月代さんも、レイジング界では超有名なんですよ?そんな二人と友達で、しかも凄く強い樹風さんが、レイジストじゃないなんて…。凄く勿体ないと思います!」
「………。」
「もし樹風さんがデビューしたら、あっという間にトップレイジストですよ!驚異の新星として大陸中から注目を浴びて、世界中にその名を轟かせる。そして、ついには日田選手との頂上決戦!この一戦を一目見ようと、世界各国から人が押し寄せて…」
「…三奈風さん。」
一人、想像の世界で興奮している伊吹を、風樹が冷静に制した。
「え…。…あぁっ!!す、すいませんっ!私、なんか一人で勝手に盛り上がっちゃって…。」
「面白かったから許します。」
「はい!ありがとうございますっ!」
「……。」
ちょっとした皮肉のつもりだったのに、真正面から受け止められてしまった。
(どこまでも律義で真っ直ぐですねぇ…。)
ふぅ、と、息をつくと、風樹は少し真剣な顔になって喋り始めた。
「三奈風さん。私はレイジストとしてデビューしないと勿体ないですか?」
「勿体ないと思います!」
「じゃあ今の私は、すごいムダに時間を過ごしているんですね。」
「え!?い、いえ!そんなことはないです!」
「でも、勿体ないことしてるんですよね?私。」
「あ、あの!別に勿体ないっていうのは、そういう意味じゃなくって、えと、あの…」
「ふふ…。」
あからさまに慌てる伊吹に、思わず苦笑する風樹。
「ごめんなさい。ホントに素直なんですね、あなたは。」
「え、は、はい!ありがとうございます!」
「…あまり素直過ぎるのも心配ですけどね。まぁ、それはともかく…。私はレイジストになるつもりは一切ありませんよ。」
「なんでなんですか?そんなに強いのに…。」
「私は、他の誰かのために強くなったわけではありませんから。私の力は、私が望むことのためだけに使います。」
「でもレイジングの試合は、別に他人のためにやるわけじゃあ…」
「見世物になるのが嫌なんですよ、私は。」
「見世物って…。」
風樹の言葉に俯いてしまった伊吹。あまりにストレートな言葉にショックを受けたようだ。そんな様子を見ながら、風樹は言葉を続ける。
「私には、ヒーローやスターになりたいという願望はありません。私のやりたいことは、レイジストにならない方が都合がいいですから。」
「…じゃあ、なんなんですか?樹風さんのやりたいことって。」
「教えてもいいですけど、笑ったら叩きますよ。」
「笑いませんよ〜…。」
ちょっとむくれ顔の伊吹にクスリと微笑むと、風樹はその質問に、はっきりと答えた。
その頃、パーフェクトのジム…
ガシャーーーンッ!
「うぉぉぉぉぉーっ!!」
二人の敵をジム内に設置してあった鏡に叩き付け、炎護は咆哮を上げた。それは、戦いの決着を告げる、勝利の雄叫びでもあった。
炎護の全身は真っ赤に紅潮していた。剥き出しになっている腕の所々に、赤黒く変色している部分も見受けられる。凶器で殴り付けられた痕だ。
殺意を持った50人の敵が、素手で向かってくるはずもなく、それぞれに鉄アレイやバーベルを持って殴り掛かってきた。が、それが炎護をさらに燃え上がらせた、と言ってもいい。凶器の嵐を弾き返しながら、相手を殴り飛ばし、蹴り飛ばし、掴んで投げ飛ばしたり叩き付けたり。まさに阿修羅の如くに暴れ回った。
「…………。」
戦いが決着し、少し冷静さを取り戻したところで、炎護は改めてジムの中を見渡してみた。
惨劇がそこにあった。割れた鏡に、散乱するトレーニング機材。そして、所狭しと倒れている100人の男達。全員死んではいないが、死んだかのように、皆、ピクリとも動かない。
「…やりすぎたか?」
ポツリと呟くと、腕の変色した部分をさすりながら、炎護は歩きだした。
「…まぁ、自業自得か。」
風樹達も、もう脱出してるころだろう。炎護は惨劇に背を向けて、ジムを後にした。
同時刻…
「……。」
神凪の部屋。パーフェクト代表の神凪は、呼び出しに応えない携帯電話を切ると、眉間に深い皺を寄せた。ここにきてようやく、外で何かが起こった、と、気付いたらしい。
百花繚乱の代表を連れて来るはずの部下があまりに遅いことに苛立ち、携帯で呼び出しをかけたのだが、全く出る気配がない。当人は地下室でボロ雑巾と化していたので出られるわけがないのだが、神凪にそんなことは知る由もない。
「…なにがあった…?」
さすがに不安になったのか、外へ出ようと椅子から立ち上がった、その時。
「今更心配しても遅いでぴょろ〜ん♪」
「!?」
突然背後からかけられた異様に気楽な声。驚いた神凪が振り返ろうとした、その横顔に、
ボクッ!
「が…っ!!」
誓雷の超高速ハイキックが炸裂した。何人ものレイジストを地に這わせてきた誓雷の打撃である。レイジストの軍団、パーフェクトの代表を勤めているとはいえ、所詮神凪は一般人。耐えられるわけがない。一撃で吹っ飛ばされ、床の上に崩れ落ちた。
「ありゃりゃん?ちょりんとばかし、勢い付けすぎたかにゃん♪。」
倒れた神凪をニコリと笑って一瞥すると、誓雷はパソコンに視線を移した。
「お〜!わざわざ立ち上げといてくれるなんて♪ホントにパーフェクトって親切さん♪」
そう言うと、誓雷は喜々としてパソコンを操作し始めた。手早くファイルを探し出すと、次々に開示していく。
「どこかな、どこかな〜♪大切な、情報どこかな〜♪。」
パスワードもIDも、誓雷の手にかかれば無いも同じ。そして…
「…お♪」
誓雷の口許に笑みが浮かんだ。何重ものパスワードに厳重に守られた一つのファイル。その中に保管されていたもの…。
それは、パーフェクトの裏の記録。八百長試合やスポンサーとの裏取引の記録がしっかりと保存されていた。
「んぷぷ♪。厳重にパスかけておけば、記録は残しておいても安全、ってかい?…あますぎだぴょ〜♪」
神凪がどんな理由で犯罪の記録をパソコン内に保管しておいたのか。そんなことなど、誓雷には興味なし。全ての記録にざっと目を通すと誓雷は、
「うふふのふ♪それじゃあ〜…イタズラさせていただきますのよん♪」
そのファイルをメールに添付し、いずこかへと送信した。
「これぞ、破滅の悪戯…なぁ〜んつって〜♪きゃははははは〜♪。」
ハイテンションに喋りながらパソコンを元通りの状態に戻すと、誓雷は、勢いを付けてジャンプした。その天井には、一箇所だけ、人一人が通れるくらいの穴が開いていた。
その縁に跳び付くと、ひょい、と、体を天井裏へと滑り込ませる。
「じゃ〜あね〜ん♪」
顔だけ出してそれだけ言い残すと、誓雷は、天井裏の闇へと姿を消した…。
いよいよラスト前(予定)までやってまいりました…第一話を書いてから、早三ヵ月…時間かかりすぎかもしれませんね(^.^;)。とりあえず、最後まできっちり仕上げます!次話(ラスト予定)も読んでいただけると嬉しいです♪




