五色糸の伝説 希有の天才
東関大学心理学の講師である白羽三郎は、今世間を騒がしている首切り殺人事件に興味を持って、講師の合間に独自で調べいた。
そんな折のある昼下がり、一人の男が自分が経営している探偵事務所のドアを叩いた。
男は来栖健二と名乗り、自分は二重人格みたいだからそれを調査してほしいという。
白羽は指を鳴らした、興味を持った時の彼の癖である。
来栖は今までの事を出来るだけ詳しく白羽に話した。
「分かりました。出来る範囲でやってみましょう。」
白羽はニコニコしながら答えた。
「それと、報酬の方が・・・」と来栖は情けない顔をした。
「大丈夫です、一応大学の講師の合間になりますが、それでよろしかったら小遣い銭で結構ですよ。」
来栖は礼を言うと、手付金ですと言って一万円を置いて行った。
白羽三郎、三十歳独身・・・人は彼を希有の天才と噂する!
青木婦警は優越感にしたっていた。
夢に見ていた私服で、重要参考人を尾行している。
青木婦警は一人悦に入っていた。
尾行していると、来栖はあるビルに入って行った。
「しらほ?・・探偵事務所・・・。」 青木婦警は首をひねった。
”何を頼みに・・・?”
しばらく青木婦警は隠れて待つことにした。
釈放された後、来栖は仕事もせずにブラブラしていた。昼前まで、臨港苑で寝ていて、夜は屋台で一杯の生活だった。
”この男、何かおかしい・・・。”
尾行している、青木婦警の第六感が訴えていた。
”もしかして、来栖が連続首切り殺人の犯人では・・・?!”
もし私が捕まえたら、刑事課への転身も夢ではない。青木婦警はニヤリと笑い、
「女刑事 雪乃 参上!!」
思わず大声を出し、慌ててあたりを見回す青木婦警であった。
来栖は探偵事務所を出ると臨港苑に戻った。
青木婦警は着かず離れず来栖を尾行していた。
♪♪~
青木婦警の携帯が鳴った。電話は小林刑事からだった。
青木婦警は今までの状況と、”来栖が猟奇殺人犯だと思う。”と、自分の考えを小林に伝えた。
「・・・何か証拠でも見つけたのか?」と小林刑事。
「証拠は・・まだ・・・」
「残念だが、公園の首切り事件の犯人は女だ。君にモンタ~ジュ写真は渡してなかったかな?」
「いえ・・まだ・・・です。」と、青木婦警は答えた。
”おんな・・・?!”
青木婦警のなかで、今までの自信が音をたてて崩れていた。
小林はなおも続けた。
「ごみ箱の首切り事件の方は、来栖は死亡推定時刻には身柄を束縛されていた。それに、容疑者が浮かんだ。多分真犯人に間違いはないと思う。」
「・・・・・・・・・。」
「もう今日で、尾行は中止だ。明日からは君は本来の仕事に戻ってくれ。」
そういって、携帯は切れた。
”フ~ッ ”と青木婦警はため息をついた。
”しかし、来栖の生い立ちは異常なものだった。(来栖の)頭の中には生まれて来るはずだった女の脳がはいっている。”
「まさか、女の人格が・・・!?」
声に出して言って、青木婦警は臨港苑を見つめた。
臨港苑の古びた窓から、来栖は口元に獰猛な笑みを浮かべ、青木婦警をなめるように観察していた・・・・・。
話は変わって、少し前に戻ります。
佐古田警部たちが隣町のキャンプ場に向かっていたころ、枡園警部補は激しい吐き気のため一人仮眠室で横になっていた。
”ドグマチールの影響だけではないかも・・・。”
簡易ベッドに身を投げ出したまま、手で胃の辺りをさすった。
苦痛に顔をゆがめながら、メモを開く枡園警部補!
“山岸が殺害されたのは退院2日目・・・しかも暴行を受けた傷は完治しておらず、松葉杖をついての退院であり、本人自らの希望により病院側の反対を押しきってのものだ。
その前の、公園での被害者は岸田杜雄・・・・同一犯か・・?いや岸田と山岸との接点はない。
山岸は、四畳半のアパートを四人の仲間たちと協同で借りているが、実際にはホームレス同然の生活を送っている・・・。
寝ていて3食たべられる病院のほうが居心地はいいはずだ。
山岸の入院中に誰かが尋ねてきた・・・?!
その誰かに会うために、退院を急いだのではないか・・・?そして山岸はその誰かに・・・・・”
すっきりしない頭をもたげ、壁の時計に目をやると針は正午を指している。
胃を押さえながら枡園はベッドから立ち上がった。
“・・もうこんな時間か・・”
枡園は表に出ると 山岸元雄が入院していた国立病院へと向かった。
枡園警部補は国立病院の婦長と話していた。
「山岸さんに来客ですか?・・・いいえ、お見舞いには誰もこられてないと思いますが!?」
婦長はデスクに置かれた”お見舞い記載帳”を開きながら言った。
枡園はもみあげをつまみ、
「では・・同じ病室で親しくしていた人は?」と聞いた。
婦長は左右に首を左右に振った。
「山岸さんと一緒に入院されたお友達が、思ったより重症で個室に移ったため、山岸さんは退院する2日前まで4人部屋に1人でいたんです。」
枡園はうなづいた。
「2日前・・その2日間はだれかと同室だったわけですね。その2日間一緒にいた人というのは?」
婦長は、別のカルテを開きながら少しうんざりした顔を枡園に向けた。
「バイク事故で入院されてた23歳の男性です・・・もともと山岸さんとは離れた病室だったんですが、すごく苦情の多い人で、同室の人のイビキがうるさいとか、他の方の見舞いに来る子供が騒がしいとか・・・とにかく文句ばかりで・・・それで退院まで2日ほどだったんですが、見舞い客のない山岸さんと同室にしたんです。 仲良くしてたかどうかはわかりませんねぇ。」
「名前を教えてもらえますか?!」
枡園は手帳を取りだし婦長が言った人物の名前を控えた。
”勝山誠二”
病院を出ると、枡園は携帯を取りだし、佐古田警部に連絡を入れ、お互いに得た情報を交換するのであった。
「現在勝山誠二の行方は地元警察がさがしている。ああ・・それとまっさん、来栖の様子だが小林君が青木君に確認したところ、別段変わった動きは無いようだ・・・青木君には有力な容疑者が浮かんだので尾行を中止するよう伝えた、我々もあと一時間程で署に戻る。」
佐古田はそう言うと電話切った。
「青木さんが帰って来ないのですけど。」
刑事課のドアが開いて春日主任婦警が入って来た。
午後8時を三十分過ぎている。
「小林君、どうなってるの?」 春日婦警が小林刑事を睨んだ。
小林は首をひねりながら、「まだ、尾行してるのかな・・・?!。」
そう呟いて、小林は携帯を耳にあてた。
” オカケニナッタデンワバンゴウハ・・・・・”
「可笑しいなぁ・・つながらないぞ!?」
「家にかけても、まだ帰ってないそうよ。」
春日の顔は、”青木婦警に何かあったらあなたのせいよ!!”と言っている。
小林は中村課長の方を向いて、困った顔をした。
「勝山の方は気にしないで、臨港苑まで行って見てくれ、来栖に見つかったのかもしれん。」
中村はそう言って「駅にまっさんがいるから、警邏113(パト)で拾って一緒に行ってくれ・・。」と続けた。
「了解!」
小林は捜査本部を飛び出して行った。
「春日君も、あとは任して帰りなさい。」
中村は心配顔で立っている春日婦警に声をかけた。
春日は「よろしくお願いします。」と言って部屋を出て行った。
「よし、では本題に入るぞ勝山誠二についてだが・・・!」
機械的な新藤本部長の声が、刑事課の捜査本部に響き渡った。
青木雪乃婦警が目を覚ましたのは、薄暗い部屋の片隅だった。
意識が朦朧としている!
”ここはいったい・・・・・・そうか!あのとき来栖に見つかったんだ。・・・・来栖は私の顔を知らないし、私が尾行していることも知らないと思ってた・・・いつ何処で気づかれたのか・・・。”
青木婦警は自分の体が動かないことに気づいた、仰向けのまま手足は何かで縛られているようだ。
意識は戻るどころかどんどん薄れていく・・・。
ドン・・バタン・・ギシッギシ・・ギシどこからか物音が聞こえる。
「・・・お前は見せしめだ・・。」
雪乃は薄れ行く意識の中、来栖の中の女の声を聞いた気がした・・・・・・!
翌日、佐古田警部は隣町の警察から”勝山誠二”の身柄確保の連絡を受け駆けつけていた。
勝山は、深夜コソコソとミドリ製紙の寮に戻ったところを、張り込んでいた二人の刑事が取り押さえたということであった。
佐古田警部が立ち会う中、勝山は、特に抵抗もせず取調べは順調に進んだ。
供述によると、殺害方法は佐古田の推理通りウインチを使ったものであり、現場は死体遺棄現場から5キロほど先にある鮮魚市場の跡地と判明した!
流れ出た血液は鮮魚市場跡地にあった工業用水を使い海に流し、くりぬいた眼球および舌の一部は海に捨てた。
山岸がついていた松葉杖を蹴り飛ばし、倒れたところに馬乗りになり眼球をくりぬいた・・凶器は勝山の車に積んであった登山ナイフであった。
痛みに転げまわる山岸を押さえつけ、舌をつまみ出し切断しようとしたが、舌を引っ込める力に手がすべり、右半分だけを切断・・・その後、車に搭載されていたウインチのワイヤーロープを首に巻きスイッチを入れたのである。
殺害理由は、過去に山岸から虐待を受けており、そのときの山岸の目が恐ろしかった・・・それ以来犬でも猫でも目が怖かった・・じっとと見つめられると、背筋が凍るほどの恐怖に駆られ我を失うとの事であった。
佐古田が、後頭部に刻んだ”天罰”の文字についてたずねたが、自分が山岸殺害の前に起こった、公園での首切り事件をニュースで知り、警察を錯乱させるために真似ただけであり、意味は無いと答えた。
公園で発見された岸田杜雄の死亡推定時刻は、午前五時から九時・・・その間の勝山のアリバイは、ミドリ製紙の社長の証言で成立している。
「と、言うわけで・・勝山は岸田杜雄殺害には関与しておりません!」
佐古田警部の報告に、中村課長は咥えた禁煙パイプを上下にゆすりながら言った。
「なるほど・・・しかし、山岸って男もかわいそうな男だな・・・経営してた自動車工場は騙し取られ、女房にゃ逃げられる。ホームレスにまで落ちぶれて、挙句の果てに実の息子に殺されるか!!」
「山岸は息子の誠二が、かわいくて仕方がなかったらしいです。だから余計に厳しく接してしまったんでしょうなぁ。」
佐古田は言った。
「そうだな、しかし模倣犯とはな。同一犯で一気に解決と行きたかったがな!」
佐古田はもじゃもじゃ頭を掻きながら呟いた。
「その、岸田事件なんですが、まっさんは来栖を疑ってるようです。」
中村課長はポケットからタバコを取り出し、咥えていた禁煙パイプをゴミ箱に放り込んだ。
「禁煙はやめだ!イライラしていかん・・・。で、まっさんは何で来栖を?あのモンタージュはどう見ても女だぞ!」
佐古田は首をひねりながら「まっさん、まだドグマチールが抜けてないのかな?!とにかく私もまっさん達に合流します!」と部屋を後にした。
勝山が佐古田警部に取り調べを受けている頃、白羽探偵事務所を来栖が訪ねていた。
「白羽先生はいらっしゃいますか?」
「先生はまだ大学から帰ってないのですが・・・!」
事務所にいた男はすまなさそうに言った。
「あなたは?」と、来栖は聞いた。
「私はこの事務所で雑用係をしている、大場と申します。」
大場は名刺を来栖に差し出した。来栖は名刺をうけとって、「実は、この間頼んだ事は私の気のせいでしたので、もういいですと先生にお伝えください。」
「えっ・・何故です?」
「貴方は死にたいのですか!?。」
「ハッ・・・?!」
大場は意味が分からなかった。
来栖はニヤッと笑いながら続けた。
「とにかく、いらぬ”せ・ん・さ・く”はするな・・・。」
それだけ言うと来栖は、帰って行った。
それから、暫くして帰って来た白羽は、大場からその話を聞くと「面白い・・。」と言ってしきりに指を鳴らすのであった。
青木雪乃は意識を取り戻した。目をあけるときっと病院のベットで、やさしい家族に見守られているに違いない。
雪乃はゆっくり目をあけた。
闇が雪乃の瞳を支配していた。身体を動かそうにも、両手両足を大の字の形で縛られているのか動かない・・・。
雪乃は何とも言えない恐怖を感じた。
雪乃の目が徐々に闇に慣れてきて、頭が動く範囲であたりの様子が見えて来た。どうやら地下室みたいなところで、ベットに荒縄で両手両足を縛られている。
寒さを感じているのは、衣服ははぎ取られ裸同然の姿でベット上で縛られているためだ。
”まだ、結婚前なのに・・・”
雪乃は場違いな事を呟き、思わず笑みをこぼした。
しかし、その笑いは恐怖のひきつりへと変わって云った。
天井から、ボーガンが雪乃を狙っている。
その横には、60:00 59;59 59:58と何やらデジタル数字が数を刻んでいる。雪乃がその意味を悟るのに数分とはかからなかった。
”あの減っている数が00:00に成った時、ボーガンは放たれるのだ。”
「キャーァ!誰かたすけてぇ~!」
雪乃は絶叫した・・・。
57:58・・57:56・・57:55・・・・・。
雪乃は絶叫し、力の限りもがいてみたがどうにもならない。
”とにかく、落ち着いて”
雪乃は自分自身に言い聞かせた。
”でも、さっき聞こえた女の声は幻聴だったのかしら・・・・・ん・・・・幻聴って・・・・?そういえば尾行して居た時に線路脇の献花台に花を供えた来栖は、ぶつぶつと独り言を言ってた。
たしか・・・・あの時はごめん・・・・とかなんとか・・・・! あの時来栖のそばには誰もいなかった。来栖の耳には誰かの声が聞こえてたのか・・・?!。あれは、かすみさんに語りかけてたのか・・・?! ちがう・・・来栖の口からは間違いなく別人の声が出ていた・・・・・女の声だ!”
雪乃は自分のおかれた状況を忘れ、目を閉じた。
”あれはきっと来栖の中の女が幻覚を見せてるんだ・・・来栖の女の人格が、本来の来栖が知ってる女として頭の中に姿を現した・・・。そして少しずつ来栖の頭の中で実体化して、やがて本来の来栖と入れ替わり表舞台に立とうとしてるんだわ。その後、私の横を通り過ぎた来栖は女の人格と入れ替わってたんだ・・・私が振り返った時、そこにいた女は・・・来栖の・・・”
「そうよ!きっとそうよ!」
雪乃は:声に出して言い、思わずガッツポーズをとろうとして縛られている状況を思い出した。
デジタルの数字に目をやると 51:37
「誰かたすけてぇ~・・・!!」
雪乃は力の限り叫んだ!!
来栖が臨港苑から出で行くのを確認した白羽は、枡園の前に立ち、臨港苑の厨房跡の奥にあるドアを指差した。
「ここです!」
枡園はドアを開け中を覗いた。
「おい!地下室があるぞ!」
振り返りもみあげを触った。
小林刑事が、転がっていた椅子を振り上げ、南京錠のかけられた木製のドアに投げつけた・・・2度・・3度・・4度目にドアが壊れ、中から雪乃の叫び声が聞こえてきた。
「誰かたすけてぇ~・・・!!」
枡園は小林を押しのけ「雪乃君!何処だ?」と、階段を駆け下りて行った・・・・。
そこには、ボーガンに狙われた半裸の雪乃が大の字に縛られていた!
階段を下りながら「警部補!青木君無事ですか?」と、駆け寄ろうとした小林に、枡園は「小林君、 ちょっと待て・・・。」と制すと、上着を脱ぎ半裸の雪乃にかけたのであった。
雪乃は顔を赤らめ小さくつぶやいた。
「警部補・・・。」
そのとき、デジタルの数字は 29:01 と表示されていた。
翌日、枡園と青木婦警は署内で白羽と話していた。
青木が二人に、来栖の線路際での行動(来栖の中に別の女の人格が現れ独り言を言っていたことや、結合双生児として生まれたこと)と自分の考えを伝た。
白羽は「私も来栖自身から、自分に二重人格の疑いがあるため行動を監視してほしいと依頼され、あの時来栖についていました。確かにあの時来栖のそばには誰もいませんでした・・・残念ながらあなたと来栖がすれ違った直後、先回りした私は、あなたを襲った人物を見ていないのです。青木さん、あなたを襲ったのは見たことの無い女だったんですね?!」
雪乃は大きな目をクリクリと動かしながら「はい!」とうなずいた。
枡園がファイルから一枚のモンタージュ写真を取り出して「君が見た女というのはこの女ではないのかね?」と、揉み上げをつまむ。
雪乃が手に取り”ハッ!”と息を呑んで言った。
「間違いないです!」
「先生、来栖はいったい何者なんです?」
大場はソファで一服している白羽に向かって聞いた。
雪乃が臨港苑の地下室から助けられた次の日の午後の事であった。
白羽はニッコリ笑い、二、三回指を鳴らすとゆっくりと話し始めた。
「来栖は多重人格者なんだよ、私が調べた限りここに依頼に来た来栖と富士見会と繋がりがあるクルス、そして来栖の人格を乗っ取ろうとしている女性の人格が居ると思われる。」
そこで一度言葉を切り、大場を見てまた指を鳴らした。
「あの公園の猟奇殺人の犯人は来栖の女の人格を装った来栖自身だと思うよ・・。」
そう言って白羽はまたニッコリ笑った。
「えっ!ほんとですか?」大場は思わず聞き返した。
「証拠はないが、まず間違いはない。あの公園のすべり台からは、メゾン・ド・ソレイユが見えた・・かすみへの罪滅ぼしに、来栖がやった事に間違いはないと思うよ。」
「先生は、もう全部分かっているのですか?!」
「分かっているつもりだよ、でも、この事件は遅かれ早かれ警察によって解決されるだろう。」
そう言って、白羽はソファから立ち上がり窓から外を眺めた。
「事件の背景には、来栖の出生地にまつわる五色糸と云う伝説が関係している。」
そう言って、白羽は一冊の本を大場の前に置いた。
表紙には秋田の”なまはげ”のようなイラストが描かれ、見出しに小さな文字で”日本の伝説・おらが村の言い伝え”と書かれてあり、その中央には大きな文字で”むか~し、むかしのことじゃった”とタイトルが書かれている。
大場はその本を読み始めた。
”むかしむかし、とある山村で次々と結核患者が現れた!
村人たちは病がうつるのを恐れ、結核患者たちを山中の山小屋に隔離した。当時は医療技術はおろか、薬さえもない。
患者たちはただひたすら神に祈り死をまった。
こうして村人たちは病から逃れ、村には平和が訪れたかのようにおもわれた・・・しかしその時を境に、山村では作物は不作となり家畜は次々と死んでしまい、村人たちは明日の食料にも事欠くようになったのである。
その時、村人たちの前に一人の僧侶が現れた!
「この村には魑魅魍魎が漂っておる。」
僧侶は山を指差して言った。
「元凶はあの山にある!ただちに山小屋を取り壊し、そこに寺を建てるのじゃ。」
村人たちは寺を建て、結核に苦しみ死んでいった者たちを弔った・・・。
僧侶の読経とともに死者たちの塔婆からいくつもの白い煙が立ち上ぼり、互いに絡み合い・・・やがて一本の煙柱となり、しだいに龍へと姿を変えたのである。
龍へと姿を変えた死人の御霊は村人たちを見据え、大きく口を開き黄金の玉を吐き出した。
村人たちから驚きの声が上がる中、龍は再び煙柱となり天高く舞い上がり消えていったのである!
僧侶が玉を手に取り村人たちに掲げて見せた。
それは幾千もの糸が絡み合い玉のように見えた物・・・・僧侶は絡み合う糸を丁寧にほぐし、木箱に入れた。
「村人たちよ!邪悪なるものたちは立ち去り此処に五色の糸が生まれた・・・これより自身の手で5本の糸を取り護符に収めるのじゃ。さすれば村人たちに平穏な日々が訪れる・・だが決して、たがうべからず。糸が5本より多かれど少なかれど、災い来たる!!」
僧侶の読経の中、村人たちは順番に5本の糸を取り護符に収めていった。
村人たちがすべて取り終えたとき、僧侶も読経を終えた。
「これより先、新しい命の宿るとき、妊婦は生まれ来る子のために、此処に来たりて五色の糸を護符に収めよ!」
村人たちは、手を合わせ祈り続けた。
その後僧侶は寺に住み、その生涯は200年を超えたと言われている・・・!
むか~し むかしの事じゃった!”
「そう言う事なんだよ」
読み終えて、ポカ~ンと口を空けている大場の肩をたたいて、白羽はにっこり笑い、奥の部屋に消えて行ったのであった。
五色糸の伝説 希有の天才