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WIND  作者: 暇脳達弥
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第一話「舞い戻った風」

この作品で書かれている内容、固有名詞、地名などは、現実のものとは一切関係がありません。もし、現実に同じ団体名などがあったとしても、全くの無関係ですので御了承くださいませ(特に「レイジング」なんてホントにどこかにありそうですけど、全くの無関係です。)。また格闘技を扱っておりますので、暴力的な描写が入ることがあります。あらかじめそれをご理解していただいた上で、ご覧くださいませ。

その男の、腰まで届きそうに長い、銀灰色の髪は、邪魔にならないようにまとめられている。

体型は決して逞しくはない。むしろ、痩せ型に近い。

すでに30分は経過している。だが、まだ彼は立ち続けている。

もし観客がいたならば、信じられない光景だ、と思っただろう。

リングの上の二人は、あまりに違い過ぎたから。


「…さすが、だな。」

細身の男を真正面に見据えて、男が呟く。

細身の男とは対照的に、大柄で、筋骨逞しい男。

「それは、どうも。」

ニコリと微笑んで、細身の男が言葉を返す。

「余裕か?」

「それほどでも。」

「謙遜はしなくていい。」

「別にしてませんよ。」

適度な距離を保ちながら、二人は会話を続ける。口元は笑って話しているが、瞳は戦いの光を消してはいない。まだ、決着はついていないのだ。

「………。」

沈黙が流れる。一瞬の間。そして、次の瞬間。

「…っ!」

大柄な男が一気に間合いを詰めた。体格に似合わぬ機敏さで詰め寄ると、休む暇なく拳を放っていく。

「……。」

ごぉっ!という音と共に、拳が虚空を裂いた。だが、これは予想済み。一撃避けさせておいて、狙いは次。

「ふんっ!」

一瞬で体勢を整え、渾身のミドルキックを放つ。

「……。」

が、これも虚空を裂いた。しかも、蹴りが相手を捉らえたと思った瞬間、目の前にいたはずの細身の男の姿は、フッと視界から消え失せた。

「…な?」

一瞬の動揺と硬直。その瞬間、腹部に鈍い衝撃が走った。

「ぐ…!?」

視線を落とした先に、細身の男がいた。マットすれすれにまで体を屈めて蹴りを避け、その位置から、強烈な突きを放ったのだ。通常、踏み込みの効かない体勢から拳を放ってもたいした威力は出ないはずだが、この男は屈んだ状態でも、しっかり踏み込んでいた。驚くべき柔軟性だ。

「……。」

相手がよろけたと見るや、細身の男は、後方のコーナーポストへ跳んだ。男が視線で捉らえた時には、すでにコーナーポストの上から跳び上がっている。そして、

「……っ!」

身構えた時には、両足の裏側がすでに目の前にあった。

「ぐぅ…っ…」

顔面への強烈なミサイルキック。男の巨体は、そのまま後方へと、崩れ落ちていった。


「炎護〜。大丈夫ですか〜?」

気楽な声が耳に届く。声の方に目をやると、細身の男が胡座をかいて顔を覗き込んでいた。

「…あぁ。」

男はムクリと上体を起こした。まだ少し、頭がクラクラする。受け身をとれずに後頭部をマットに打ち付けたのだから、仕方ないが。

「強くなったな。」

「いえ、まだまだです。掴み技が使える戦いなら瞬殺されてました。」

「相変わらず謙虚だな。」

「それほどでも。」

それだけ言って、細身の男は立ち上がった。

「では、私はこれで。」

「風樹。」

行こうとした男を、炎護が呼び止める。

「また、戻るのか。」

「えぇ。」

「もう5年だ。そろそろ帰ってきてもいいのではないか?」

「まだ学ぶべきことがありますから。」

「それほどの腕を持ってして、まだ学ぶ、か。うちの練習生どもにも見習わせなければな。」

「…。」

「お前なら、いいトレーナーになれると思うのだが…。」

「誰かに何かを教えるなんて、私の柄じゃありませんよ。それに、(ことわり)は他人から教わるべきものではありません。」

「…そうか。残念だ。」

そう言って、炎護も立ち上がった。

「約束を果たすために来てくれて、ありがとう。」

笑顔で右手を差し出す。

「えぇ。」

風樹も笑顔で手を握る。先程のリング上とはまるで違う、優しい空気が流れていた。

「さて、もう夜遅い。こんな時間に街を出んでもいいだろう。」

「まぁ、確かに。」

「5年ぶりの再会だ。今日はジムに泊まっていけ。戻るのが明日になっても別に構わんだろう。」

「ん〜…。…まぁ、そうですね。」

「決まりだ。じゃあ、どこかメシ食いに行くか。」

炎護は満足そうに言うと、風樹の肩をポン、と叩いて、ドアへと向かった。

(相変わらずですねぇ…)

満足そうな背中に多少苦笑いを覚えつつ、風樹も後を追った。




東部大陸首都、ヒートシティ。

今、この都市を発信基地に、東部大陸全域にブームを巻き起こしている格闘技、

「レイジング」


打撃系格闘技に、プロレスのエルボー等の打撃技と飛び技を加えたルール。相手を掴んでの攻撃は反則。つまり、投げ、締め、間接技は使用不可能。

試合は3カウントフォール、もしくは戦意喪失によるギブアップ、レフリーストップによって決着。

打撃のラッシュで瞬殺を狙う者。コーナーポストからのダイビング技で華麗に魅せる者。様々なタイプの選手が活躍し、多くのジム、チーム、軍団、派閥が、大陸のあちこちに存在している。


そんなジムの一つ、

「炎龍党」


日田炎護(にったえんご)が代表を務めているこのジムに、旧友、樹風風樹(きかぜふうき)が5年ぶりに訪ねてきた。リングの上で、一対一で戦う。その約束を果たすために。



風は、小さく、穏やかに、だが確実に吹き始めていた。

夜の街に繰り出した二人は、そんなことは気にも留めていなかったが。

読んでいただき、ありがとうございました♪。本作が初作品でございます。つたない部分が多々あったかと思いますが、読んで下さったことに感謝いたします。続きもゆっくり書いていきますので、また読んでいただけると幸福ですo(^-^)o

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