討伐が間に合わず犠牲者が出た…落ち込む俺達。
死霊屋敷に着くと工事をしている人達は撤収し、四郎が暖炉の間で運転免許学科試験の問題集を読み込んでいた。
「四郎、お疲れ様。
工事の人達は帰ったみたいだね。」
「おお彩斗、先ほど皆帰ったな。
ところでこの問題集だが…どうも悪意を感じる問題が所々にあるな。
先ほども酷い問題に引っかかって思わず悪鬼顔になる所だったぞ。」
「四郎、そうなんだよ。
意外と学科の引っ掛けに会って落ちる人もいるからね。
そう言う罠に引っかからないようにしないとね。
それと、試験場で四郎が悪鬼顔になったら大騒ぎになるから気を付けてね。」
「うむ、判った。」
「ところで四郎、ひょっとしたら後から真鈴とジンコ、はなちゃんも一緒だと思うけど死霊屋敷で泊まり込みで勉強会やるんだってさ。
良かったらトレーニングを一緒にしない?」
「おおそうだな、ジンコも結構、加奈達とトレーニングを重ねて上達したと聞いているし、久し振りにわれもジンコの上達ぶりを見たいな。」
「そうだね、しかし食べ物あったかな?」
「安心しろ、景行が作業員用の賄に食材を結構ため込んでいるんだ。
今日はそれを少し拝借しよう。」
「オッケー。」
俺と四郎で夕食の準備を済ませようとした時を見計らって真鈴のボルボがやって来た。
「なんかタイミング良いな。」
俺はゲートを開けながら呟いた。
「おおかた、食事の匂いにつられて来たのだろう。」
四郎は肉を焼きながら答えた。
「あれ?
彩斗達も泊まる?
私達テスト勉強追い込みだけど。
トレーニング付き合っても良いよ。」
と言う訳で俺と真鈴とジンコ、そして四郎と屋根裏に上がり。
ナイフトレーニングから始めた。
確かにジンコは上達著しいと思った。
俺は1対1のトレーニングでジンコに5回に2回くらい遅れを取った。
「彩斗、この中で一番悪鬼を始末しているお前が情けないな。」
四郎が槍の練習用のゴルフボールを紐の先端につけた短い竿を頭と両腕につけながらへらへらと笑った。
「四郎、ジンコはナイフの素質があるんだよ。
でも、槍なら俺がこの中で一番さ。」
「ほう、では証明してもらおうか。
彩斗から来い。」
俺は四郎が揺らすゴルフボールを槍に見立てた棒で突いた。
最近四郎の動きが早くなったと思いながら、10回に3回ほどはゴルフボールのど真ん中を貫く事が出来るようになった。
「言うだけの事はあるかな。
なかなか素早く正確になったな。
後は突いた後に素早く体勢を立て直して再び攻撃体勢を作る事を考えろ。
何度も言うが一撃で悪鬼を倒すのは難しいぞ。
あるいは突いた後にそのまま突き進み悪鬼の態勢を倒して地面にくぎ付けにするとかな。
よし、次は真鈴だ。
来い。」
真鈴は四郎に向かって突き進み、3撃目でゴルフボールを突き、そのまま四郎の足に足払いを掛けて四郎のバランスを崩そうとした。
「四郎、こんな感じかしら?」
「そうだな、そう言うコンビネーションは大事だと思うぞ。
手に持った槍だけが武器ではない。
槍に頼るだけでなく、手も足も、実戦の時に身につけている他の武器も総動員して悪鬼を倒す事を考えるんだ。
ひとつの武器に頼ってはならん。
臨機応変に事態に対処するのだ。
場合によっては手に持った武器を捨てて別の武器で攻撃を続けるくらいの事ができないとな。」
真鈴が一通りトレーニングを済ますとジンコの番になった。
俺と真鈴とはなちゃんが見守る中、ジンコは槍に見立てた棒で四郎が揺らすゴルフボールを突いた。
「ほほう、ジンコは中々早く突くな。
だが、体の動きが直線的で動きを読みやすいぞ。
あまり正直に動かず、そろそろ色々なフェイントなど考えても良いかもな。」
俺達はその後交互に四郎に相手をしてもらい槍の練習をした。
「さて、そろそろ夕食にするか。」
四郎が言い、俺達はダイニングで夕食を摂った。
「あたし達は泊って行くけど、彩斗たちはどうするの?」
「そうだな、明日俺は書類の届け出だとか手続きが多いからマンションに帰るよ。」
「そう、じゃあ、はなちゃんを連れてってもらって良いかしら?
大学に連れて行く訳にも行かないしね。」
「ああ、良いよ。
じゃあ、今日は四郎とはなちゃんと帰るよ。」
「うむ、そうだな明日は景行が代わりにここに来て工事を見るし、われはあの3人組を見張らなければならんし。」
「本当はあいつらを24時間毎日見張らないとね~。」
「なかなかそういう訳にも行かないだろう。
われらは今やる事が多すぎるからな。」
「まぁ、テストが終われば…」
ジンコが言いかけた時、ゲートが開いた。
「あれ?
誰だろう?」
「明石じゃの。」
「はなちゃん、早く教えてよ。」
「済まんの、ついうとうとしてたじゃの。」
「まあ良いわ真鈴、だけど何だろう?」
明石のアコードが停まり、玄関に明石が入って来た。
出迎えた俺達は明石の浮かない表情に嫌な予感がした。
「景行お疲れ。
どうしたの?」
「君らは今日こっちに居そうだと思ったが正解だったな。」
ジンコがじっと明石の顔を見つめた。
「景行…まさかあの3人組が…」
「そうだ、あの3人組が今日の朝方に一人食ったぞ。」
そう言うと明石は悔しそうに壁を殴った。
「…くそ。」
「一人間に合わなかったな.
唯一の収穫は奴らの会話から、奴らが獲物をおびき寄せる手口と、人を食う大体の間隔が判ったと言う事だな。」
俺達は明石と共にダイニングに向かった。
ダイニングに向かう途中、俺は、俺達が動く前に一人犠牲者を出してしまった事を、間に合わなかった事を何とか納得させようと心の中で言い訳を思いつこうとしていた。
24時間見張る事は物理的に無理だとか、確たる証拠を上げる前に急襲して奴らを始末する事は出来ないだとか、警察だって実際に殺人事件が起こらないと動けないとかエトセトラエトセトラ…。
だがしかし、俺達が人を殺して貪る3人組の悪鬼の存在を事前に知っていた事と、実際に新しい犠牲者を出してしまった事を覆す事は出来なかった。
俺達は押し黙ったまま椅子に着いた。
明石はため息を深くついた。
その落ち込む気持ちは俺にも良く判るつもりだ。
残念に思う事は俺たち全員がそうだった。
「もっと早くに…」
「でも、軽く考えて動けないし…」
「そうね、私達は気安く動いて事がばれても…」
「うむ、ある意味仕方が無いかも…。
われらは慎重に準備周到に動かなければ…」
真鈴やジンコ、四郎も自分に言い聞かせるように呟いている。
しかし、犠牲者を出してしまった暗い気持ちは色濃く滲み出ている。
「皆、気持ちを切り替えるしかないわ。」
真鈴が自分に言い聞かすように言った。
「これからこういうふうに間にあわなくなることは有るじゃの。
今回だけの事ではないじゃの。
いちいち落ち込んでいてはきりが無いじゃの。」
はなちゃんが言う通りだ。
今この時も俺達が感知していない悪鬼どもがまだ俺達が判らない所で人間を殺し貪っているのだ。
その全てを事前に食い止める事は不可能な事だ。
俺達に出来る事は質の悪い悪鬼を見つけ、慎重にリサーチして速いうちに、しかし慎重に
世間にばれずに手を打つしかない。
ろくに準備も対策も練らずに動いて無用の危機を招く事は闇に隠れて動かざるを得ない俺達は何としても避けなければならない。
「可哀想だが、われ達も万能と言うわけには行かないしな。」
「今後のやり方は考えて行く事にして、今は次の犠牲者が出ないうちに奴らを討伐するしかないと思うわ。」
「正直俺達の体制はまだ整っているとは言えないしね…気持ちを切り替えよう。
景行、奴らはどうやって犠牲者をおびき寄せるの。」
「うん、彩斗、どうやらあの雑魚の悪鬼の女を使っているらしいな。
あの女が奴らの釣り餌であり、釣り針なんだ。」
続く




